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鉄道インフラ維持管理の現在とこれから<br>JR東日本の取り組み②<br>JR東日本による大規模地震・集中豪雨への対応

鉄道インフラ維持管理の現在とこれから
JR東日本の取り組み②
JR東日本による大規模地震・集中豪雨への対応

JR東日本では日常的な維持管理業務のほか、大規模地震・集中豪雨等による被害を予防・軽減するための災害対策にも取り組んでいる。本社設備部門における災害対策の方針と、それを実行する現場である仙台土木設備技術センターの取り組みについて、各担当者に話を聞いた。

※掲載している各情報は、2023年6月時点のものです

福島県沖地震を踏まえ耐震補強計画を拡大

 JR東日本は過去に発生した大規模地震を教訓に、三つの方針を打ち出している。それが土木構造物を大きく壊さない「耐震補強対策」、地震が起きたら走行中の列車を早く止める「列車緊急停止」、脱線後の被害を最小限に留める「(線路からの)逸脱防止」だ。
 中でも1995年に発生した阪神・淡路大震災以降は、大規模地震・首都直下型地震に備えた中長期計画を立て、高架橋柱、橋りょう、盛土・切取(切土)、トンネルなどの鉄道土木構造物を対象に計画的な耐震補強工事を実施している。
 「JR東日本は過去に発生した大規模な地震による被害を分析することによって新たな知見を得て、同種被害の再発防止の観点から、都度、耐震補強の範囲や対象構造物を拡大させてきました。2022年3月に発生した福島県沖地震では、一部新幹線高架橋柱において桁が沈下する被害が発生したため、耐震補強計画を見直し、新幹線高架橋柱は33年度までに約1万3200本、ラーメン橋台(※)は28年度までに約6000本の耐震補強を進めていきます」とJR東日本鉄道事業本部設備部門土木ユニット(耐震補強)の東條将人副長は話す。

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東條将人 副長
JR東日本 鉄道事業本部 設備部門
土木ユニット(耐震補強)

 高架橋柱の耐震補強は主に、①鋼板巻き耐震補強工法、②RB(リブバー)耐震補強工法、③一面耐震補強工法の三つがある。
 ①は高架橋の柱外周に鋼板を設置する工法で、最も施工しやすく工費も抑えられる。②は鋼材の代わりに補強鋼材を巻き付ける工法で、高架下にクレーン車等の建機を入れられないときなどに適用される。③は柱一面から補強鉄筋と補強鋼板を配置する工法で、高架下建物等の支障物が多く介在する場合に適用されるという。
 「これらの耐震性能にほぼ違いはありませんが、JR東日本管内に点在する施工エリアの環境・条件はそれぞれ異なるため、その時々で工法を使い分けながら施工を取り進めています」(東條副長)

※ ラーメン橋とは、主桁と橋脚とを鋼結にして一体としたラーメン構造の橋のこと

年々増加する集中豪雨への対策

 大規模地震と共に近年懸念されるのが集中豪雨である。気象庁発表の「全国(アメダス)の1時間降水量の年間発生回数」によれば、大雨の年間発生回数は年々増加傾向にある。特に1時間降水量80㎜以上、3時間降水量150㎜以上、日降水量300㎜以上など「強度の強い雨」ほどその増加率が大きくなっているという。
 「1時間降水量が『80㎜以上』に達した降雨発生回数を年推移で比較してみると、1976~85年の10年間は年平均14回。これを直近10年間(2011~20年)で見ると、約2倍に当たる『26回』に増加しています」と語るのは同ユニット(鉄道防災)の浜田栄治チーフだ。

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浜田栄治 チーフ
JR東日本 鉄道事業本部 設備部門
土木ユニット(鉄道防災)

 最近では19年に発生した「台風19号」が、JR東日本エリアに甚大な被害をもたらした。鉄道土木構造物の具体的な被害状況としては、中央本線(梁川~四方津間)の土砂流入、両毛線(大平下~栃木間)永野川橋りょうの橋台背面流出、水郡線(袋田~常陸大子間)第六久慈川橋りょうの橋桁流出などが挙げられる。
 「世界的な関心事でもある気候変動の影響により、局地的な集中豪雨に見舞われる頻度は確実に増えているといえます」(浜田チーフ)
 JR東日本はそうした集中豪雨への対策3本柱として、「防災強化」「運転規制」「災害検知」を打ち出している。中でも東北・上越・北陸新幹線における降雨防災強化策では、21~23年度の3カ年計画を立て、盛土・切取のり面や自然斜面のある区画のうち土砂災害の恐れがある場所に対策工事を実施。線路沿線・トンネル上部へ土砂流入防止柵を設置し、土砂崩壊を防止するためののり面防護工事の施工を行うなど、その対象数は3カ年で約200カ所に上っている。
 「そのほか、鉄道土木構造物においては集中豪雨による直接的被害のみならず、河川増水により橋りょうが流出・変位するようなケースもあります。JR東日本ではその対策として、増水被害が見込まれる橋りょうの支柱部分に計測機器を設置し、洗掘(激流などで土砂が洗い流される現象)が起こる恐れがある場合は列車の運行を止め緊急点検を実施します。その後、安全が確認でき次第、運転を再開します」(浜田チーフ)

