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カルチャーコラム<br>安藤裕さん<br>飲む人、飲まない人がフラットに共存し交歓できる文化を

カウンター上のボトルは、アルト・アルコ取り扱い商品の一部。右から、ワインオルタナティブ「NON No.1 ソルティッド・ラズベリー&カモミール」、ビネガードリンク「シュラブ オレンジ&ジンジャー」、自社ブランドPalette & Palateのワインオルタナティブ「Beni」

安藤裕 あんどう・ゆう
株式会社アルト・アルコ 代表取締役
1991年福岡県生まれ。一橋大学在学中に単身渡仏し、現地の食文化に触れたことで飲食分野でのキャリアを志す。卒業後はワイン専門商社を経て、2018年にノンアルコール専門商社アルト・アルコを創業。日本のノンアルコールシーンのけん引役として積極的に情報を発信し、2021年には『ノンアルコールドリンクの発想と組み立て』(誠文堂新光社)を上梓している。

カルチャーコラム
安藤裕さん
飲む人、飲まない人がフラットに共存し交歓できる文化を

海外では、アルコールとの距離感を見直す新しいライフスタイルが幅広い層に浸透中。お酒を嗜む人も、そうでない人も、一緒に楽しめる文化や社会の姿とは、一体どんなものなのでしょうか。ノンアルコールドリンクの輸入商を営み、著述活動なども行う安藤裕さんにお話を伺いました。

ノンアルコールが世界の一大トレンドに

 最近、欧米では「ドライ・ジャニュアリー」というムーブメントが注目されています。これは、クリスマスや大みそかなどのイベントでお酒を飲み過ぎた12月の翌月、つまり1月限定でお酒を断ち、「アルコールとの付き合い方を見直す月にしませんか?」という新しいトレンドです。2013年にイギリスで始まったもので、『Forbes』によると、22年にはアメリカ人の成人の5人に1人、約5000万人がドライ・ジャニュアリーに参加しているそうです。
 そして、このトレンドとともに世界的な広がりを見せるのが、「オルタナティブ(※1)アルコール」です。これは、お酒のような味わいや、食事とのペアリングを楽しめるノンアルコールドリンク(ノンアル)(※2)のこと。従来のノンアルは、一度醸造したアルコール飲料からアルコール成分を抜いていく、引き算の発想が中心的でした。一方、15年ごろから流行し始めたオルタナティブアルコールは、ベースとなる果汁やビネガーなどにハーブやスパイスなどを加え、テイストと香りをお酒に寄せていくという、足し算のアプローチが特徴。このような「インフュージョン」と呼ばれる製法が生まれたことで、アルコール成分が無くなったぶん軽くなりがちだった味わいに、深みとパンチをプラスできました。
 オルタナティブアルコールの登場はアルコール市場に大きな影響を与え、今や世界的な酒類ブランドが相次いでノンアル商品をリリースするに至っています。

※1 「既存のものに代わり得る、もう一つの選択肢」という意味
※2 日本の酒税法では、アルコール度数1%以上の飲料を「酒類」と定義する。一方、アルコール度数1%未満の「ノンアルコールドリンク」にも微量のアルコール分を含む商品があり、多くのメーカーが未成年の飲用を推奨していない

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平等に会食を楽しむことが社会の多様性を高める

 僕はノンアルコールの専門商社を起業しましたが、実はお酒も好きでして(笑)。アルコール飲料とノンアル飲料のどちらも盛り上がってほしいですし、ノンアル市場が広がることで、逆にお酒に興味を持つ若者も増えてくるのではないでしょうか。例えば、ノンアルカクテル(モクテル[※3])と食事のペアリングを試してみて、「ドリンクと料理を一緒に味わうのがこんなに楽しいなら、今度はお酒でやってみよう」と思うかもしれません。あるいは、年齢や健康上の理由でお酒が飲めなくなったけれど、ノンアルで同じような満足度を得たいという方もいらっしゃるでしょう。
 そういった契機から、やがてアルコール・ノンアルを好む人たちの垣根が消え、全ての人が楽しく充実した時間を共有できる世界になったらいいなと思っています。
 これまでお酒を飲めない方々は、飲食店で居心地の悪さや釈然としないものを感じることも少なくなかったかもしれません。例えば、ワインを数十種類取りそろえているお店でも、メニューのソフトドリンク欄は数行だけだったり、会計時に割り勘で損をしたり。お酒が飲める人と同じ満足度を得られないこともあったでしょう。
 しかし、ノンアルが社会に浸透することで、「私はこのノンアルドリンクで十分に楽しめているので、お気遣いなく」と、会食の席でも気持ちよく過ごせると思います。また、日本を訪れる外国人の中には、宗教上の理由からアルコールを飲めない方もいます。そのような方々に魅力的なノンアルを提供することが、社会全体の多様性を高めることにもつながっていくのではないかと考えています。

※3 「mock(見せかけの)」と「cocktail(カクテル)」を組み合わせた造語で、材料にフルーツジュースや炭酸飲料などを用いたアルコールを含まないカクテルのこと

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取材にご協力いただいた「Low-Non-Bar」(東京・神田)のオリジナルモクテル「ローノンバー」(右写真)。アルト・アルコが扱うビネガードリンク「シュラブ オレンジ&ジンジャー」を材料に使用している。美しく、おいしい一杯を前に会話が弾むのはアルコールドリンクに限らない

ステップバイステップでノンアルを楽しむ提案

 09年に日本初のノンアルビールが登場してから十数年が経過し、市場は右肩上がりに伸びています。その要因の一つがコロナ禍だったことも事実です。行動制限や自粛の流れの中、飲食店はノンアルを提供せざるを得ませんでした。そこで久しぶりにノンアルビールを飲んでみて、クオリティが非常に高くなっていることに気付いた方も多いはずです。
 もし読者の皆さんがノンアルを試してみたいと思ったら、まずはコンビニやスーパーで手軽に購入できるノンアルビールを味わっていただくのがよいでしょう。現在のノンアルのクオリティを知っていただき、さらにオルタナティブアルコールを提供しているバーやレストランで、お酒と同じ感覚で試してみてはいかがでしょうか。例えば、一杯目はお酒を飲んで、次にノンアルを飲むような楽しみ方もアリだと思います。僕も実際によくやっているのですが、結果的にアルコール摂取量が抑えられることに加えて、アルコールとノンアルの両方の良さを味わえるので、本当にお勧めです。
 ノンアルと食事のペアリングも、ぜひ経験してみてください。僕が妻とレストランに行くときは、一方がワインと、もう一方はノンアルと食事とのペアリングをそれぞれ楽しんでいます。そうした機会にお気に入りのノンアルを見つけ、ホームパーティーを開く際などに用意しておくと、アルコールを飲めないゲストの方にもきっと喜んでいただけると思いますよ。

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