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オフピークで何が変わるのか<br>東京都の取り組み<br>オフピーク通勤は混雑緩和だけでなく、災害時などの事業継続の備えともなる

オフピークで何が変わるのか
東京都の取り組み
オフピーク通勤は混雑緩和だけでなく、災害時などの事業継続の備えともなる

東京都は2017年からオフピーク通勤を促進する「時差Biz」、19年からはそれをさらに一歩進めた「スムーズビズ」に取り組み、新しいワークスタイルや企業活動の東京モデル確立を目指してきた。それらについて推進する東京都都市整備局のご担当者に話を伺った。

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普及啓発のため、ロゴマークも策定。希望する者は啓発活動に利用できることとしている

2017年から時差Bizをスタート

 東京都では2017年に策定した「都市づくりのグランドデザイン」や「『未来の東京』戦略」といったマスタープランにおいて、40年代の目指すべき東京の姿として、「鉄道のピーク時の混雑の解消」や「満員電車は過去のものになっていること」を設定。快適に通勤できる環境づくりに向けて、オフピーク通勤を促進する「時差Biz」に取り組んでいる。
 このムーブメントでは、民間企業に参加を呼びかけるとともに、集中的な取組期間を設定した上でのテレワークやオフピーク通勤の一斉実施の呼びかけ、ポスターや動画、専用ホームページ、SNSを用いた広報活動、混雑状況を見える化する鉄道事業者の取組紹介など、さまざま取組を行ってきた。
 さらに19年からは、東京2020オリンピック・パラリンピック大会とその先を見据え、時差Bizに加えて、働き方改革につながるテレワーク、大会開催時の混雑緩和に資する交通需要マネジメント(TDM)の取組を「スムーズビズ」と総称。新しいワークスタイルや企業活動の東京モデルの確立を目指してきた。
 時差Bizの開始当初、約300社だった参加企業は年々増加し、22年9月末には約3200社にまで達している。
 「参加企業に行ったアンケート調査では、時差Bizに参加したことによって『人事制度の社内浸透や利用促進につながった』『採用活動でアピールできた』等の声がありました。時差Biz促進に向けたムーブメントの輪は、着実に広がっていると感じています」と、東京都都市整備局都市基盤部交通企画課の担当者は語る。

オフピーク通勤の動きを今後いかに継続させるか

 17年以降、時差Bizの推進を図る中で、大きな影響を与えたのが、20年春からの新型コロナウイルス感染症の流行拡大だ。感染症対策の一環として、テレワークやオフピーク通勤など非対面・非接触、密回避につながる働き方を導入する動きが一気に加速した。
 東京都では20年より、時差Bizやスムーズビズの登録企業等を対象に、「企業の出勤状況調査」を定期的に実施している。これによると、コロナ禍となって約2年半が経過した22年9月分調査の時点でも、約半数の企業が時差出勤を、約7割の企業がテレワークを実施していると回答しており、これらの取組が多くの企業に定着しつつあることを確認できる結果であった。
 「一方で、『特に取り組んでいない』という回答も1割程度ありました。また、まん延防止等重点措置解除後のタイミングで実施した4月分調査では、時差出勤、テレワークともに1~2割程度の企業が、『先月よりも縮小』『今月は取り組まなかった』と回答するなど、一部取組縮小の動きが見られました。混雑緩和をきっかけに始まったオフピーク通勤などの取組を、今後も社会全体にいかに定着していくかが、課題になっていると感じます」
 東京都では、多くの企業の参考にしてもらうため、率先してオフピーク通勤等を実践・促進する企業の取組内容や実施背景、工夫などを取材し、ホームページをはじめとした媒体等で発信。またテレワークを普及・導入するための助成事業や、導入に向けた相談対応、セミナーなども行っている。
 「企業にとって、オフピーク通勤やテレワークの仕組みを構築しておくことは災害や感染症、気象の影響などによって従業員の出勤が困難になった場合に、業務を継続するための備えにもなります」
 東京都は今後も継続して取組を続けていく考えであり、このような行政側からのアプローチは、大企業だけでなく中小企業が時差Biz等を取り入れやすい環境づくりにもつながっていくといえる。


事例 三井物産株式会社
働き方改革を実施する目的は会社全体として競争力を強化するため

 各企業が新しい働き方を模索する中、三井物産株式会社も2015年から「働き方に関する社員意識調査」を実施。以降、「時間単位の年次有給休暇」「モバイルワーク」「リモートワーク制度」などの制度を導入してきた。その中で生まれたのが「個人単位の時差出勤制度」や「インターバル時差出勤」だ。
 「個人単位の時差出勤制度」は17年6月から導入された。1日当たりの所定労働時間数を維持したまま、通常の勤務時間帯(9時15分~17時30分)を起点に最大90分、15分単位で13パターンに変更した出勤時間から選択することが可能だ。事前に8週間の試験導入を実施し、アンケートで総じて肯定的な評価を得たことから、正式導入された。社内からは「通勤時間の満員電車のストレスから解放され、心の健康につながった」との声も聞かれるという。
 一方、「インターバル時差出勤」では、時差のある地域とのWEB会議等、深夜時間帯に働かざるを得ない社員が、次の勤務までの間に十分なインターバルをとれるよう、勤務時間シフトの選択肢を増やすべく、21年1月に導入された。
 さらに、同社の取り組みは止まることなく、22年4月からフレックスタイム制のトライアルを実施。1年間のトライアルで労働時間は総じて減少、時間に対する意識が高まったという成果から、23年4月より全社導入し、2つの時差出勤の制度がフレックスタイム制に切り替わる。コアタイムは10~15時で、フレキシブルタイム(※)は5~10時、15~22時となる。
 働き方の選択肢を拡充し、社員の判断で働き方を選択できるようにすることで、ワークライフマネジメントの実現・エンゲージメントの向上、「個」の魅力や活力の寛容につながり、組織パフォーマンスも向上して会社の成長や競争力に資する──。
 三井物産の考え方は一貫している。同社の取り組みは、制度ありきではない、より大きな目的を見据えた上での働き方改革が必要なことを教えてくれる。

※ 労働者が自身の裁量で決められる時間帯のこと

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