JR東日本:and E

オフピークで何が変わるのか<br>社会全体でオフピーク通勤を推進することが求められている

オフピークで何が変わるのか
社会全体でオフピーク通勤を推進することが求められている

以前から首都圏における鉄道の混雑は社会課題とされてきた。このたび、JR東日本は2023年3月18日、鉄道会社として国内初の「オフピーク定期券」の発売を開始。これは首都圏の平日朝のピーク時間帯以外にのみ利用できる定期券で、通常の通勤定期券より約10%割安となるというもの。「オフピーク」はコロナ禍における感染対策としても注目されており、鉄道に限らずオフピークを意識したサービスが登場している。では、「オフピーク定期券」の登場で、今後どのような変化が起きるのか。オフピークの現状、今後の在り方について、交通経済に詳しい慶應義塾大学の加藤一誠教授に考えを伺った。

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加藤 一誠 かとう・かずせい
慶應義塾大学 商学部 教授
1964年京都府生まれ。87年同志社大学経済学部卒業、92年同志社大学大学院経済学研究科博士課程後期満期退学、2002年博士(経済学)。関西外国語大学、日本大学経済学部などを経て、15年より現職。国土交通省交通政策審議会委員、日本交通学会理事、公益事業学会評議員なども務めている。

コロナ禍を経て人々の価値観が変わった

 首都圏における通勤通学時間帯の混雑をどう緩和するかは、社会全体の長年の課題といえます。
 解決に向けた方策は、大きく二つあります。一つは鉄道事業者が1編成当たりの車両数を増やしたり、複々線化を進めたりするといったように、輸送力を拡大することで混雑を緩和しようというもの。これまで鉄道事業者は、ここに多くの資源を投じてきました。
 もう一つは、鉄道の利用者に行動変容を求めるというものです。一定数の人たちがピークを回避して通勤するようになれば、必然的にピーク時の混雑率は緩和されます。しかしこれは現実には、「言うは易く行うは難し」でした。たとえ勤務先がフレックスタイム制を導入していたとしても、同僚や取引先が働き方を変えてくれなければ、自分も周囲に合わせて、同じ時間帯で働かざるを得なかったからです。
 ところがコロナ禍になってからは、在宅勤務が浸透したことで、人々の価値観は大きく変わりました。一言で言えば、多様な働き方に対する社会的な寛容度が上がりました。また、これまでは何の疑問も持たずにピーク時に電車を利用していた人の間でも、できることであれば3密を回避したいという意識が高まりました。いわばピーク時の混雑を緩和するための方策を、鉄道事業者による輸送力の強化のみに求めるだけでなく、利用者自身も行動を変えていくという方向へとシフトしたのです。
 そうした中で、今回JR東日本によって導入されたのが、オフピーク定期券です。ピーク時とオフピーク時の運賃を変えることで、人々の行動変容を促すという手法は、誰もが同じ時間帯に出社していた以前であれば非現実的なものでしたが、コロナ禍を経て、受け入れられる素地は十分に整っていると思います。
 ちなみに海外に目を転じると、ワシントンとニューヨークを結ぶ鉄道、ロンドンやワシントンの地下鉄などでも、時間帯による変動運賃が導入されており、人々はこれを受容しています。

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ロンドンは交通ICカードを利用

混雑緩和以外にもあるオフピークのメリット

 人々に少しだけ行動を変えてもらうことで、朝のラッシュ時の混雑を緩和する──。このことは、単に乗客が混雑率150%を超えるような満員電車から解放される以外にも、メリットがあります。
 鉄道事業者は、ピーク時に合わせて設備や人員をそろえています。そのためピーク時とオフピーク時の落差が激しいほど、ピークの時間帯以外は車両などに遊休が発生してしまうため、資源の有効活用という点では非効率です。
 一方、オフピーク定期券の導入などによって、ピーク時の利用客数が減れば、ピーク時対応のための投資を抑えられます。それら浮いた投資額分を、快適な車内環境や駅環境の整備などにも回すことができるようになります。つまり鉄道事業者にとっても、利用者にとっても、得られる果実は大きいのです。
 逆に従来のように、輸送力の強化のみによって混雑の緩和を進めることは、コストの増大を招きます。鉄道事業者がそのコスト増を背負いきれなくなれば、当然それを運賃に転嫁せざるを得なくなります。鉄道事業者がぎりぎりの収益構造の中で事業を行っている現状においては、こうしたやり方は持続可能なものではありません。
 こうしたことから、今回のオフピーク定期券の導入は、大きな意味があると考えます。ただし、JR東日本1社だけの導入では、その効果は限定的なものになると考えています。通勤者の多くは、JR以外にも私鉄や地下鉄を乗り継ぎながら職場へと向かいます。また相互直通運転も増えています。そのため本来一番望ましかったのは、首都圏を営業エリアとする鉄道事業者が連携して、同時期にオフピーク定期券を導入することでした。現在他の鉄道事業者は、JR東日本の取り組みがうまくいくかを注視しているところだと思いますが、他社にもできるだけ早期の導入を期待します。
 また今後社会としてオフピーク通勤を推進したいのであれば、バスなど他の交通機関との連動も図っていく必要があります。ピークをずらして朝早く家を出ようとしたものの、自宅近くのバス停から最寄り駅までのバスが、早朝は1時間に1、2本しか走っていないとなると、利用者は大変な不便を感じ、「やはりこれまで通りの時間帯に出勤しよう」となってしまいます。
 社会全体でオフピーク通勤を可能にする環境を整えていくことが、求められているのです。

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