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物流「2024年問題」に立ち向かう<br>JR東日本の取り組み<br>駅を物流拠点化することで物流の世界に新しいインフラをつくる

物流「2024年問題」に立ち向かう
JR東日本の取り組み
駅を物流拠点化することで物流の世界に新しいインフラをつくる

「持続可能な物流」に貢献するため、JR東日本グループもさまざまな取り組みを行っている。グループのアセットを活かした取り組みを紹介する。

きっかけは東京駅でのマルシェの開催

 JR東日本の新幹線が運んでいるのは、乗客だけではない。2017年7月より新幹線を用いた荷物輸送を開始しているからだ。
 「当初は、新潟や長野などでその日の朝に収穫した野菜や果物を新幹線で運び、東京駅で『朝採れ新幹線マルシェ』を開催して販売するところから始まりました。その後『この新幹線荷物輸送を、もっとビジネス展開していけないだろうか』という声が社内で高まっていきました」と、マーケティング本部くらしづくり・地方創生部門の堤口貴子マネージャーは語る。21年4月には、JR北海道と連携し、新函館北斗駅から東京駅を経由して、市中の飲食店などに鮮魚を定期輸送する取り組みを開始。さらに同年10月には列車荷物輸送サービスを「はこビュン」と名づけ、本格展開に着手した。
 「はこビュン」で荷物の積み下ろしが可能なのは、始発駅と終着駅(一部の途中駅では積み下ろし可)。荷室には、車内に2カ所ある車内販売準備室のうちの1カ所が使われる。積み込める荷量は、1編成当たり3辺合計120㎝サイズの箱がおおむね40箱までとなっている。またオプションとして、集荷先から出発駅までトラックで荷物を運ぶ「ファーストワンマイル」や、到着駅から倉庫や店舗などに荷物を届ける「ラストワンマイル」のサービスも提供している。
 さらに現在では、新幹線だけでなく、在来線特急でも「はこビュン」を実施している。
 「特にニーズが高いのは生鮮品ですが、中でも最近は高価格帯の果物の取り扱いが増えています。イチゴやサクランボなど、振動や温度変化に弱く傷つきやすいものが少なくありません。ですから、揺れの少ない新幹線を選ばれる荷主さまが増えてきています」
 同部門の岩原卓美チーフは、そう話す。
 なお、「はこビュンQuick」というサービスも用意されている。通常の「はこビュン」が、荷主と事前に契約を結んだ上で輸送を行うのに対して、「Quick」は、その日に急に荷物を届けたいときに、駅の専用カウンターに荷物を持ち込めば配送してもらえるというもので、個人でも利用しやすいサービスとなっている。

お客さまのニーズから教わる「はこビュン」の可能性

 トラック輸送などと比較したときの「はこビュン」の特長は、何といっても新幹線輸送による速達性や定時性にある。
 「私たちが当初はあまり想定していなかったお客さまが、速達性や定時・安定性に魅力を感じ、利用してくださるケースもあり、そういう意味では、『はこビュン』の可能性や強みを教わる機会が多くあります」(堤口マネージャー)
 例えば、ここ最近増加しているのが、医療用の検体の輸送ニーズだ。地方の病院が最新鋭の設備を持つ東京の検査機関で検査をしてもらうために、「はこビュン」の最終便で検体を送れば、0時前には確実に東京に到着。翌日午前中には検査結果が出るため、医療関係者から高評価を受けているという。
 また、施設や工場などで機器が故障し、急遽部品を調達する必要が出てきた際に、「Quick」で部品を運ぶといった利用のされ方もあるとのことだ。
 「はこビュン」の運営を担当する株式会社ジェイアール東日本物流営業本部営業ユニットの舟瀬浩樹リーダーは、「『はこビュン』によって、これまでお付き合いのなかった荷主さまと出会えました。荷主さまのニーズにしっかりと応えられる存在でありたい。そう思っています」と語る。
 23年6月には、盛岡新幹線車両センター青森派出所~大宮駅で上り列車に約600箱、8月には、新潟新幹線車両センター~東京新幹線車両センターで上下合わせて約900箱を積載した多量輸送トライアルを実施した。今後多量輸送が実現すれば、日本の物流が大きな危機に直面している中で、「はこビュン」が果たせる役割も大きくなり、新たな物流インフラの構築にもつながる。トライアルはその可能性を探ったものだった。

