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オフピークで何が変わるのか<br>オフピークの歴史<br>鉄道の混雑とオフピークの歴史をたどる

1964年の新宿駅。朝のラッシュアワーには、人が溢れんばかりにいるホームの光景が当たり前だった(朝日新聞社提供)

オフピークで何が変わるのか
オフピークの歴史
鉄道の混雑とオフピークの歴史をたどる

「オフピーク」という言葉が昨今、注目されている。当初は鉄道の混雑率緩和の観点で使われ始め、最近では時期や時間帯によって価格が変わるダイナミックプライシングに関連して言及されることも多い。本稿では、日本における鉄道の混雑とオフピークの歴史についてたどってみたい。

大正時代から満員電車は「東京名物」だった

 「東京の名物 満員電車 いつまで待っても 乗れやしねえ」
 1918(大正7)年にヒットした演歌師・添田知道の流行歌「パイノパイノパイ」(東京節)の歌詞の一節だ。日本における鉄道混雑の歴史は、少なくとも大正時代には始まっていたことがうかがえる。
 40年代の戦時中には、鉄道の輸送力は軍事輸送に優先投入されたため、通勤時の不足分を補うべく官庁の出勤時間が変更されるなど、早くも時差出勤が行われていた。日本におけるオフピークの始まりともいえる。なお、ヨーロッパも同様で、第二次大戦中には軍事輸送が優先され、時差出勤が行われていたという。
 ただし、ヨーロッパが日本と異なる点は、モータリゼーションが進み、主要な交通手段が鉄道から自動車へと変わっていったこと。翻って日本は、ヨーロッパほど自動車にシフトせず、特に首都圏では鉄道が主役であり続けた。
 そのため、戦後も鉄道の混雑は激化、諸外国に比べて時差通勤の必要性が説かれ続けることになる。

過去も繰り返し行われていた時差出勤の呼びかけ

 鉄道には混雑率というものがある。「輸送人員÷輸送力」で算出される指標で、都市鉄道の主要路線の混雑率は各路線の「最混雑区間における1時間当たりの平均混雑率」というかたちで、毎年、国土交通省が調査・公表している。

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 この混雑率は60年代が最も酷い。65年の横須賀線は307%、中央線快速は289%。車内の蒸し暑さから気を失う人が出たりするほど過酷な状況だったという。
 このような事態を受け、61年に当時の国鉄は時差通勤・通学を呼びかけた。同年、東京都は通勤ラッシュを緩和するため、時差出勤を導入し、職員の出勤時間を時限で45分繰り下げた。しかし、その後時差出勤が打ち切られると、中央線や総武線の混雑度は再び上昇したという。

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交通混雑が社会問題化し、1964年11月には当時の佐藤栄作首相が新宿駅に視察に訪れる事態となった(朝日新聞社提供)

 65年には内閣府交通対策本部が、通勤通学時間帯の交通混雑激化を緩和するために「時差通勤通学対策」の実施を決定。国家公務員の時差通勤と、地方公共団体、民間事業所、学校等における時差通勤・通学の推進を呼びかけ、その後も一部改正を経ながら継続された。
 なお、国鉄による時差通勤の呼びかけは、75年の毎日新聞での報道を最後にあまり見られなくなる。理由としては各鉄道事業者が、車両や駅の改良、複線化・複々線化などに注力した結果、ある程度の混雑緩和に成功したことが挙げられる。とはいえ、60年代よりはかなり改善されたものの、首都圏の通勤ラッシュはその後も続く。
 93年には、当時の運輸省と労働省が「快適通勤推進協議会」を設置。93~2007年までオフピーク通勤キャンペーンを行い、一部効果は見られたものの、活動としてはいまひとつ盛り上がらなかった。
 その後、IC定期券の普及に伴い、ポイントを付与する形でのオフピーク通勤キャンペーンも鉄道事業者によって何度か行われた。
 そして昨今、「オフピーク」に対する人々の意識を根本から変える出来事が起こる。新型コロナウイルス感染症の拡大である。

コロナ禍で意味合いが変わった「オフピーク」

 コロナ禍は人々の意識や行動を大きく変えた。感染リスクを低減する観点から、リモートワークや時差出勤はより身近なものとなり、オフピークという言葉がさまざまなところで用いられるようになった。加えて、オフピークの持つ言葉のニュアンスも変わってきている。混雑を避けた時間帯に買い物をする「オフピークショッピング」、食事をする「オフピークグルメ」といった言葉が生まれ、各事業者が積極的に「オフピーク」をアピールするようになったことがその一例である。単に混雑を避ける意味のみならず、安全や快適性などの意味も付加されるようになったといえる。
 また、「お得」というイメージも生まれている。例えば、株式会社エンデューロが運営する24時間営業のスポーツジム「EVERFiT24」では、利用者の少ない0時から17時の入場を条件にオフピーク会員制度を設け、フルタイム会員より月会費を安く設定している。
 名古屋市のレゴランド・ジャパンは、カレンダーを「スーパーピーク」「ピーク」「オフピーク」「スーパーオフピーク」の4段階に分け、それぞれで料金を設定している。同社のホームページによると、レゴランド・ジャパンの1DAYパスポートで、当日の大人料金がスーパーピークで7400円、スーパーオフピークで5000円と、料金差を大きくしている。
 かくして、「オフピーク」はさまざまな意味合いを持つに至っており、今後の社会・生活様式・働き方等にさまざまな影響をもらたらすことに期待したい。


駅の乗車人員に見る人々の行動の変化

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コロナ禍で大きく減少した各駅の乗車人員

 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、人々の移動の傾向が大きく変わった。
 例えば、世界一の利用者数を誇る新宿駅において、2021年度のJR新宿駅の1日平均乗車人員は52万2178人。19年度の77万5386人と比べると約67%となり、30%ほど減っていることが分かる。なお、JR新宿駅の定期券乗車人員は21年度で1日平均29万692人。19年度は41万9608人なので同じく約3割の減少が見られる。
 この状況は乗車人員2位である池袋駅を含めたJR東日本の各駅で見られ、概ね30%前後の利用者が減っている傾向が確認できる。新型コロナウイルスが、人々の行動にいかに大きな影響を与えたかがうかがえるデータである。

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単位:人 *各駅の乗車人員はJR東日本ホームページ(https://www.jreast.co.jp/passenger/)を参照

日本人の働き方は今後、どうなるか?

 減った30%の人々は、どうなったのだろうか。
 定期券以外の利用者は、感染リスク低減のために「不要不急の外出」を避けた結果と推測できる。一方で、定期券利用者は広く浸透したリモートワークなどに理由を求めることができるだろう。
 実際、コロナ禍において、業種・職種にもよるが、仕事をする場所を会社に限定する必要はないことが分かった。各企業が以前から進めてきた働き方改革もあり、多様な働き方実現への動きは加速している。
 ポストコロナを見据える中、一方で、実施していたリモートワークを取りやめて出社に回帰する会社もある。またコロナ禍とは別に、これまでリモートワークを推奨していた海外のIT企業が、最近では出社を求めるケースも見られる。リモートワークは対面時に比べ、自然発生的なコミュニケーションが不足しがちになるという理由もあるようだ。
 今後、日本の人々の働き方はどのようになっていくのか。その渦中に私たちはいる。

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