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鉄道インフラ維持管理の現在とこれから<br>交通インフラ長寿命化に求められるメンテナンスの視座

鉄道インフラ維持管理の現在とこれから
交通インフラ長寿命化に求められるメンテナンスの視座

日本の土木構造物の多くは、戦後の高度経済成長期に建造された。そのため、現在は老朽化が進み、今後の対応が社会課題となりつつある。JR東日本グループにとってもインフラの維持管理は、鉄道事業のサステナブルな運営を実現する上で重要なファクターである。今回は、鉄道の土木構造物も含めた交通インフラの維持管理について、東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻・加藤浩徳教授に話を伺った。

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加藤 浩徳 かとう・ひろのり
東京大学大学院工学系研究科
社会基盤学専攻 教授
1970年奈良県生まれ。93年東京大学工学部土木工学科卒業、95年同大学院工学研究科土木工学専攻修了、99年に東京大学より博士(工学)授与。財団法人運輸政策研究機構調査役、東京大学大学院工学系研究科専任講師などを経て、13年より東京大学大学院工学系研究科教授。研究分野は交通計画、交通政策、交通経済学。交通政策審議会や政策評価審議会の専門・臨時委員をはじめ、国内の官公庁や自治体の多数の委員会委員を歴任。OECDのワーキンググループなど国際関連機関の業務にも携わる。

「50年超え」の土木構造物が加速度的に増えていく

 橋りょう、トンネル、河川、港湾などといった日本の交通インフラは、1950~70年代の高度経済成長期に、その多くが建造されています。特に国民の自家用車保有率が上がった60年代には、道路交通に対する需要の高まりと共に、たくさんの道路橋が建てられました。
 交通インフラとして使われる土木構造物の経年変化は、大体「50年」を区切りに議論されますが、例えば2020年の時点では「建設後50年以上経過する道路橋」が約30%、20年後の40年には約75%を占めるようになります。このことから国土交通省は、「今後20年で建設後50年以上経過する施設の割合が加速度的に高くなる」と指摘しています。とはいえ、「だから全ての土木構造物を速やかに"建て替え"なければいけない」とするのは早計です。

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*1 建設後50年以上経過する施設の割合については、建設年度不明の施設数を除いて算出 *2 国:堰、床止め、閘門、水門、揚水機場、排水機場、樋門・樋管、陸閘、管理橋、浄化施設、その他(立坑、遊水池)、ダム。独立行政法人水資源機構法に規定する特定施設を含む。都道府県・政令市:堰(ゲート有り)、閘門、水門、樋門・樋管、陸閘等ゲートを有する施設及び揚水機場、排水機場、ダム *3 一部事務組合、港務局を含む

 交通インフラにまつわる事故といえば、12年の笹子トンネル天井板落下事故が印象的ですが、そのころを境に「壊れたら直す」という事後対応のスタンスから、「壊れる前に直しておく」といった予防対応へ移行したように感じます。すなわち「構造物ヘルスモニタリングで状態把握と定期検査を行い、場合によって適切な補修を行う」――官民ともにメンテナンスを意識した維持・更新の考え方が急速に広まったのです。

人員・予算共に不足する中、国民のオーナーシップに期待

 では、日本の交通インフラの維持管理の課題とは、どのようなものでしょうか。まず顕著なのは、高齢化に伴う深刻な人材不足です。最新機材・テクノロジーの活用が進み、かつて行われてきた人力のみに頼った古典的検査手法は減少傾向にありますが、それでもなお、交通インフラの維持管理には人手がかかります。ましてや日本全国の構造物の状態を"全量把握"するには、かなりの人員投下が必要となるでしょう。
 日本よりも交通インフラの整備が少し早く進んだアメリカでは、先の大統領選でバイデン大統領が大型インフラ投資法案(21年成立)を掲げるなど、抜本的な「インフラ投資」が進行中ですが、日本ではそこまで及んでいないのが現実です。特に地方では、メンテナンスの予算が取れずにご苦労されている自治体が多いと聞きます。
 都市から地方への人材投入などは、喫緊の課題といえますが、中長期的に見れば、土木構造物にまつわる情報整備、ひいてはビッグデータ化・AI活用なども極めて重要な論点となるでしょう。
 その意味で、私は国民一人ひとりのオーナーシップに期待しています。そもそも交通インフラは、国民全員の資産です。例えば、外出時に道路陥没を見つけたら、「それは行政の仕事だから」と考えずに、自分ゴトとして行政機関に一報を入れる。そうした情報が集まれば、今よりもずっと維持管理しやすくなるでしょう。
 実際に横浜市など、市民がSNS上で写真や位置情報を送信できる、道路損傷の通報システムを整備している自治体もあります。
 また、国土交通省は、道路データプラットフォーム「xROAD(クロスロード)」を整備しようとしています。これはデジタル道路地図などを基盤として、さまざまなデータをひも付けることを可能とするものです。現在は「全国道路施設点検データベース~損傷マップ~」において道路橋、トンネル等の点検結果などの基礎的なデータを公表しています。ただし、地方自治体の道路についてまだデータが不足しているのが現在の課題です。
 今後はそうした取り組みを意識しながら、自治体・事業者だけに委ねるのではなく、国民一人ひとりのオーナーシップが求められるのではないでしょうか。

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メンテナンス意識が高い鉄道インフラの維持管理

 他方、交通インフラの中でも鉄道インフラに目を向ければ、鉄道が開業した明治時代に建造された土木構造物も多く、「100歳超え」の橋りょうもざらにあります。それらが今もなお顕在なのは、建造された当時から鉄道事業者のメンテナンスに関する意識が高く、長い歴史の中で補修・補強工事が丹念に行われてきた証左です。
 鉄道インフラの維持管理における課題は、やはりほかのインフラと同様、地方をどうしていくかではないでしょうか。この先も日本の人口減少は続き、地方鉄道でも人材難・収益減が見込まれています。そのため、メンテナンスにかかる技術の継承、あるいはテクノロジー活用による維持管理業務の効率化などが必要で、今後に期待したいところです。

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