JR東日本:and E

「ユニバーサルな社会」の実現に向けて<br>Case.3 「誰もが気兼ねなく参加できる旅行」のために──長野県・一般社団法人戸隠観光協会

戸隠観光協会では「車椅子で歩く戸隠MAP」など、車椅子を利用する人をサポートするリーフレットを複数用意している

「ユニバーサルな社会」の実現に向けて
Case.3 「誰もが気兼ねなく参加できる旅行」のために──長野県・一般社団法人戸隠観光協会

国土交通省では、誰もが安心して旅行を楽しむことができる環境を整備するため、地方自治体やNPO等の幅広い関係者の協力の下、「ユニバーサルツーリズム」の普及・促進を図ろうとしている。そんな中、長野県では「信州ユニバーサルツーリズム事業」がスタート。全国でも先進的な動きを見せている。

全ての人が旅を楽しめる環境の実現を目指して

 ユニバーサルな社会を実現するための動きは、近年は旅行の分野でも進みつつある。国も「高齢や障がい等の有無にかかわらず、誰もが気兼ねなく参加できる旅行」として、ユニバーサルツーリズムという概念を打ち出している。
 そんな中、長野県でも2018年より、「信州ユニバーサルツーリズム事業」をスタートさせた。県の観光誘客課おもてなし推進担当の水越大樹さんはこう語る。
 「長野県には自然豊かな山岳や高原が多くあり、それが観光地としての魅力になっています。ただし自然の中では、スロープ化などのハード面の整備による完全バリアフリー化は困難です。そこで県では、障がいがある方などもアウトドアを楽しめるサポート機器の充実や、各地域で活躍できる専門的な知識を持った実務専門人材の育成を図ることで、バリアを取り払っていきたいと考えました」

Featured_100_01.jpg

長野県 観光誘客課 おもてなし推進担当の水越大樹さん

 サポート機器としては、一般的な車椅子にも簡単に装着でき、階段や砂利道でも車椅子を動かせるけん引式車椅子補助装置「JINRIKI」(株式会社JINRIKI)や、重度の障がいがある方でもスキーを楽しめる「デュアルスキー」(合同会社sou)などがある。長野県では、県内の各地域がこうした機器を導入するための補助金制度を設けている。

Featured_100_02.jpg

「JINRIKI」は車椅子にけん引バーを装着し、人力車のように「前輪を浮かせて引く」ための装置。ユニバーサルツーリズムのみでなく、長野県の災害時「逃げ遅れゼロ」の取り組みなどでも活用されている(写真提供:株式会社JINRIKI)

 一方、専門人材の育成については、地元の信州大学と連携。ユニバーサルツーリズムに対応した旅行プランの企画やコーディネート等の知識を備えた「ユニバーサルフィールド・コンシェルジュ」や、障がいのある方を含めた野外教育に関する知識やサポート機器の取り扱い技術を身に付けた「インクルーシブ野外活動指導員」といった各資格が取得できる講座を開講している。
 こうした県の動きを受けて、戸隠神社や戸隠古道などの観光資源を有する一般社団法人戸隠観光協会でも、18年より取り組みを開始した。同協会の田村達彦さんも、早速ユニバーサルフィールド・コンシェルジュの講座を受講。海外の実践事例等を学んだ。
 「私自身、きこりとして林業の現場で働いていたのですが、15年に仕事中の事故で車椅子の生活となりました。17年からは車椅子関連商品販売店の『ニコモビリティ』を開設していたのですが、戸隠観光協会からお声がかかり、ユニバーサルツーリズムに関わるようになりました」

Featured_100_03.jpg

一般社団法人戸隠観光協会の田村達彦さん

 まず田村さんが取り組んだのが、車椅子で回れるルートや、車椅子の方のサポートが可能な宿泊施設や飲食店を記した「車椅子で歩く戸隠MAP」の作成。実際に自身で実地調査も行った。その結果として分かったのは、サポート機器があれば車椅子で行動できる範囲は思いの外に広く、協力的な宿泊施設や飲食店も多いことだった。
 また観光協会内に、障がいのある方や高齢者、その家族の方からの旅の相談に対応するユニバーサルツーリズムデスクを設置した。
 「私自身は、このデスクが肝になると考えていました。一言に障がいがあるといっても、障がいの内容や程度は人それぞれです。また旅に対するニーズも人によって異なります。そこでデスクでは、一つひとつ相談を受けながら、どのようなプランであれば楽しんでいただけるかを一生懸命考え、ご提案するようにしています」(田村さん)

Featured_100_04.jpg

「ユニバーサルツーリズムデスク」にはサポート機器が並ぶ

 同じく戸隠観光協会の伊藤久美子さんは、この取り組みに関わり始めてから、「障がいのある方が、普段自然に触れる機会をいかに制限されているかを実感するようになりました」と話す。

Featured_100_05.jpg

一般社団法人戸隠観光協会の伊藤久美子さん

 「自然体験をしていただくと、皆さん本当に喜ばれます。家族に連れられて車の中から自然を見るのと、季節の空気を肌で感じながら自然の中を見て回るのとでは、まったく違う体験なんですよね。実際に喜んでくださる姿を見て、私自身も『戸隠ってこんなに素敵な場所だったんだ』と改めて教えていただくことがよくあります」(伊藤さん)
 長野県では戸隠以外にも、志賀高原やなべくら高原、白馬村や富士見高原、阿智村など、各地でモデルコース等を設けてユニバーサルツーリズムに取り組んでいる。長野県がユニバーサルツーリズム先進県になることが、日本の旅行の在り方をも変えるかもしれない。

Series & Columns連載・コラム

  • スペシャルeight=
  • JR東日本TOPICS 行ってみた! 聞いてみた!JR東日本TOPICS 行ってみた! 聞いてみた!
  • SDGs×JR東日本グループSDGs×JR東日本グループ
    • 働く 集う 和む 空間の可能性働く 集う 和む 空間の可能性
    • カルチャーコラムカルチャーコラム
    • 地域発!世界を支える ものづくり地域発!世界を支える ものづくり
    • 東北に生きる東北に生きる
    • 働く 集う 和む 空間の可能性働く 集う 和む 空間の可能性
    • カルチャーコラムカルチャーコラム
    • 地域発!世界を支える ものづくり地域発!世界を支える ものづくり
    • 東北に生きる東北に生きる