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秋田駅を中心としたまちづくり<br>未来をつくる、駅のこれから(後編)

©SATOSHI ASAKAWA

秋田駅を中心としたまちづくり
未来をつくる、駅のこれから(後編)

移動のための通過点から、「エキナカ」に代表される商業空間を生み出すなどその価値を高め続けてきた「駅」。オフィスワーカー向けの新しいサービスの誕生や地方中核駅を中心とした自治体などとの連携によるまちづくりといった取り組みにより、駅はより生活者に寄り添う拠点へと今も進化し続けている。これから求められる駅とは、どのような姿なのだろうか。

Case1:秋田駅
― 駅周辺にビジネスチャンスを創出 ―

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地元製作所・県の協力により県産材で木質化された待合ラウンジ
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駅を中核にした
コンパクトシティへの挑戦

 2017年、秋田県、秋田市、JR東日本の三者は、秋田市の市街地を大きく変える可能性を秘めた「ノーザンステーションゲート秋田」というプロジェクトをスタートさせた。これは15年9月に三者で締結した「地方創生に向けたコンパクトなまちづくりに関する連携協定」に基づくJR秋田駅を中心としたコンパクトシティの構築に、三者が協力して取り組むというものだ。
 秋田市ではここ30年ほど、商業施設の郊外展開や総合病院の郊外移転などにより、市街地の空洞化が進行してきた。都市機能が拡散したまま、人口減少や少子高齢化が今後さらに進めば、行政の財政面での負担が大きくなり、さまざまな生活サービスを住民にあまねく提供していくことが困難になる。そこで市では、中心市街地および6つの地域を中心に都市機能を集積させるコンパクトなまちづくりを目指しており、今回のプロジェクトもその一環である。

JR東日本の自社用地を
まちづくりに活かす

 このプロジェクトにおいて、JR東日本秋田支社は保有する秋田駅周辺の自社用地を、まちづくりに有効活用しようとしている。
 例えば秋田駅東口では「健康とスポーツを通じて3世代が元気に暮らせるまち」をテーマに、以前は駐車場があった場所に、バスケットボール専用体育館の秋田ノーザンゲートスクエアや、学生マンションを建設。またスポーツに特化した整形外科クリニックも誘致した。秋田ノーザンゲートスクエアは、JR秋田支社バスケットボール部「ペッカーズ」とバスケットボールのプロチームである「秋田ノーザンハピネッツ」の練習拠点となっており、1階には小規模保育所が入居している。
 そして秋田駅についても、秋田市の玄関口としての魅力を高めるために、駅全体をリニューアル。駅を訪れた人に「木の国あきた」を感じてもらえるように、改札内外や自由通路の壁面、待合ラウンジの内装に秋田杉を採用、地元製作所とのコラボレーションで、地域の伝統工芸の技術を活かした木製の椅子や机が置かれている。

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地元製作所・県の協力により県産材で木質化された自由通路
©SATOSHI ASAKAWA

「以前は次の列車を待つための場でしかなかった待合室で高校生が机に向かって勉強したり、お年寄りがロッキングチェアに座ってくつろいでいたりというように、お客さまがそれぞれの時間を豊かに過ごせる場に変わりました」
と、JR東日本秋田支社地域活性化推進室の田口義則室長は語る。

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秋田県が秋田公立美術大学に実証実験を依頼しデザインされた椅子や机
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駅前の公示価格が
27年ぶりに上昇に転じる

 秋田市では、こうして駅と駅周辺の魅力を高めるとともに、市街地活性化を目的として、駅西口から500m程度離れた千秋公園周辺に、美術館や文化ホールなどの文化施設を集積。このエリアを芸術文化ゾーンとする計画を現在進行中だ。秋田市役所都市整備部の根田隆夫部長は次のように語る。
「秋田駅は交通の拠点であり、駅前周辺は商業の中心地です。隣接するエリアに芸術文化ゾーンとして文化の拠点を形成することで、例えば買い物のために駅周辺に来られた方が、用事が済んだらすぐに市街地を離れるのではなく、芸術文化ゾーンも訪ねてみるというように、市街地を回遊することを楽しめる環境を創出したい。そのためにゾーニングを意識したまちづくりを進めています」
 もちろん市街地の活性化のためには、県や市、JR東日本だけではなく、他企業の参画が不可欠だ。そんな中で最近、新たな動きが見られるという。駅前のテナントビルやホテル跡地に再開発を視野に買い手が現れたのだ。
「私どもの手がけてきたことが刺激となって、他の企業も秋田駅周辺にビジネスチャンスを見出すようになってきています」(田口室長)
 駅周辺が変わりつつあることへの期待感から、19年には秋田駅西口前の公示価格が27年ぶりに上昇に転じ、20年も2年連続で上昇した。県、市、JR東日本が一体となって進めてきた秋田駅を中心としたまちづくりは、確実に成果を生み出しつつある。

