JR東日本:and E

「ユニバーサルな社会」の実現に向けて<br>JR東日本の取り組み<br>ハード面だけでなく、人を介したソフト面でもバリアフリー化を推進

「ユニバーサルな社会」の実現に向けて
JR東日本の取り組み
ハード面だけでなく、人を介したソフト面でもバリアフリー化を推進

JR東日本ではバリアフリー化を進めているが、どのような方針の下で行っているのか。ハード面の整備、人を介したソフト面での取り組みについて担当者に話を聞いた。

駅構内の段差解消のためにエレベーター等の設置を推進

 JR東日本が駅のバリアフリー化に本格的に取り組み始めたのは、1990年代にさかのぼる。
 当初はエスカレーターを駅のバリアフリー化およびサービス向上の基本設備と位置付けて整備が進められた。その後、2000年の交通バリアフリー法(高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律)施行後は、エレベーターが駅のバリアフリー化の基本設備に位置付けられ、同法の対象となる駅(乗降5000人/日以上かつ高低差が5m以上の駅および高齢者等の割合が多い駅など)の全てのホームにエレベーターを設置する目標が立てられ、整備が進められてきた。また、エレベーターの整備と合わせ、障がい者対応型トイレ、視覚障がい者誘導用ブロック、案内設備などの整備も実施。これらの整備は、国、自治体、事業者の三位一体で進められている。

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エレベーターやバリアフリートイレ、ホームドアの設置、また車両にも車いすスペースを設けるなど、駅・車両共にバリアフリー化を進めている

 10年度の「移動等円滑化の促進に関する基本方針(国土交通省告示)」(以下、基本方針)改正後は対象を乗降3000人/日以上に拡大。現在では、21年の基本方針改正により乗降2000人/日以上で自治体が定める重点整備地区(旅客施設を中心とした地区、高齢者・障がい者などが利用する施設が集まった地区)内の生活関連施設に位置付けられた駅についても、整備対象に加えられている。
 「エレベーター等の段差解消については、現時点では整備対象駅のうち約95%の駅で設置を完了しており、未整備の駅は20数駅になっています。残されているのは用地等に制約があり整備が困難な駅が多く、整備のスピードはどうしても遅くなりますが、関係者と連携しつつ着実に整備を進めていきたいと考えています」と、グループ経営戦略本部財務・投資計画部門投資計画ユニットの星秀明副長は語る。

転落・接触事故防止のためホームドアの整備も進める

 ホームからの転落・接触事故の防止を図ることを目的としたホームドアについても、10年に山手線のホームに初めて設置したのを皮切りに、東京圏在来線主要路線に導入を進めている。23年度中には在来線117駅233番線で整備を完了させる予定となっており、31年度末頃を目標に、330駅758番線にまで拡大させる計画だ。星副長と同じユニットに所属する土屋啓佑副長は、ホームドアについて次のように語る。
 「ホームドアの場合、単にホームの端についたて状の設備を設ければよいわけではなく、ホームに入線した列車が定位置に停車したことを検知し、地上ドアと車両ドアが連動して開く制御システムを導入する必要があります。ホームドアと列車の連携が必須のため、整備計画は駅単位だけではなく、各線区を走行している列車も加味して、総合的に検討しています」

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(左から)星秀明副長、土屋啓佑副長
JR東日本 グループ経営戦略本部
財務・投資計画部門 投資計画ユニット

 ホームドアの設置は、山手線のような単一の形式の車両が走っている線区であれば比較的容易だが、特急列車等のさまざまなタイプの列車が走行する線区の場合、難易度が上がるという。またホームドアの土台となるホームが、その重さに耐えられるようにするために、多くの場合、ホームの補強工事も必要となる。
 「大勢のお客さまが、ご自身が利用する駅へのホームドアの早期設置を望んでおられると思いますので、さまざまな障壁を一つひとつクリアしながら進めていきたいと考えています」(土屋副長)
 なおJR東日本では、お客さまがホームから転落することによる死傷事故を防ぐために、ホームドアだけでなく、ホームから転落した人をAIが自動的に検知して走行中の列車を停止させるシステムの開発にも取り組んでいる。
 星副長は、駅設備全体の今後のバリアフリー化の展望と課題について、次のように語る。
 「今後は、将来のまちづくりや駅そのものの在り方に関する視点を取り入れたバリアフリー設備の整備が必要になると思っています。お客さまが日常生活でご利用される施設への移動方法、経路、それらを調べるツールも現在では多岐にわたります。国や自治体の皆さまとも緊密に連携しながら、その駅および周辺地域のニーズに的確に応えることが重要と考えています」

「心のバリアフリー」化を社会全体で図る

 駅のバリアフリー化は段差解消などのハード面の整備とともに、人を介したソフト面でのサポート、「心のバリアフリー」化も不可欠となる。JR東日本では11年度より「声かけ・サポート」運動を開始し、現在まで継続している。

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2023年に掲出された「声かけ・サポート」運動のポスター

