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カルチャーコラム<br>フルーツポンチ 村上健志さん<br>なんでもないことが主役になる 俳句の魅力を伝えたい

村上健志 むらかみ・けんじ
お笑い芸人・俳人
お笑いコンビ・フルーツポンチのネタ作り・ボケ担当。2016年バラエティ番組『プレバト!!』出演をきっかけに句作を始め、その才能を発揮。自身の句は2021年度版の中学3年生向け教科書にも掲載された。著書に『フルーツポンチ村上健志の俳句修行』(春陽堂書店)があり、SNSなどでも俳句の魅力について発信を続けている。

カルチャーコラム
フルーツポンチ 村上健志さん
なんでもないことが主役になる 俳句の魅力を伝えたい

お笑い芸人として活躍する傍ら、俳人としても注目を集める村上健志さん。テレビ番組出演がきっかけで始めた俳句で才能を開花させ、以後、その魅力を伝えるべくさまざまな活動をされています。「うまく説明できないけど、なんかいい」という俳句の素晴らしさについて伺いました。

ルールが多いからこそ難しくて楽しい

 俳句を始める1年くらい前から短歌をやっていたので、俳句もきっとできるはず。そうした根拠のない思い込みから『プレバト!!』で俳句を始めたんですが、最初の感想は「全く勝手が違う!」でした。
 まず、短歌に比べて圧倒的にルールが多い。俳句には自由律という定型に縛られないタイプもあるんですが、僕がやっている有季定型(※)には、十七音と季語という縛りがある。短歌は三十一音と文字数も多いので、ショートストーリーくらいの思いは込められたりするんです。でも俳句だと表現できるのはほんの一場面。「それを俳句で伝える必要ある?」って最初は戸惑いました。
 でも番組で初めて作った句で「才能アリ」の評価をいただき、2回目に作った「テーブルに君の丸みのマスクかな」は大絶賛してもらえました。それで完全にハマりましたね。今でも代表作として取り上げてもらえてありがたいです。もともと褒めてもらえるとすごく喜ぶタイプなので(笑)。
 マスクは冬の季語です。テーブルに置かれたマスクの曲線に君を感じているという思いを込めた句ですが、ここには、テーブルの上に君の着けていたマスクがあるという映像しか詠まれていない。残りの余白の部分を埋めるのは読者なんです。二人は付き合っているのか、君はもうここにはいないのか、それともトイレに立っただけなのか。作者の意図とずれていてもいい。見た人がその余白部分を自分の経験や感性で「こういうことだろう」と想像する。それが俳句の楽しさの一つだと思います。上級者が集まる句会でも、句によっては解釈に幅が出ます。解釈の違いが議論になるところも、俳句の持っている面白さだと感じます。

※五七五の音節合計十七音で、必ず季語を含まなければならない俳句の形式

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ちょっとしたいいことを見つけて形に

 俳句の良さがわかりにくい理由の一つに「だからなんなの?」というのがあると思うんです。「マスクがテーブルに置いてあって......それで?」みたいな。その感覚もよくわかる。でも普段の生活の中にも「なんかいい」ってこと、ありますよね。例えば本棚の本を作家ごとに並べ直し終わった夜──うん、なんかよかった。自己満足かもしれないけど(笑)。例えばそんなふとした瞬間も、俳句にすれば残しておける。わざわざ本棚を整理しなくとも、観察や想像で「ちょっといい」を見つけることができます。
 「ちょっといい」の見つけ方っていろいろあると思うんですけど、僕は「いいところランキング」を作って20位あたりのものを俳句のタネにしています。例えば、たい焼きのいいところを挙げていくと、「甘い」「美味しい」「あったかい」とかが上位にくるでしょうけど、だんだん考え込むようになって、20位くらいになると、「たい焼きを買った釣り銭を賽銭箱に投げたことがある」とか、「たい焼きがずらーっと並んでいるのが面白い」とか、かなり個人的な体験や感想に近づいてくるんです。そうすると普段は気付かないところ、人の気付かないところが現れて作品にも個性が出る。そうしたタネを探すだけでも生活がちょっと楽しくなると思いませんか。「なるほど、楽しそう!」と思った人は俳句を作ってみるときっとハマります。俳句はラッキーパンチが出やすいと僕は思っていて、とにかくたくさん作ってみるといい。その中でコンテストに応募したりSNSに投稿したり、初心者でも意外とやれるものですよ。
 「意味がわからない」という理由で俳句を遠ざけてしまう人には、あえて「意味は探さなくていい」と伝えたいです。俳句は映像を言語化しているもの。鑑賞する側がそれを再生して組み立て直せば、その人なりの再現ができ、詠んだ人の感動や思いを追体験できます。「なんか、いい」でいい(笑)。そこに意味や意義は必要ありません。正解もないんじゃないでしょうか。

世界ってそんなに悪くないと思えるはず

 僕は、富士山のようなスケールの大きなものよりも、身近で日常的なものに魅力を感じます。
 絶景スポットに行かなくても身の回りに美しいものはある。そう気付かせてくれたのが俳句です。空の青が昨日と今日で違うことに気が付いた。月を近くで見たくて滑り台に上ってみた。普段は通り過ぎる公園で、イヤホンを外して耳を澄ましてみた。俳句を始めて変わったことはたくさんあります。
 生きづらい世の中とか言われるけど、俳句のタネを探すつもりで辺りを見回していると、世界ってそんなに悪くないなと思えるはず。いつも見ている景色でも角度を変えてみるといろんなものが見えてくるものです。そして、自分が感じた「ちょっといいな」の瞬間を形に残しておけるのが俳句。
 なんでもないことが主役になる。
 一人でも多くの人にそんな俳句を楽しんでいただけたらうれしいです。

Sries-Column_53_02.jpg

鉄道に関する作品を2句、村上さん自ら短冊に書いてくださいました

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