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高村ゆかり教授に聴く<br>「持続可能な社会」のために何ができるのか(前編)

高村ゆかり教授に聴く
「持続可能な社会」のために何ができるのか(前編)

温暖化防止に向け、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることが世界の共通目標となっている。そのために企業や市民はどのような取り組みをするべきか。まずは世界を、そして日本を取り巻く現状について、東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授に話を伺った。

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高村ゆかり たかむら・ゆかり
東京大学 未来ビジョン研究センター 教授
1989年京都大学法学部卒業。97年一橋大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。静岡大学人文学部法学科助教授、東京大学サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)教授などを経て、2019年4月から現職。専門は国際法学、環境法学。共編著に『気候変動政策のダイナミズム』(岩波書店)、『気候変動と国際協調』(慈学社出版)など。

温暖化抑止に向けた世界の目標

 地球温暖化が要因と思われる異常気象が世界各地で頻発している。その抑止に必要なのは、CO2(二酸化炭素)をはじめとする温室効果ガスの排出量を削減することだ。
 2015年に採択されたパリ協定(気候変動抑制に関する国際条約)では、産業革命前からの気温上昇を2℃未満に抑えるため、今世紀後半に世界全体で排出を実質ゼロにする努力目標が掲げられた。
 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の「未来の気候を予測するRCPシナリオ」(*)によると、早ければ2030年に世界の気温が産業革命前より1.5℃高くなると試算しており、この目標は非常にハードルの高いものだといえるが、東京大学の高村ゆかり教授は次のように語る。
「現行の取り組みの延長線上では実現困難ですが、パリ協定は温室効果ガス削減の大きなカギを握る産業界にインパクトを与えるため、あえて野心的な目標を掲げました。昨年、日本政府が今世紀後半のできるだけ早期に温室効果ガス排出の実質ゼロを目指すとする『長期戦略』を閣議決定したのも、同じ狙いからです」

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*[未来の気候を予測する「RCPシナリオ」]
IPCC 第5次評価報告書において示された放射強制力の代表的濃度経路(Representative Concentration Pathways)シナリオ。放射強制力は温室効果ガスの濃度変化が関係し、正の値のとき地表を暖め、負の値のとき地表を冷却する効果がある。RCPの数値は21世紀末の1㎡あたりの放射強制力(W/m2)を表す。
RCP2.6、RCP4.5、RCP6.0、RCP8.5の4つのシナリオが想定されており、将来の気温上昇の目標を2℃以下に抑えた最も温室効果ガスの排出量の低いシナリオをRCP2.6、最大にしたシナリオがRCP8.5となっている。
※1986〜2005年平均からの変化
『令和元年版 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書』より作成

計画的なエネルギー転換が重要

 日本の「長期戦略」では、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを今後の主力電源とする方針が示された。その手本となるのがイギリスの政策だという。
「2050年までの温室効果ガス排出ゼロを目指すイギリスは、厳格な削減量管理をしています。エネルギー転換には再生可能エネルギーのコストを下げることが不可欠なので、インフラ整備も計画的に行ってきました。こうした施策には欧州の他のいくつかの国も積極的で、再生可能エネルギーによる発電コストが火力のそれを下回っているケースもあります」
 欧州の意識が高い背景には、地理的に高緯度で温暖化を実感しやすいことに加え、エネルギー安全保障の問題もあるようだ。エネルギー自給率が低い状態だと、他国からの化石燃料の供給がストップ、または不安定になった場合に、経済や市民生活が直接的なダメージを受けてしまう。このあたりは、日本の置かれた状況とも共通している。

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企業や市民にできることは多い

 温室効果ガスの削減は、産業界の努力なくして実現しない。エネルギー転換については、自社の事業所の使用電力を再生可能エネルギーにし、協力会社などにも同様の取り組みを要請するといった試みをする海外の先進企業もある。
「そうした動きは日本の大手企業でも見られるようになってきましたし、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)を重視した経営を行う企業へのESG投資も活発になっています。温暖化対策に積極的な企業の製品・サービスを選択することで、市民が企業活動に賛同の意思を示すことも可能です」
 最近は温室効果ガス排出量の多い飛行機ではなく、鉄道などのよりクリーンな手段で移動しようとする「フライト・シェイム(飛び恥)」の概念も広まりつつある。
「人や貨物の輸送を、自動車や飛行機から鉄道に切り替えることは非常に効果的です。環境問題は最終的に個人に帰結します。市民自身が意識や行動を、いかに変えられるのか。このことが問われることになるでしょう」
と高村教授は指摘する。

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