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働く 集う 和む<br>燕三条地域の工場が抱える課題を解決するビジネスハブ<br>──JRE Local Hub 燕三条

工場のラインをイメージした「JRE Local Hub 燕三条」のコワーキングスペース。約20席が用意されている

働く 集う 和む
燕三条地域の工場が抱える課題を解決するビジネスハブ
──JRE Local Hub 燕三条

2023年2月17日、新潟県燕三条地域の玄関口である燕三条駅構内に、「JRE Local Hub 燕三条」がオープンした。この施設は、金属加工を中心とした「ものづくりの集積地」として知られる燕三条地域の工場と全国の企業を結ぶビジネスマッチングのサポートを目的の一つとして持ち、燕三条地域の産業振興に大きな役割を果たすことが期待されている。

ビジネスマッチングの相談を
気軽にできる施設が誕生

 新潟県燕市と三条市から構成される燕三条地域は、金属加工業を中心に約1,100もの事業所(4名以上の事業所)が集まる「ものづくりのまち」だ。県外からも多くのビジネスパーソンが、商談のためにこの地域を訪れる。
 上越新幹線、弥彦線の停車駅であるJR燕三条駅は、北側を燕市、南側を三条市と両市にまたがる形で存在するが、2023年2月17日、その駅構内(改札外2階)に「JRE Local Hub 燕三条」というビジネスパーソンにとって非常に魅力的な施設がオープンした。この施設には、地元の工場と全国の企業を結ぶビジネスマッチングのサポートと、コワーキングスペースなどのワークプレイスの提供という大きく二つの機能がある。
 このうちビジネスマッチングについては、入り口正面のところに「燕三条こうばの窓口」というスペースが設置されており、燕三条地域の各工場のことを熟知した「ものづくりコンシェルジュ」が常駐。また各工場の事業概要を記したカードや、製品サンプルも置かれている。利用者は予約を必要とすることなく、ふらりと「燕三条こうばの窓口」を訪ね、「こういう技術を持った工場を探しているのだが......」と、ものづくりコンシェルジュに相談することができる。

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駅改札を出てすぐのところにあり、アクセスの利便性が非常に高い

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「燕三条こうばの窓口」には、燕三条地域の各工場のことを知る「ものづくりコンシェルジュ」が常駐する

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「燕三条こうばの窓口」には、燕三条地域の製造業を中心に100社を超える企業が登録。各事業概要がカード化されており、気になる企業のカードはビスで留めて持ち帰ることができる

 燕三条地域には単工程の工場が多く、発注サイドから見れば細分化され過ぎていて分かりにくい面がある。そこで「燕三条こうばの窓口」では、訪問者のニーズに合わせて、「溶接であればA社、研磨であればB社」というように、複数の工場を組み合わせたビジネスマッチングの提案も行っている。
 「燕三条こうばの窓口」の運営を担っている株式会社ドッツアンドラインズ代表取締役の齋藤和也さんは、「新幹線停車駅である燕三条駅は、ビジネスマッチングを行う場として最適だと思います」と語る。
 「燕三条駅は、この地域への出張の行き帰りに、誰もが必ずといっていいほど通過する場所です。そうした中には、仕事を相談するために目当ての工場を幾つか回ったけれども、成約に結び付けることができず、がっかりした気持ちで燕三条駅に戻ってこられる方もいるでしょう。また、常連の取引先との商談のために燕三条駅に降り立った方の中には、『ほかにもこういった技術を持った工場を探しているのだが、なかなか見つからない』といった課題を抱えている方もいるかもしれません。『燕三条こうばの窓口』は、そうした方々に、相談に気軽に立ち寄っていただける存在でありたいですね。駅という誰もが立ち寄れる場所に立地しているからこそ、可能なサービスともいえます」

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株式会社ドッツアンドラインズ 代表取締役
齋藤和也さん

 齋藤さんも話すように、「燕三条こうばの窓口」の特徴の一つが"気軽さ"である。ビジネスマッチングというと、相談する側もある程度準備をした上で臨まなくてはいけないというイメージがある。しかし、「燕三条こうばの窓口」の場合は、手がけてほしい製品の仕様などが定まっておらず、「とりあえず燕三条地域にどんな得意分野を持った工場があるか知りたい」といったニーズでの訪問もウエルカムだという。
 「もちろん、これまでも燕三条地域では、市役所や燕三条地場産業振興センター、三条工業会などがビジネスマッチングに取り組んできました。そこに私たちも加わることで、地元の工場が全国の企業とつながるためのタッチポイントを増やしていきたいです。気軽に立ち寄れることで、こぼれていたはずの案件が成約に至れば、工場、そして地域にとってプラスになると考えています」(齋藤さん)

