JR東日本:and E

物流「2024年問題」に立ち向かう<br>「持続可能な物流」の実現のために今、考えるべきこと

物流「2024年問題」に立ち向かう
「持続可能な物流」の実現のために今、考えるべきこと

2024年4月1日から「自動車運転業務における時間外労働の上限規制」が適用され、トラックドライバーの時間外労働の上限が年間960時間に制限される。人口減少に伴う人手不足も加わり、今後、従来の輸送能力の維持が難しくなると考えられている。この問題は「2024年問題」と呼ばれており、物流業界のみならず、消費者に深刻な影響を及ぼす問題だと、流通経済大学の矢野裕児教授は指摘する。人々の生活を支える「持続可能な物流」を実現するために必要なこととはどのようなことなのか、矢野教授に伺った。

Featured_89_01.jpg

矢野 裕児 やの・ゆうじ
流通経済大学教授・同物流科学研究所長
1957年生まれ。横浜国立大学工学部卒業。日本大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。工学博士。日通総合研究所、富士総合研究所、流通経済大学助教授を経て、流通経済大学流通情報学部教授。同学部長も務める。他に中央大学講師。日本物流学会副会長。専門はロジスティクス、物流、流通、都市計画。「2020年代の総合物流施策大綱に関する検討会座長代理」「今後の鉄道物流のあり方に関する検討会委員」「総合資源エネルギー調査会省エネルギー小委員会委員」など国土交通省、経済産業省等各種委員を歴任。

全国の卸売市場から青果がなくなる!?

 これまで日本の物流は、トラックドライバーの長時間労働によって支えられてきた面がありました。ところが働き方改革関連法により、2024年4月からは、ドライバーの年間時間外労働の上限が960時間に設定されることになります。これによりドライバーの労働環境が改善されるのは良いことですが、一方で輸送力が低下して、物流が滞る事態が起きることが懸念されています。いわゆる「2024年問題」です。
 物流の中でも、特に「2024年問題」の影響を受けるのが長距離輸送です。長距離輸送は、長時間労働者の比率が高いからです。
 ちなみに現在、東京や大阪だけでなく、全国の卸売市場に出荷される青果の約3割から6割は、500㎞以上の遠方から運ばれることが多くなっています。逆にいうと長距離輸送体制が維持できなくなれば、3割から6割の青果が、今までのようには市場に届かなくなるかもしれないわけです。「2024年問題」は、単に物流だけの問題ではなく、人々の生活レベルにまで、深刻な影響を及ぼす可能性があります。
 ドライバー1人当たりの労働時間が制限されることで輸送力が低下するのであれば、その分、人材を増やすことで補えればいいのですが、現状ではそれも困難です。トラックドライバーは、若い世代のなり手がおらず、また有効求人倍率はほぼ毎月2を上回っています。30年にはドライバーの数は、15年比で約3割も減少するという試算も出ています。
 若い世代がドライバーになりたがらないのは、重労働でありながらも賃金が高くないからです。長距離輸送のドライバーたちは、例えば九州~東京間であれば4泊5日、しかも車中泊で往復します。なかなかつらい仕事です。一方で賃金については、1990年代に行われた規制緩和によって業界への参入企業が増えた結果、安値競争が起き、それが賃金水準の上昇を妨げる要因になりました。今回の時間外労働の上限設定によって、労働環境については改善されたとしても、賃金が上昇しない限り、若い世代はドライバー職を魅力的な仕事とは感じないでしょう。

荷待ち時間や荷役作業の改善が必須となる

 そうした中で輸送力の低下を食い止めるためには、物流の効率化を図っていくことが重要になります。特に改善の余地があるのが、荷待ち時間と荷役作業です。
 現状では、ドライバーが納品先(着荷主先)に時間どおりに到着しても、荷待ち時間といって、3時間や4時間待たされるといったことが日常的に起きています。明らかに時間の無駄です。
 また日本では商慣行として、ドライバーには運んできた荷物を倉庫の指定の場所に無償で収める作業も求められます。パレット積みになっている荷物であればそのままフォークリフトで収めればいいのですが、バラ積みの場合は手作業になるので大変です。
 こうした無駄や手間を削減すれば、1回当たりの輸送にかかる時間も大きく減らすことができます。国も2023年6月に策定した物流革新に関するガイドラインの中で、「荷待ち・荷役時間を2時間以内に収めること」や「荷主は物流事業者に対して、運送契約にない荷役作業をさせないこと」を求めています。
 物流業界では、デジタル化が遅れています。そのため発荷主と着荷主、運送事業者との間で、どの車が何の荷物を積んで、いつ到着するかといった事前出荷情報が共有化されておらず、これが荷待ち時間の発生や検品作業の煩雑さを招いています。デジタル化を進めることは必須です。
 一方、荷役作業を軽減するには、まずは現状ではバラバラになっている段ボールのサイズを統一することです。その上で同じサイズの段ボールをパレットに載せて運ぶことを標準にすれば、作業効率の改善が期待できます。物流の生産性向上を第一に考えて、段ボールのサイズや梱包のあり方を定める「デザイン・フォー・ロジスティクス」の発想が求められる時代になっているといえます。

Featured_89_02.jpg

「需要が供給に合わせる」スタイルへの転換

 「2024年問題」を乗り越える上でもう一つ大切になるのは、モーダルシフト、すなわちトラックによる貨物輸送から、鉄道や船舶を利用した輸送へのシフトを進めることです。その際にはこれまでのように「供給が需要に合わせる」のではなく、「需要が供給に合わせる」スタイルへの転換も不可欠となります。これまでトラック業界では、「明日の朝9時までに○○に荷物を運んでほしい」といった顧客(需要)の要望に合わせることを最優先にしてきました。しかし鉄道や船舶の場合は便が決まっていますから、リードタイムを従来よりも延ばすなど、逆に顧客側が供給側の都合に合わせざるを得なくなります。これは鉄道や船舶だけではありません。トラックについても、輸送力が限界を迎えつつある中では、今後は需要が供給に合わせることが求められます。
 こうした転換を図れるかどうかが、持続可能な物流を実現するためのカギを握ると考えています。

Series & Columns連載・コラム

  • スペシャルeight=
  • JR東日本TOPICS 行ってみた! 聞いてみた!JR東日本TOPICS 行ってみた! 聞いてみた!
  • SDGs×JR東日本グループSDGs×JR東日本グループ
    • 働く 集う 和む 空間の可能性働く 集う 和む 空間の可能性
    • カルチャーコラムカルチャーコラム
    • 地域発!世界を支える ものづくり地域発!世界を支える ものづくり
    • 東北に生きる東北に生きる
    • 働く 集う 和む 空間の可能性働く 集う 和む 空間の可能性
    • カルチャーコラムカルチャーコラム
    • 地域発!世界を支える ものづくり地域発!世界を支える ものづくり
    • 東北に生きる東北に生きる