 「『声かけ・サポート』運動とは、お困りのお客さまや配慮が必要なお客さまをお見かけした際に『何かお手伝いできることはありますか』と、その場にいる人が積極的にお声がけし、お手伝いするほかに見守るという運動です。JR東日本で始まったこの運動は、13年度にはJR東日本グループ会社全体に拡大し、現在では全国の鉄道・バス事業者83社等が参加する取り組みになっています」と、鉄道事業本部サービス品質改革室の丹治貴弘さんは語る。

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丹治貴弘さん
JR東日本 鉄道事業本部 サービス品質改革室

 JR東日本では、各職場に任命しているサービス品質推進員が中心となり、それぞれの職場やエリアごとに「バリアフリー応対マニュアル」などを用いて、配慮が必要なお客さまに対する応対方法について勉強会を定期的に実施している。また駅係員のみならず、あらゆる系統の社員に対し、おもてなしの心と介助技術の習得を目的に「サービス介助士」の資格取得を進めており、22年度末時点で約6割の社員が取得している。
 一方で駅構内、車内放送やポスターの掲出、沿線地域の高校生や障がいのある当事者の方々と連携した活動を通じ、お客さまに対して「声かけ・サポート」運動への理解と協力を呼びかけている。
 「障がいのある当事者の方々と連携した設備利用体験会や意見交換といった場において、『以前よりも声をかけてもらえる場面がとても増えました』といった声をいただいています」(丹治さん)
 22年からは、車いすを使用されるお客さまが無人駅を利用する際、列車の運転士や車掌が乗降のお手伝いを行う取り組みも開始した。これまで乗降の介助は、近くの有人駅等の駅係員が無人駅へと出向いて実施していたため、お客さまを待たせてしまうことがあったが、乗務員が行うことでスムーズな乗降が可能になった。

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(左)乗務員によるお客さまの乗降をお手伝いする訓練も実施(右)障がいのある当事者の方々と連携した設備利用体験会も定期的に行っている

 当初は仙石線や磐越西線、小海線などで試行的に開始したが、お客さまへのスムーズな案内が可能だったことから他線区にも拡大。現在では青梅線や総武本線、成田線など11線区に広がった。ただし無人駅で段差があったり、ホームの一部が狭くなっている、傾斜があることのほか、改札外が急な坂になっているような無人駅については対象外としている。
 「この取り組みは、現場第一線で働く社員の発意と挑戦により実現したものです。配慮の必要なお客さまが、どのようなことでお困りなのかを誰よりも理解しているのは、サービスの生産点である現場です。今後も社会にある困りごとを解消するべく、心のバリアフリー化のさらなる充実を図っていきたいと考えています」(丹治さん)
 全ての人が安全・安心に利用できる駅や車両などの環境づくりにゴールはない。JR東日本は、ユニバーサルな社会の実現に向けて、今後も着実に一歩ずつ取り組んでいく。


ホームドアの歴史

初めての設置は日本万国博覧会

 お客さまと列車との接触防止やホームからの転落防止などの効果が期待されるホームドア。世界で初めて導入したのは1961年、ソビエト連邦のレニングラード地下鉄(現ロシア・サンクトペテルブルク地下鉄)であった。
 日本では70年、日本万国博覧会で開催期間中にのみ運用されたモノレールでお目見えしたのが初めてで、その後74年に国鉄が常設駅としては初めて東海道新幹線の熱海駅に設置。普通鉄道では91年に開業した営団地下鉄南北線(現・東京メトロ南北線)が、ワンマン運転の支援を目的に開業時の全駅に導入したのが初だった。
 JRの在来線では2010年、JR東日本の山手線・恵比寿駅での設置が最初で、以降、ホームドアの設置駅は増え続けている。

ホームドア普及のために各社が新しいタイプを開発

 これまでホームドアの導入がなかなか進まなかった理由は、ホームの強度の問題や、車両によってドア位置が違うこと、 ホームドアと列車ドアの連動といった技術的問題など、さまざまであった。さらに設置コストも大きな問題で、国土交通省は1駅(上下2線分)当たり数億円から十数億円程度かかるとみており、各ホームドアメーカーがコスト削減のための研究開発を行っている。最近では昇降ロープ式のものなど、新しいホームドアが登場しているが、JR東日本メカトロニクスが開発した「スマートホームドア®(※)」もその中の一つだ。
 多くの線区に導入できる普及性の高いホームドアをコンセプトとし、本体機器や設置工事費、メンテナンス費用の低減を実現。フレーム形状のドアとすることで、軽量化や視認性の向上などを図ったほか、風圧影響の軽減により、ホーム補強の簡素化にも寄与した。16年にJR横浜線の町田駅で試験導入され、視覚障がいのある方も含めた検証を行った結果、量産型の開発が決定。JR東日本の各駅で、導入が進められている。

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2020年2月に京浜東北線蕨駅で導入された「スマートホームドア®」

※ 「スマートホームドア®」はJR東日本メカトロニクス株式会社の登録商標です

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