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新しい学びのかたち──「学ぶ」をまなぶ<br>【新しい学びのかたち】 Case.1<br>理論と実践をまたぐ総合的な学びとして──<br>今、社会人が「農」に触れる意義

アグリイノベーション大学校横浜農場(横浜市泉区)での農場実習の様子。プロの農家である講師の解説と実践的なアドバイスを受けながら、受講者全員が実際に作業を行う

新しい学びのかたち──「学ぶ」をまなぶ
【新しい学びのかたち】 Case.1
理論と実践をまたぐ総合的な学びとして──
今、社会人が「農」に触れる意義

幅広い層を対象に、週末に都市近郊で農業を学べる「アグリイノベーション大学校」。これまでに約2,000人以上が受講しているが、必ずしも就農志望の人ばかりではないという。腰を据え改めて「農」を学ぶことで、私たちが気付き、得られる学びとは何だろうか。

実践的な農業技術と経営を1年の講義・実習で体得

 「アグリイノベーション大学校」の運営を担う株式会社マイファームは、2007年に創業したスタートアップで、「体験農園マイファーム」をはじめ、多様な農業関連事業を展開している。
 「私たちが目指しているのは、『自産自消ができる社会』。人と自然、農業の距離が近い社会をつくることです。そのためには、農業と触れ合える多様なタッチポイントを設けることが必要と考えました。中でも必須なのが学校です。家庭菜園などをきっかけに農業を勉強したいと思っても、かつては農業大学校のような『本気度の高い』学校しかありませんでした。そこで社会人の方も仕事をしながら気軽に通える、週末開講型の農業スクールの設立に至りました」と、同社かぜユニット(広報企画)長の松嶺仁宏さんは話す。
 2011年の開校以来、アグリイノベーション大学校の受講生は、2000人以上に上る。年齢層は20~70代まで幅広く、約8割は農業の経験がないという。
 設定しているコースは、「アグリチャレンジ」「アグリスタンダード」「アグリビジネス」の3コースに加え、オンライン受講の「技術経営コース」がある。最も受講生が多い「アグリスタンダードコース」のカリキュラムの特徴は、1年間で耕作技術と同時に、農業経営についても本格的に学べることだ。
 耕作技術については、栽培学や植物栄養学、土壌学などを総合的に学べる。また、神奈川や千葉、京都など全国5カ所の農場において有機栽培の農場実習を実施しており、実際に有機農業を営む講師の下、開始初月から畑に出て、種まきから施肥、収穫まで一連の作業を体で覚えていく。
 「有機栽培では、植物が病気になったり虫が寄ってきたりといった自然のメカニズムを体感できます。そうした体験に加え、座学では科学的に農業を行うことの意味を知り、環境問題などへの理解も深まります」と同社ヒトユニット農業教育チームの坂本直樹さんは説明する。

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(左)松嶺 仁宏さん
株式会社マイファーム かぜユニット(広報企画) ユニット長
(右)坂本 直樹さん
株式会社マイファーム ヒトユニット 農業教育チーム

 農業経営では、農業の世界の全体像を学んだ上で、ビジネスモデルや経営戦略の練り方、マーケティングやブランディングなどについて学ぶ。「技術だけではなく、経営を学ぶことで、農業に関わる意義を俯瞰して考えられるようになっていく」(松嶺さん)ことに加え、どのような農業人生を送るかについてのマイプランの作成も支援している。
 一緒に授業を受けた仲間とのネットワークができるのも魅力だ。卒業後も、農地のマッチングサポートや講師陣の圃場(ほじょう・※)見学会、販路の紹介などのサポートを受けられる。このように、「アグリスタンダードコース」には、将来的な就農を視野に入れる人にとって必要な内容が充実している。

※ 耕作する農地(田や畑)

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実習冒頭、「質問はできるだけ多くの人が聞けるシチュエーションで。その方がより多くの人のベースアップになる」と受講者に語りかけた横浜農場講師の千葉康伸さん(NO-RA代表)。他者の問題意識や多面的な視点に触れられるのもこうしたスクールで学ぶ意義の一つだ

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(左)土中保存した種生姜を掘り出す様子。腐らせずに越冬させるにはコツがいる。「自然相手の農業では全てが思い通りに進むことの方が珍しい。『失敗例』を畑で実際に見ることも大切な学びです」(坂本さん)
(右)実習農場では30点ほどの「重点品目」を設定し、種苗の管理から収穫まで経験する(写真は葉玉ねぎの収穫)

アグリビジネス参入を支援 ライフスタイルの充実も

 もっとも、受講生の目的は就農とは限らないという。
 「アグリビジネスに関わるために農業を学びたいという人もいれば、『将来どのように農業と付き合うか決まっていないけれども、とにかくやってみたい』という人もいます。私たちも就農が全てとは考えていません。農業を学んでおけば、以後の人生にさまざまな可能性が生まれてきます」(松嶺さん)
 実際、卒業生はさまざまな道に進んでいる。すぐに就農する人は全体の2割程度。それ以外の2割強は農業関連事業に携わっている。全国のオレンジ農家と組んで「オランジェット」というチョコレートのブランディングを行っている人や、農家と契約して玄米おにぎりを販売している人などはその一例だ。
 「技術と経営の両方を学んでいるので、農家の方と共通言語で話せる。だから話の進み方が早いようです。独立だけでなく、社内で起業している方もいます」(坂本さん)
 マイファームの紹介で、海外農業のコンサルティングや体験農園の管理・アドバイスなどの仕事をしている卒業生もいるそうだ。
 「私どもでも、卒業後に農業に関われる道を数多く用意しています。1年かけて、自分らしい『農』との関わり方を見つけていただければと考えています」(松嶺さん)
 農業を学ぶ意義は仕事やキャリアにまつわることだけではない。土に触れ、四季折々の作物と対話しながら作業することは、新たなライフスタイルや価値観の構築にもダイレクトにつながってくる。
 「受講者たちは本当に楽しそうに作業をしています。『農作業の帰りに仲間と居酒屋で談笑したことが今でも良い思い出』という声もよく聞かれます。人生は一度きりです。何かワクワクするものを感じるなら、それは学び始めるチャンスです」(松嶺さん)

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受講者からは「農業、そして食における持続可能性の問題がリアルに感じられるようになった」「農業を学ぶと『段取り力』がつく」といった声も聞かれた

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