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駅周辺に建設された、食事付き学生マンション

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駅周辺に建設された、秋田ノーザンゲートスクエア

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根田 隆夫氏
秋田市 都市整備部 部長

田口 義則
JR東日本 秋田支社 総務部 企画室
地域活性化推進室 室長

Case2:JR東日本の目指す「これからの駅」
-- 新たなサービスが変革する駅の価値 --

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3月にオープンした高輪ゲートウェイ駅の外観

玄関口としての役割から
「お迎えする」駅への転換

 JR東日本グループ経営ビジョン「変革2027」では、くらしづくり・まちづくりによる「都市を快適に」、駅の地域拠点化による「地方を豊かに」といった目標を掲げている。その実現のカギとなるのが、お客さまとJR東日本グループをつなげる「駅」の変革だ。実際、どのような駅を目指していくのか。鉄道事業本部営業部の氏森毅次長は、次のように語る。
「これまでの駅は、『鉄道を利用する玄関口』としての役割が主でした。それを意識的に『お迎えする』役割へと比重を変えていく。そんな取り組みを行っています」
 では「お迎えする」とは、どういったことを指すのか。例えば、JR東日本が路線を持つ東北・信越エリアの魅力的な観光資源を磨き上げて情報を発信。それを知り訪れた人にとって、駅は最初の窓口となる場所だ。そうした意味で、単なる玄関口としてではなく、お迎えする役割を担う駅にならなければならない。
「そのために駅社員の役割も変化しています。鉄道の安全・安定輸送を確保することは大前提ですが、『駅を楽しく、魅力的にする』『目的地を創る』といった仕事への比重が増しているのです」

地域に合った「顔」として
お客さまをお迎えする駅

「目的地を創る」ためには、地域の人々との連携が必要だ。JR東日本では、柔軟な発想や新しいことを取り入れられる進取の気性、外に目を向けるオープンな思考を併せ持つ人材の育成に取り組んでいる。同時に社員が積極的に挑戦できる環境づくりも行う。駅が変わるためには、働く人や組織も変わらなければならないからだ。
 実際、駅社員の発案でのイベントも増えている。例えば羽越本線の村上駅では、昨秋行われた「新潟県・庄内エリア デスティネーションキャンペーン」に合わせ、地元・村上市観光協会主催の「村上どんぶり合戦」とコラボした観光ラリーを実施。地元民放局の情報番組への出演など普段の駅業務とは異なる業務にチャレンジした。
「移動の通過点のみならず、その地域に合った、地域の『顔』としてお客さまをお迎えする駅をつくる。この理念のもとに、全ての社員が心を一つにして、業務に取り組んでいければと思います」

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普段と異なる業務に挑戦
村上駅では駅社員自らが「地域にある素材」を探し、各施設と協力しモデルコースを設定。さらに専用パンフレットの作成や運営、宣伝展開も行った

機械化できるサービスと
リアルでないとできないこと

 一方で、従来の仕事の仕組みを見直す必要も出てくる。駅サービスにおける最新技術の導入がその一例だ。3月に開業した高輪ゲートウェイ駅では、これまで人間が担ってきた駅案内や警備、移動支援などのサービスにロボットを導入、検証を行っている。

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自律移動型ロボットによる実証実験を実施
高輪ゲートウェイ駅では、利用者の移動案内や移動支援、清掃を行うロボットを導入し、実証実験が行われている

「きっぷ購入のために駅に行く」「券売機に並ぶ」といった行動も、今年3月に始まった「新幹線eチケット」サービスにより変わることになる。インターネットで予約したチケット情報を利用者のSuicaとひも付けることで、事前に駅に行くことなくシームレスに新幹線に乗車できるようになった。
 チケットレス化の取り組みは新幹線の乗車にとどまらない。バスやレンタカーなど2次交通事業者や宿泊施設と連携したワンストップ型の移動決済プラットフォーム「MaaS」(※)は、伊豆エリアでの「Izuko」、新潟エリアの「にいがたMaaS Trial」など、さまざまな地域で実証実験が行われているが、「新幹線eチケット」との相乗効果で、さらに便利なサービスとなることが期待されている。

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無人AI決済店舗を高輪ゲートウェイ駅に初めて常設
AI技術を活用した無人決済店舗「TOUCH TO GO」をオープン。店内のカメラが利用者の動きや手に取った商品を認識、購入額を自動で算出する

「もっとも、全てを機械に置き換えようとは考えていません。お客さまの気持ちに寄り添ったご案内や異常時の対応など、『リアル』でないとできない業務があります」と氏森次長は語る。
 時代の変化に合わせて変わる駅の役割。定例業務にとどまらない駅社員たちの模索と挑戦は続く。

※ Mobility as a Serviceの略

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氏森 毅
JR東日本 鉄道事業本部 営業部 次長

掲載内容は、2020年3月までに取材を行い、各情報は、5月時点のものです。

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