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インバウンドのこれまで・これから<br>Case.3<br>JR東日本グループの取り組み<br>海外在住の日本ファン向けのサービス「JAPAN RAIL CLUB」をスタート

インバウンドのこれまで・これから
Case.3
JR東日本グループの取り組み
海外在住の日本ファン向けのサービス「JAPAN RAIL CLUB」をスタート

単に観光地を訪れて満足するのではなく、その場所でしか体験できないことを求める「コト消費」。JR東日本では、海外在住の日本ファンに向けた会員サービス「JAPAN RAIL CLUB」を2022年12月より開始した。その内容、目的について担当者の話を聞いた。

旅アト・旅マエ・旅ナカで訪日ヘビーリピーターを取り込む

 JR東日本では、訪日外国人旅行者向けのサービスとして、従来からJR東日本の鉄道・JRバス等を一定期間定額で自由に乗り降りできる「JR EAST PASS」の販売を行ってきた。このパスの存在によって訪日旅行者に、東日本エリアを気軽にご移動いただくことが可能になり訪日旅行者数の拡大や、地域経済の活性化、JR東日本の収益向上に大きく貢献してきた。
 そして2022年12月より新たなサービスとして、海外に在住する日本ファンを対象としたサブスクリプション型の会員サービス「JAPAN RAIL CLUB」をスタートさせた。JR東日本マーケティング本部くらしづくり・地方創生部門の原田一郎マネージャーは、誕生の背景を次のように語る。

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原田一郎マネージャー
JR東日本マーケティング本部
くらしづくり・地方創生部門
商品・顧客ユニット(インバウンド)

 「新型コロナウイルスの感染が拡大する以前より、世界では単に観光地を訪れて満足するのではなく、その場所でしか体験できないことを求める"コト消費"へのニーズが、旅行者の間で高まりつつありました。新サービスは、コロナ後にはその動きがさらに加速するであろうことを想定し、これに応えるために始めたものです」
 「JAPAN RAIL CLUB」が当面、サービスの対象としているのは、台湾とシンガポールに住む訪日ヘビーリピーターだ。訪日ヘビーリピーターとは、訪日回数が10回以上に及ぶ旅行者のこと。19年の訪日旅行者のうち、ヘビーリピーターが占める割合は台湾が22.2%、シンガポールは15.9%となっており、香港や韓国と並び、ヘビーリピーター率が高いエリアとなっている。
 同サービスは、このヘビーリピーターを会員として取り込むべく、旅アト(日本から帰国した後)、旅マエ(日本への旅行前)、旅ナカ(旅行中)のそれぞれで入会を図っていく。
 まず旅アトでは、東日本各地のお菓子や地産品の詰め合わせを、地域の文化などを紹介した小冊子とともに、「おみやげボックス定期便」として毎月会員に配送する。日本との"つながり"を帰国後も体感していただくことが目的だ。
 次に旅マエでは、JR東日本エリアの地域を取り上げ、オンラインツアー等を開催する。ツアーではJR東日本グループの社員を含めた現地の人たちが案内役となり、オンライン上で会員と交流しながら、地域に関する情報を提供。次の訪問先として、会員にJR東日本エリアを選んでもらうためのきっかけづくりにする狙いだ。またその地域のことを深く知ってもらい、次に訪日したときに、より質の高い旅行をしていただくための事前学習の役割も担う。
 そして旅ナカでは、日本をご旅行中の会員がJR東日本グループ社員や地元の方々と交流しながら、地域を巡る交流型イベントを実施する。鉄道会社ならではの強みを生かし、「のってたのしい列車」を活用したツアーや車両センターの見学ツアーなども、イベントの中に数多く盛り込んでいく予定だ。

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お客さまとのつながりをずっと維持し続ける

 原田マネージャーと同じ、くらしづくり・地方創生部門に所属する服部剛士さんは、これまでのJR東日本のインバウンド向けサービスの課題として、「旅ナカだけにアプローチする傾向にあった」と話す。

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服部剛士さん
JR東日本マーケティング本部
くらしづくり・地方創生部門
商品・顧客ユニット 兼 新規事業ユニット