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2023年6月に行われた多量輸送の実証実験では、盛岡新幹線車両センター青森派出所から無人搬送車を活用して積み込みを実施

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荷物は座席間に客室輸送専用台車で設置、大宮駅まで輸送された

 「『はこビュン』を活用して"その先"のことを考えるのも大切だと思います。例えば23年6月からは、個人の旅行客向けに『はこビュン』で到着駅まで運んだ手荷物を、ホテルなどの指定の場所にお届けする『当日ホテル配送サービス』を始めました。『はこビュン』があるからこそできるサービスも、今後は増やしていきたいですね」(堤口マネージャー)

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JR東日本 マーケティング本部 くらしづくり・地方創生部門 事業推進ユニットの堤口貴子マネージャー(中央)と岩原卓美チーフ(左)、株式会社ジェイアール東日本物流 営業本部 営業ユニットの舟瀬浩樹リーダー(右)

ロッカーの多機能化により駅を物流拠点化する

 一方で、23年7月に発足した株式会社JR東日本スマートロジスティクスは、駅ロッカーの多機能化を進めようとしている。これは「預入」が中心だった駅ロッカーを「予約、預入、受取、発送」の4役の機能を有したロッカーへと刷新しようというもの。今後3年間で首都圏に約1000台(約3万口)を導入する予定だ。
 同社の市原康史代表取締役社長は、その狙いを「ロッカーによって、駅を物流拠点化すること」にあると語る。
 「駅は通勤・通学時に、多くの方が立ち寄る場所です。そこに多機能ロッカーを配置すれば、お客さまはECサイトなどで注文した商品を駅ロッカーで受け取り、また誰かに送りたい荷物も駅ロッカーから送ることができる。今、物流業界で大きな課題となっている配送員不足や再配達問題の解消にも、貢献できるのではないかと考えています」

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 最近は、各物流事業者が駅やコンビニなどに独自の宅配便ロッカーを置くケースも増えている。これに対し同社が目指しているのは、あらゆる物流事業者やECサイトが共同で使用できる"ロッカーのプラットフォーム"化だ。物流事業者としても、独自に設置する手間やコストを削減できるというメリットがある。
 また近年、駅はエキナカの充実などによって、「通過する」だけの場所から「集う」場所へと変化してきた。同社の渡名喜庸造取締役営業戦略部長は、「そこに多機能ロッカーが加わることで、駅は『通過する』『集う』場所から『つながる』場所へと、さらに進化を遂げることができるはずです」と期待を込めて話す。

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予約・預入・受取・発送の機能を持つ「マルチエキューブ」外観(イメージ)。2023年10月31日の東京駅を皮切りに、23年度内に首都圏駅構内に約100台(約3,000口)の設置が予定されている

 同社では駅ロッカーを通して、さまざまな「つながり」の実現を図りたいと考えている。
 例えば商店街の店舗が、顧客から注文を受けた商品を駅ロッカーに預けられるようになれば、いつも帰宅時間が遅く、普段はなかなか来店できない人でも、商品を購入し受け取れるようになる。駅ロッカーが商店街と顧客の「つながり」を取り結ぶことで、商店街の活性化に貢献できるとともに、住民の豊かで便利な生活の向上にも寄与することができる。
 「また地域の生産者が育てた野菜を、『はこビュンQuick』を活用して駅ロッカーまで配送し、そこで消費者が野菜を受け取るというように、駅ロッカーを介して、生産者と消費者の『つながり』を促進していくといったことにも力を入れていきたいと思っています」(渡名喜部長)
 前述のように、多機能ロッカーはまずは首都圏での導入を図っていくが、今後は首都圏以外のJR東日本管内エリアへ拡大するほか、JR東日本の駅以外の施設等への設置も進めていく計画だ。
 「駅についても、従来はロッカーの需要は東京駅や新宿駅といったターミナル駅が中心でしたが、受取や発送のサービスが加わることで、今後は郊外駅での需要も高まることが予想されます。郊外駅のロッカーの充実も図っていきたいと考えています」(市原社長)
 長年、荷物を預け入れる役割のみを担ってきたロッカーは今、大きな変化の時を迎えようとしている。

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株式会社JR東日本スマートロジスティクスの市原康史代表取締役社長(左)と渡名喜庸造取締役 営業戦略部長(右)

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