JR東日本では、ICTなどの先端技術を活用した「スマートメンテナンス」を実現することで、安全・安定輸送のさらなるレベルアップや、将来の労働人口の減少を見据えた仕事の仕組みづくりを進めています。
　新幹線の安全・安定輸送には、線路、橋りょう、トンネル、電車線（架線）、信号、無線など、多岐にわたる設備と車両のメンテナンスが必要です。これらのメンテナンスの基本となるものが、点検や検査といった「状態の把握」です。点検や検査は目視で行うものが現在も少なからず存在し、JR東日本の新幹線も開業から40年がたち、諸設備のメンテナンスは重要な課題となっています。
　さらに、将来の労働人口の減少や、ポストコロナの経営環境にも対応していかなければなりません。こうしたさまざまな課題の解決に向け、切り札となるのが今回紹介する「新幹線線路設備モニタリング車」です。

新幹線の線路DXの実現に向けて

　新幹線線路設備モニタリング車は、線路設備の状態についてモニタリングすることを目的とした新幹線専用の保守用車（夜間にメンテナンスのために稼働する作業車）で、線路設備の種類に応じて3種類の装置を搭載します。以下、各装置を紹介します。

　分岐器モニタリング装置は、加速度計とジャイロ、距離を測定できるカメラなどによって、分岐器の状態や線路のゆがみを測定できます。複雑な構造の分岐器を高精度に測定でき、分岐器の状態に応じたタイムリーな修繕が可能になります。

　軌道材料モニタリング装置は、距離を測定できるカメラ、色彩の濃淡が分かるカメラなどによって、線路画像を取得します。従来は技術者の目視によって状態を確認していましたが、AIなどの画像解析により不良箇所の自動抽出をすることで、データに基づく効率的な現場調査が可能になります。

　点群データ取得装置は、屋根上に設置したレーザスキャナが高速回転しながら測定し、カメラ、緯度経度情報などを組み合わせて、点群データを取得します。一般的には、MMS（Mobile Mapping System）と呼ばれている計測システムです。走行経路周辺の点群データを取得できるため、線路メンテナンスだけでなく、さまざまな設備の調査にも活用可能です。
　これら3種類の装置から取得できる高精度なデータを活用することで、従来は技術者が目視や経験則で実施してきた線路点検や検査、工事調査をスマート化（DX化）して、業務全体の生産性向上を図り、より効率的で効果的な線路メンテナンスを実現します。
　また、これまで点検や検査のためのデータ収集に大きな労力を要していましたが、今回の新幹線線路設備モニタリング車の導入によって、仕事の仕組みを「データ収集中心」から「分析やプランニング中心」に変革して、働きがいの向上を図っていきます。

世界に誇る新幹線を次世代につなげていく

　新幹線線路設備モニタリング車は、2024年度から導入を予定しています。
　SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」では、"みんなの生活を良くする安定した経済成長を進め、だれもが人間らしく生産的な仕事ができる社会を作ろう"、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」では、"災害に強いインフラを整え、新しい技術を開発し、みんなに役立つ安定した産業化を進めよう"と掲げられています。今回導入する新幹線線路設備モニタリング車を活用して、技術者がよりプランニングに注力でき、生産的な仕事ができる環境を整備するとともに、新幹線の安全・安定輸送のさらなるレベルアップの実現を目指していきます。

［ 報告者 ］
JR東日本 新幹線統括本部
新幹線設備部 保線ユニット
マネージャー 手代木 卓也（写真中左）／チーフ 関口 隼也（写真中右）
副長 糟谷 賢一（写真右）／中野 祥輝（写真左）