 「そのため、旅行中にJR東日本グループの鉄道やホテルなどをご利用いただいても、お客さまが帰国された後は、当社とのつながりが切れてしまうのが実情でした。そこで旅アト・旅マエ・旅ナカのサイクルを回すことで、お客さまとのつながりをずっと維持し続けようというのが、このサービスの狙いの一つです」
 また訪日旅行者の中でも、ヘビーリピーターをターゲットにしたことにも狙いがある。初訪日者の場合、東京・京都・大阪といったゴールデンルートを周遊するのが大半で、東北や信越地方などが訪問地として選ばれることはほとんどない。しかしヘビーリピーターであれば、「もっと違う日本の姿を知りたい。体験してみたい」との思いも強いはずだ。そこで「JAPAN RAIL CLUB」を通じて、ヘビーリピーター層をJR東日本エリアである東北や信越地方へと誘うことで、訪問地の偏在解消のきっかけにしたいとの思いがある。
 JR東日本では、サービス開始前の22年秋に、海外在住の人々を対象とした旅マエのオンラインツアー、在留外国人を対象とした旅ナカの交流型イベントのトライアルをそれぞれ実施した。
 「その中で強く感じたことは、海外のお客さまが、JR東日本グループの社員や地元の方々との交流を予想以上に喜んでくれたことです。特に制服姿の駅員や乗務員との交流が楽しかったようで、『もっと話したかった』という声を多くいただきました。交流型や体験型のツアーに対するニーズは確実に強いです」(服部さん)
 また、鉄道関係者にとっては当たり前の光景が、海外の人にとっては新鮮に映るケースがあることも発見したという。例えば旅ナカの交流型イベントで、東京総合車両センターを案内していたときのこと。参加者たちは、点検作業に使う工具が、決められた場所にそれぞれ整然と収納された様子を見て、「これが日本の鉄道の安全・安心、定時運行を支えているのか!」と感嘆の声を上げたという。そこで当初は予定していなかった、工具の整理の仕方について詳しく説明することになった。
 「私たちが気がついていないだけで、訪日旅行者から見れば感動や興奮するような物事は、ほかにもたくさんあるはずです。実際にツアーを実施する中で、お客さまの反応を見つつ、適宜内容の充実や改善を図っていければと思っています」(原田マネージャー)

地域の魅力・価値の発掘にも貢献したい

 原田マネージャーは、「訪日旅行者が日本の何に興味を抱くかを知ることは、地域の魅力、価値を発掘していくことにもつながる」と話す。例えば、地域の方が「JAPAN RAIL CLUB」の交流型イベントでの会員の反応を見ることで、その地域ならではの新たな観光コンテンツを発見し、磨き上げていく、といったことも期待できる。
 また、地域と会員を地産品でつなげる取り組みにも挑戦している。
 「山形県東置賜郡高畠町は、果物等の農産物、ワインや日本酒といった酒類などが有名です。そこで台湾のホテルで会員を対象に、高畠の農産物・酒類の試食会を実施することで町に興味を持ってもらい、来訪のきっかけづくりにしたいと考えています。台湾で高畠の農産物・酒類が有名になれば、地域の活性化にもつながりますし、地元の事業者さまの意識や意欲も高まると思います」(服部さん)
 「JAPAN RAIL CLUB」が提供するお客さまの体験サイクルは、訪日ヘビーリピーターの旅への満足度をさらに高め、JR東日本エリア地域の魅力・価値の向上にも貢献し、そしてグループのビジネスにも利益をもたらす。JR東日本は本サービスで、そうした三方良しを実現することを目指している。