待ち時間を有効活用してもらうための
地方創生型ワークプレイス

 このように「JRE Local Hub 燕三条」は、これまで駅構内に設置されてきた施設にはなかった新しいタイプの施設であるといえるだろう。では、そもそもなぜ、こうした施設が誕生することになったのだろうか。
 現在、「JRE Local Hub 燕三条」が開設されている場所には、かつては旅行センターの「びゅうプラザ燕三条駅」が設けられていた。19年3月をもって「びゅうプラザ燕三条駅」が閉店したあと、JR東日本ではこの跡地をどのように活用するかについての検討を重ねていった。そうした中から出てきたのが、この場所を燕三条地域を活性化するための新たな地域拠点、すなわち"Local Hub"にできないかという構想だった。JR東日本新潟支社地域共創部マーケット創造ユニットチーフの樋口正賢さんは次のように語る。
 「燕三条駅には、新幹線が1時間に1本程度の頻度での停車となります。そのため出張帰りのお客さまの駅での待ち時間が、どうしても長くなってしまうという状況がありました。そこでまず考えたのは、ここにテレワークができる施設を設ければ、お客さまに待ち時間を有効活用していただけるのではないかということでした」

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JR東日本 新潟支社 地域共創部 マーケット創造ユニット チーフ
樋口正賢さん

 こうして設置が決まった「JRE Local Hub 燕三条」のワークプレイスは、コワーキングスペース(20席)や防音個室ブース(2席)、半個室ブース(2席)、会議室(3部屋)から構成される。会議室のうちの一つは「空間自在ワークプレイス」と名付けられ、4Kカメラ・プロジェクターや高品質の音響設備を完備。東京、横浜、大阪にある「空間自在ワークプレイス」と結んだ臨場感のある遠隔会議が可能となっている。この会議室を活用すれば、例えば地元の工場と東京の企業との間で試作品について細かいやりとりが発生するような場面でも、4K画像によってリアルに映像が映し出されるため、スムーズなやりとりが可能になるといったメリットがある。
 「オープン以来、コワーキングスペースや個室ブース、会議室の利用件数は、それぞれ順調に伸びています。また『JRE Local Hub 燕三条』の空間は『燕三条こうばの窓口』のスペースも含めて、工場を模した高いデザイン性をアピールポイントの一つとしているのですが、おかげさまでデザインだけでなく地方創生に資する取り組みが評価され、『2023年度グッドデザイン・ベスト100』に選出されました」(樋口さん)

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ワーキングスペースとしては、オープン空間のコワーキングスペース20席のほか、防音個室ブース(写真)を2席、半個室ブースを2席、会議室3部屋を用意している

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コワーキングスペースの机やいすは、地元工場の職人の手によるもの。ソファの背には電源コンセントも設置されている

良い技術を持っていても、
付加価値のある提案や提供をする機会がない

 そして地域の活性化という点で、欠かせない取り組みといえるのが、前述したビジネスマッチングのサポートである。
 「三条市では、従業員20人未満の小規模事業者が製造業の約7割を占めています。そのため、多くの企業で営業人材が不足しており、新たなビジネス機会を獲得するための営業活動が十分にできずにいます。また、大手メーカーの三次請け、四次請けというかたちでの受注も多く、せっかく良い技術を持っていても、より付加価値のある提案や技術の提供を、直接大手メーカーにする機会がないという課題もあります。そうした中で燕三条地域の製造業の活性化のために、この拠点をうまく活用できないかと考えました」(樋口さん)
 ただし、JR東日本だけで燕三条地域の製造業が抱えている課題を解決するのは困難である。そこで声をかけたのが、ドッツアンドラインズの齋藤さんだった。同社は、燕三条地域の各企業の若手経営者などによって立ち上げられた会社であり、齋藤さん自身もプレス・溶接加工や機械加工などを行う有限会社ストカの専務取締役を務めている。
 齋藤さんとJR東日本のつながりは、18年にまでさかのぼる。JR東日本グループと国内最大級のクラウドファンディングサービスであるCAMPFIREが立ち上げた、地域を活性化・魅力的にするアイデアの実現に向けた協業プログラム「地域にチカラを!プロジェクト」で、「無人駅の活用」をテーマに新規事業案を募った際、齋藤さんが「無人駅を活用して燕三条地域の産業発信地と交流拠点にしたい」という案で応募したことがきっかけだ。この事業案は見事に採択され、20年10月、JR信越本線帯織駅に「EkiLab帯織」がオープンすることになった。「EkiLab帯織」には工作スペースが設けられており、幅広い年代層の人たちがさまざまな機械や工具を用いたものづくり体験をしたり、交流できる場となっている。これらを通して、ものづくりに興味を持つ人の裾野を広げようというわけである。ちなみにドッツアンドラインズは、この「EkiLab帯織」の運営会社として発足したものだ。
 「このように当社と齋藤さんをはじめとしたドッツアンドラインズさんとは、『EkiLab帯織』を通じて以前からお付き合いがありましたし、齋藤さんたちは燕三条地域の工場の皆さんとも強いネットワークをお持ちです。そのため、連携をするのならば齋藤さんたちしかいないと考えました。『ビジネスマッチングを行う場をつくる』という構想も、齋藤さんたちからアイデアをいただく中で固まりました」(樋口さん)
 なお「JRE Local Hub 燕三条」が立ちあげられたのは、三条市から協力が得られたことも大きかった。JR東日本新潟支社と三条市は、「地方創生と地域経済の活性化に関する連携協定」を締結。施設整備にあたっては、三条市から補助金が交付された。

