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カルチャーコラム<br>津田昌太朗さん<br>フェスは予備知識がなくとも楽しめる「文化の図書館」です

津田昌太朗 つだ・しょうたろう
フェス・ジャーナリスト
兵庫県出身。慶應義塾大学卒業後、大手広告代理店に入社。27歳の時、「グラストンベリー・フェスティバル」(イギリス)参加をきっかけに退職し、これまでに海外100カ所、国内300カ所以上の音楽フェスを巡る。現在は情報サイト「Festival Life」代表を務め、さまざまなフェスでステージMCなども担当。著書に『The World Festival Guide 海外の音楽フェス完全ガイド』(いろは出版)がある。

カルチャーコラム
津田昌太朗さん
フェスは予備知識がなくとも楽しめる「文化の図書館」です

国内外の音楽フェスティバルに精通し、その魅力をさまざまなチャネルを通じて伝えている津田昌太朗さん。日本で根強く定着し、多様化が進むフェス・カルチャーの現在、そしてフェス未体験の方に向けた楽しみ方などについて伺いました。

フジロックに近づくため上京を決意

 公私あわせて年間40~50のフェスを訪れている僕ですが、実は元々、フェスには懐疑的というか、「食わず嫌い」でした。関西に住む洋楽好きの中学生だった当時、音楽誌で「ロック・フェス」という謎めいた催しが日本でも本格的に始まったと知って。ただ、興味を抱きつつも、誌面に踊る「ウッドストック(※1)の再来!」みたいな惹句には若干のうさん臭さを感じていました(笑)。
 初めて参加したフェスは、サマーソニック(※2)大阪。そこで好きなバンドのライブを続けざまに見られる興奮、フェス会場の独特の空気を体感し、急激にフェス好きと化しました。そうなれば次はやっぱりフジロック(※3)に行ってみたい。開催地は新潟県の苗場スキー場。関西からのアクセスは正直良くありません。そこで「少しでも苗場に近づこう」と東京の大学に進学しました。上京2年目にようやくバイト先から休みをもらい、ついに聖地・苗場へ。もちろん音楽にも感動しましたが、あの環境に一発で魅了されました。上越新幹線に乗り越後湯沢駅に降り立ち、満員のシャトルバスに揺られ、峠を越えて会場にたどり着く──そのプロセスにはいまだ胸躍ります。

※1 Woodstock Music and Art Festival。1969年8月にアメリカで開催され、ジミ・ヘンドリックスやジャニス・ジョプリンなどが出演した、ロック史に残る大規模野外コンサート
※2 SUMMER SONIC。国内外のアーティストが集う都市型フェスとして2000年に誕生。01年以降は千葉・大阪の2カ所で開催し、それぞれの出演者が入れ替わる形式で開催されている
※3 FUJI ROCK FESTIVAL。1997年に誕生した国内最大規模の音楽フェスで、日本のフェス・カルチャーを象徴する「大本山」的存在。99年以降は新潟県苗場スキー場を会場とする

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土地の空気と人に触れる「フェス旅」のすすめ

 学生時代にはライジングサンロックフェスティバル(※4)に参加するため、夏休みに「青春18きっぷ」で鈍行を乗り継ぎ、北海道まで旅をしたり。帰省中の友人の所在を聞いて途中下車し、彼らの実家に泊めてもらったこともあります。
 僕は開催期間の前後に周囲の街に滞在し、その土地の空気に触れる「フェス旅」をお勧めしています。未知の街や行き帰りの道中で、フェスがなければ生涯出会わなかったであろう人たちと交流する。「このフェスに参加したくて東京からやって来ました」と言うと会話が膨らむきっかけになり、地域の歴史や実情を深く知れたりもする。フェスに出店していた地元の飲食店を訪ねて「あのフェス飯、おいしかったです!」と言えば、一品サービスしてくれるかもしれません(笑)。
 海外のフェスに積極的に参加するようになったのも、そんな「フェス旅」の魅力を肌で知ったことが大きかった。フェスはさまざまな非日常的な体験や出会いをつなぐ「駅」にもなるんですよね。

※4 RISING SUN ROCK FESTIVAL in EZO。99年に始動し、毎年8月中旬に北海道石狩市にてオールナイト開催される野外ロック・フェス

「フェス大国」を生んだ日本人の気質

 日本人はカオス(混沌)とオーダー(秩序)、言い換えれば「ハレ」と「ケ」の使い分けが上手。普段は真面目な人たちが、地元のお祭りの日だけは無茶苦茶にはじけている。でも、大きなトラブルはあまり起こらないし、みんなにとって気持ちいい空間が自然と出来上がる。そんな、お祭り上手な気質も日本のフェス・カルチャーの発展を下支えしてきたのでしょう。
 多様性の豊かさ、懐の広さも日本が「フェス大国」と呼ばれるゆえんです。フェスに対し「マニアックな音楽の知識がないと楽しめない」というイメージを抱く方もいるかもしれませんが、今ではフェスにアイドルやお笑いタレントが出演することも増えました。ジャンルやファン層の垣根は取り払われ、オーディエンスのマインドも変化しました。「寛容」と言うと上から目線的かもしれませんが、異なる趣味嗜好(しこう)を持つ人々が一緒に場を楽しむ余裕が生まれた。それは文化的な成熟と言っていいと思います。
 そもそも、フェスは器。何を盛ってもいいし、何に盛ってもいい。フジロックの創始者である日高正博さん(株式会社SMASH)は、「フェスの中にあえてムダ(余白)を作る」と過去のインタビューで聞かせてくれました。ステージ以外の場所で大道芸人がパフォーマンスしていたり、メインとなるステージ間の移動ルート上にも小さな舞台があって、そこにアート作品が並べられたり......。そういった細部の仕掛けが楽しめるのもフェスならではの醍醐味です。
 近年は、アンティーク家具や古着、ハンドメイドの雑貨やパンなどを提供するマーケットと融合したタイプのフェスもあり、子ども連れや音楽になじみのない方にも気軽に参加できるイベントが実はたくさん存在します。また、お寺、能舞台、競輪場など、「こんなところで!?」というスポットでもフェスは開催されています。
 僕はフェスを「文化の図書館」だと思っています。そこに行けば、新しい何かにきっと遭遇する。必ずしも「予習」は必要ありません。むしろ真っさらな状態の方が、出合い頭の衝撃をたくさん味わえる。お目当てのバンドが出演するステージに向かう途中、別のステージに出ているバンドのパフォーマンスに吸い寄せられ、気付くと時が過ぎていた......そんな楽しみ方が、僕にとっては理想的です。
 そう、フェスには素敵な「わな」がたくさん仕掛けられている。読者の皆さんも臆せず「わな」にハマりに出かけてみてほしいですね。

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コロナ禍以降に参加した国内外のフェスのリストバンドを披露してくれた津田さん。下の写真は23年3月に香港で開催された都市型音楽フェス「クロッケンフラップ」での一枚

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