土木構造物の維持管理、自然災害対応の最前線を担う

 仙台土木設備技術センターは、東北本部管内における宮城県・山形県・福島県エリアの新幹線(223.6㎞)と在来線(1437.5㎞)の土木構造物の維持管理、工事監督、自然災害時の対応を担う、総員98名(23年6月現在)の技術部隊だ。
 東北エリアは山間線区が多く、豪雪・地震・降雨などの自然災害が多いのに加え、土木構造物自体も凍害を受けるなど「寒冷地ならでは」の変状に見舞われることがある。同センターの髙橋亮副長は、「技術員はそうした東北エリア特有の課題に対して自己研鑽を積みながら、日夜、土木構造物の維持管理および工事監督に当たっています」と力強く話す。

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髙橋亮 副長
JR東日本 仙台土木設備技術センター

 同センターは現在、浜田チーフ、東條副長ら本社設備部門が策定した方針を受け、東北新幹線の降雨防災強化対策の特命プロジェクトを遂行中だ。
 しかし、ここにも当地ならではの課題が発生する。それは、のり面防護工事や土砂流入防止柵設置などの防災強化対策を必要とする場所の多くが「山間」にあることに起因する。
 「東北エリアには奥羽山脈などの脊梁(せきりょう)があります。工事エリアも山に囲まれた地域が多く、例えばのり面防護工事であればプラントヤードなどの工事を施工するためのスペースが必要となるため、山間のエリア周辺を工事区画として確保しなければなりません」(髙橋副長)
 この土地の確保が難題だ。JR東日本の所有地でない場合、地権者との協議や関係自治体と交渉の上、理解を得る必要が出てくる。地権者がすぐに見つかればよいが、山間の土地ともなればなかなか見つからないことも。さらに、工事エリアに埋蔵文化財や保安林などがあると、多くの協議や申請が必要となるケースもあり、工事計画を見直さざるを得ないときもあるという。
 「時に、本当に同じ目的の工事なのかと思うほど、その都度工事の条件・環境が変わっていくため、工事計画は最低でも3~4カ月前から綿密に立てています」(髙橋副長)

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東北新幹線の降雨防災対策として、自然斜面やトンネル上部斜面など災害が生じる可能性のある斜面を対象に、2021~2023年度の3カ年でのり面防護工事(上)や土砂流入防止柵(下)の設置を進めている

防災対策の基本は「人」
大地震を想定した訓練も実施

 同センターは大規模地震対策として、高架橋耐震補強・橋脚耐震補強・トンネル覆工剥落対策などを実施している。また22年3月16日に発生した福島県沖地震被害に対する復旧工事も、本社・新幹線統括本部等と連携しながら行っている。

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降雨防災対策と同様に、東北新幹線の大規模地震対策として、ラーメン高架橋柱耐震補強(上)、橋脚耐震補強(RC巻補強・中)、トンネル覆工剥落対策(下)等も推進している

 仙台土木設備技術センターは、東日本大震災による甚大な被害に見舞われた経験上、社員の防災に対する意識が非常に高い。
 「あの未曾有の震災からすでに12年が経過しました。当センターに新しく配属された20代の社員とも話をしますが、彼らは震災時にまだ子ども。当時を経験した上の世代が、あの震災から得た教訓をしっかり伝えていかなければいけません」と同センターの大井手裕佳副長は話す。

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大井手裕佳 副長
JR東日本 仙台土木設備技術センター

 防災への高い意識は同センター最大の強みでもある。発災時に迅速に対処できる技術員を育成するため、箇所独自で大規模地震に対応する訓練を実施しており、技術員たちも本気で取り組む。
 「訓練は年に1回、センター全体を対象に『実際に地震が発生した想定』で行われます。訓練当日は業務時間中に『○時○分、○○駅周辺で震度○の大規模地震が起きました』と通達され、被災現場では模擬的な変状の課題を出されることもあります。技術員は訓練が始まるその瞬間まで、どこで何が起こるか、一切知らされません」(大井手副長)
 同センターは大規模地震がいつ起こっても的確に対処できるよう、あらかじめ想定できるパターンに対応した計画を立てている。通達後はその計画に沿いつつ「誰と誰が何人どこに向かい、何を対応するか」など具体的な対処・応対を考えていく。訓練は本番さながらの緊迫感のもとで実施される。髙橋副長は最後にこう締め括った。
 「鉄道土木構造物の維持管理・防災対策と聞くと、どうしてもコンクリートや鉄筋などハード面の印象が強いと思います。しかし、降雨防災・地震対策のいずれにも言えることですが、そこには必ず『人』がいます。JR東日本エリアでの協議・交渉の相手も人、当センターで行われる人材育成も人です。鉄道土木だからといって材料や技術のことで頭でっかちになるのではなく、いつも『人』の存在を忘れない。その上で安全な列車運行に貢献できる、質の高い鉄道土木構造物の維持管理を目指したいです」
 土木構造物の維持管理において、新技術の開発は必須だが、それらを支え、用いるのは「人」。その両輪があって、初めてお客さまに安全・安心なサービスを提供できるのだろう。


気象レーダーを導入し、ゲリラ豪雨に対する運転規制を実施

 JR東日本は2020年8月、新幹線の運行判断にレーダー雨量規制を導入した。
 それまでの列車運行は「代表点」に設置された雨量計による実測雨量を当該規制区間の降雨量に適用。代表点での雨量(実測値)が基準値に到達したときには、運転規制区間の列車速度を制限するなどして運行していた。しかし近年増加する降雨災害により迅速に対応するため、同年から従来の運行速度制限に加え、気象レーダーの解析雨量を用いて「線路沿線全体」の降雨状況を把握。仮に路線上の特定地点で「数十年に一度レベル」の大雨が見込まれた場合は的確な運転規制(運転の一時見合わせ)も実施している。レーダー雨量規制は、23年6月から在来線全線にも適用された。

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