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新しい移動の概念 「MaaS」の現在<br>Case.2 群馬県前橋市 地域型MaaS「MaeMaaS」<br>地域の事業者と協力し交通の課題を解決

新しい移動の概念 「MaaS」の現在
Case.2 群馬県前橋市 地域型MaaS「MaeMaaS」
地域の事業者と協力し交通の課題を解決

群馬県前橋市では、市民の「過度なマイカー依存」への問題意識から、JR東日本などと共同で、自治体オリジナルのMaaSである「MaeMaaS(マエマース)」を開発、展開してきた。そして、この「MaeMaaS」が2023年3月15日より「GunMaaS(グンマース)」へとサービスをリニューアル。今後前橋市のみならず、群馬県全域へのサービス拡大を目指している。では、「MaeMaaS」が誕生した経緯や、もともとのサービスはどのようなものだったのか。前橋市未来創造部交通政策担当部長の細谷精一さん(2023年4月より未来創造部長。原稿中は取材時の役職で掲載)に話を伺った。

前橋市版MaaSの発端は「過度なマイカー依存」

 2022年11月9日の前橋市長定例記者会見の冒頭、「MaeMaaS」が社会実装されたことを山本龍市長が発表した。
 「誰も使わない交通ならそれはサービスにならない。前橋市はこの10年間、一つひとつステージを上げてきました。(中略)市民の足を便利にしていく──そんなストーリーがいよいよ見えてまいりました」(市長定例記者会見より)
 人口33万人の前橋市。当地における目下の課題は「過度なマイカー依存」である。もとより市街地が低密度に形成されており、4人に1人が100m先のコンビニに行くのにも車を使う。公共交通(鉄道・バス・タクシー)の利用率が低く、交通事業者(バス6社・タクシー9社)ごとにサービスが分かれて提供されている。さらには高齢化、そして昨今の高齢者免許返納問題......。まちなか移動の課題は、ますます深刻化していた。
 「県の調査では免許非保有者の外出率は保有者に比べて低い状態です。外出時の移動手段も公共交通の利用率が5%と低く、最も多いのは家族・親族による自動車での送迎で42%でした。送迎者の負担の大きさを考えれば、これは高齢者だけの問題でもありません」と話すのは、前橋市未来創造部交通政策担当部長の細谷精一さんだ。

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細谷精一さん
前橋市 未来創造部 交通政策課
交通政策担当部長
兼交通政策課長

 この状況に対し、市は乗合バス・上毛電鉄・マイタク(相乗りタクシー)などに助成、充実を図ってきた。しかし、人口減少による税収減も見込まれる中、運行維持にかかる市の負担の増加は続いた。

マイナンバーカードなどを活用した認証基盤を構築

 前橋市は国土交通省の「日本版MaaS推進・支援事業」の採択を受け、19年から市独自のMaaS開発に着手している。これまでに機能拡充と実証実験を繰り返し、22年11月にはJR東日本高崎支社、一般社団法人ICTまちづくり共通プラットフォーム推進機構(TOPIC)と三者連携協定を締結、MaeMaaSをさらに推進してきた。
 MaeMaaSの機能の一つがリアルタイム経路検索(バスロケーション表示)だ。目的地までの経路を検索すれば、市内で利用可能な鉄道・バス・デマンド交通(乗合バス)・シェアサイクルをシームレスにつなぐ最適ルートが提案される。電車・バスのリアルタイム遅延情報も確認できるほか、デマンド交通はアプリ上から予約可能だ。
 また、ドライバーにスマホ画面のフリーパスを提示すれば、当該エリア内の公共交通が乗り放題となる「デジタルフリーパス」もMaaS内で販売。現在まで4種類のフリーパスが販売されている。

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「MaeMaaS」で使えた機能はさらに拡充し、群馬県版MaaSの「GunMaaS」へと引き継がれている

 「ほかの大きな特徴は、交通系ICカードやマイナンバーカードを連携させた個人認証基盤です。クラウド型ID認証システム『ID-PORT』にSuica(ID番号)とマイナンバーカード情報(居住地・生年月)の属性をひも付けし、フリーパス購入やデマンド交通の市民割引に必要な認証を行っています」

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前橋駅バス総合案内板では、定期的に「MaeMaaS」の案内をすることで認知度を高め、利用を促進してきた

さらなる広域化・高度化で群馬版MaaSに発展

 19年から始まったMaaSの開発、高度化は、JR東日本やTOPICとともに実証実験を行いながら、常時利用者や交通事業者の声をつぶさに聞き、即座に開発へフィードバックしていくアジャイル開発(※)で行われた。「一般的にイメージされる自治体の仕事とは、かなり毛色が違う手法で進めてきました。それだけ市民のマイカー依存は長年の課題でした。市長の熱意のもと市職員が一体となって取り組んでいます」と細谷さん。
 マイカー依存は前橋市のみならず県域の共通課題であり、群馬県・前橋市は「デジタル田園都市国家構想推進交付金」に共同申請し、既に採択を受けている。さらに23年3月9日には、山本一太群馬県知事と山本龍前橋市長が合同記者会見を開き、MaeMaaSの実績を生かし、全県へのサービス拡大を目指す群馬県版MaaS「GunMaaS」のサービス開始を発表。3月15日からは「GunMaaS」として取り組みが県内全域に広がり、今後さらに発展していく見込みだ。
 「そのためには交通事業者の協力が欠かせません。少子高齢化や過疎化で『公共交通は継続が苦しい』などと言われますが、コロナ禍でそれがより鮮明になりました。そんな中で、地域に特化したMaaSの存在は、事業者の方々と一緒に苦境を乗り切るための議論をしやすくするものです。交通手段を超え、融合・一体化されたサービスの構築を目指していきたいと思います」
 地域型MaaSの一つの在り方として、今後の前橋市・群馬県の挑戦は全国から注目されている。

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2023年3月9日の山本一太群馬県知事と山本龍前橋市長による合同記者会見の模様

※システムやソフトウェア開発におけるプロジェクト開発手法の一つで、大きな単位でシステムを区切るのではなく、小単位で実装とテストを繰り返して開発を進める手法のことをいう

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