ガストロノミーツーリズムを体現する「TOHOKU EMOTION」

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 その土地の食文化を体験する「ガストロノミーツーリズム」。2015年以降、UNWTO(国連世界観光機関)が、普及のために毎年「ガストロノミーツーリズム世界フォーラム」を開催しており、22年に第7回フォーラムが日本で開催されたのは記憶に新しい。このガストロノミーツーリズムの要素が入った観光列車の一つに、「TOHOKU EMOTION」がある。
 「TOHOKU EMOTION」は、東日本大震災からの復興を目的に13年10月、いち早く線路の復旧を完了した青森県八戸駅~岩手県久慈駅間で誕生した観光列車だ。列車全体をレストラン空間とし、東北の食材を使用したコース料理を個室、またはオープンダイニングで味わうことができ、ライブキッチンでは臨場感ある調理シーンも楽しめる。東北にゆかりのある人気シェフが年2回替わり、メニューは年4回更新される。

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オープンダイニングスペースとした3号車は、青森、岩手、宮城の各県の伝統工芸品のモチーフを用いた趣のある内装

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「TOHOKU EMOTION」で饗されるメニューは年4回替わるため、繰り返し楽しむことができる

 ガストロノミーツーリズムは人気の旅行スタイルの一つであり、その先駆けともいえる「TOHOKU EMOTION」。今後も期待が集まる。


エキナカの食やお土産に限らない東京ステーションシティの魅力を発信

ポストコロナを見据えた海外プロモーションを模索

 「東京駅が街になる」──このコンセプトのもと、東京駅及びその周辺エリアを「東京ステーションシティ」として、街のさらなる魅力と価値の向上を目指す取り組みが行われている。活動の主体は、JR東日本を含めた東京駅周辺の事業者で組織される一般社団法人東京ステーションシティ運営協議会。その事務局を務めるJR東日本首都圏本部マーケティング部の竹内めぐみさんは、インバウンドへの取り組みについて次のように語る。
 「コロナ前はガイドブックや駅構内図、ホームページの多言語対応、AIチャットボットの導入、繁忙期のインバウンド対応スタッフの手配等を行っていました」
 だが、コロナ禍によりインバウンドは途絶える。そこで、直近の2年間はポストコロナを見据えた海外プロモーションの展開を模索してきた。21年度にはJR東日本シンガポール事務所と連携した現地プロモーションや、オンラインイベントなどを実施。そして22年度は、コロナの落ち着きとともにいち早くプロモーション展開したいと考え、9月に「東京ステーションシティセミナー&東京駅オンラインツアー」を開催することにした。

配信会社を通さないオンラインイベントに挑戦

 配信先として選択したのは、人口に対する訪日回数の割合が高い台湾。東京駅のエキナカの食やお土産に関する情報に限らず、東京ミッドタウン八重洲や丸ビル/新丸ビル、KITTE丸の内など、周辺も散策する内容とした。
 配信内容は台湾現地の人気ブロガーによるセミナーが60分、東京駅丸の内側と八重洲側からの中継によるオンラインツアー30分の三元中継で構成。台湾側以外の出演者は、東京駅丸の内側を東京駅の社員、八重洲口側をJR東日本びゅうツーリズム&セールスの社員が務め、その他ディレクターやカメラマン、照明まで全て自前で行った。

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配信は、現地の創造旅行社と連携した台湾(左上)、東京駅八重洲側(右上)、東京駅丸の内側(左下)の3箇所から三元中継。東京駅エリアの魅力を紹介した

 「インバウンドに興味のある社員を募集し、若手社員を中心に積極的に参加してもらいました」と話すのは、竹内さんと共に事務局を担当する、JR東日本首都圏本部マーケティング部の小山敦士さんだ。入社して初めてイベント運営に参加したという社員も多く、やりがいを実感できたと好評だったという。
 今回のイベントは挑戦でもあった。それは初めて配信会社を入れずにリアルタイムの中継を行ったことだ。「そのため、機材導入や私たち自身のスキルアップが必要でした」と小山さん。リハーサルを何度も繰り返すなど苦労はあったものの、配信が好評だったこともあり、イベントを続けていく自信がついたという。
 今後もコロナ禍で得たオンラインイベントの知見も含め、「東京駅だからこそできる」情報発信を積極的に展開していく予定だ。

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小山敦士さん/竹内めぐみさん
JR東日本 首都圏本部 マーケティング部
マーケット創造ユニット(エリアマネジメント)

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