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JR信越本線・帯織駅の脇に設置された「EkiLab帯織」。モダンな建物が印象的だ

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「EkiLab帯織」には作業工具が用意されているので、「一度試してみたい」「欲しいけど家に置く場所がない」「使いたいけど何回も使わない」といった人も、ここに来れば気軽に利用して試すことができる

実績を積み重ねることで
存在価値を高めていきたい

 環境は整い、認知も進んできた。ここからビジネスマッチングの成約率を高めるためには、「燕三条こうばの窓口」への来訪者を増やすだけでなく、より多くの地元の工場に参加してもらうこともカギとなる。齋藤さんは燕三条地域の工場を一軒一軒訪ね歩き、「燕三条こうばの窓口」への登録を働きかけている。ちなみに入会費は5万円、会費は月額5,000円だ。
 「これまで回った企業は1,000社を超えました。燕三条地域には個人事業主を含め約3,700の事業所があるといわれていますから、まだ3分の1にも達していないぐらいですね。23年11月現在、約110社に参加いただいていますが、当然もっと増やしていきたいと考えています。今は『うちの工場だけが儲かればいい』という時代ではなくなっています。各工場がお互いに協力しながら自分たちの強みを発揮することで、燕三条地域全体の『ものづくりのまち』としての価値を高めていく必要があります。『燕三条こうばの窓口』をそのネットワークのハブにしていきたいですね」(齋藤さん)
 「燕三条こうばの窓口」は、開設してからまだ1年にも満たないが、既に成果は出始めている。23年2月17日のオープンから9月までの約7カ月間で、商談に達した件数は62件、成約件数は20件に上った。具体的にはアウトドアメーカーからの発注を受けたチタンマグや、キッチン用品の製造が挙げられる。
 「『燕三条こうばの窓口』に展示しているネジを見たお客さまの中に、某機械の部品として使えるのではないかと興味を持たれた方もいらっしゃいました。もし商談として成立すれば、数千万円から数億円単位のビジネスになるのではないかと思います」(樋口さん)

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「燕三条こうばの窓口」のショーケースの中には、燕三条地域の工場の技術力の高さが分かるサンプルが展示されているほか、バックヤードには登録した各企業のサンプルも数多くそろえている

 また23年9月には、東京駅構内のイベントスペース「スクエア ゼロ」において、「JRE Local Hub 燕三条 in Tokyo Station」を開催。燕三条地域の工場の職人が製作した製品の展示だけでなく、ものづくりコンシェルジュによるビジネスマッチングも実施した。来訪者の注目度は高く、5日間の期間中に約100件ものマッチングの相談があったという。
 齋藤さんは、「燕三条こうばの窓口」を今後より大きな取り組みにしていくためには、「一つひとつ地道に実績を積み重ねていくしかない」と考えている。多くの企業が「燕三条こうばの窓口」に関心を寄せ、足を運んでもらうためには実績を残すことが一番効果的だからだ。また、実績を積み重ねれば、「燕三条こうばの窓口」に登録することにメリットを感じる地元の工場も増えていくだろう。
 一方、樋口さんは「JR東日本が大切にしているのは、主役である地域の方々に寄り添い、伴走することで、地方創生に貢献することです。これからも齋藤さんたちの伴走者としてやるべきことに取り組んでいきます」と語る。
 「JRE Local Hub 燕三条」が、今後どのような成果を挙げるのか。そして「JRE Local Hub 燕三条」の存在が、「ものづくりのまち」である燕三条地域にどんなつながりをもたらしていくのか。注目し続けたい。

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