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未来の「食の新常識」<br> レポート<br>「フードテック」が新たな食の常識を紡ぎ出す

未来の「食の新常識」
レポート
「フードテック」が新たな食の常識を紡ぎ出す

新たな食の常識は、食の技術革新を総称する「フードテック」をキーワードに語られることが多い。では、フードテックとは具体的にどのようなものなのか。

最先端の技術で世界の食糧問題に挑む

 農林水産省によると、世界の食料需要は2050年に58億tに達するという。これは10年比で実に1.7倍。現在、世界では発展途上国を中心に食糧不足や飢餓が深刻化する一方、先進国では食品ロスや食品による健康被害、環境への負荷が大きな問題となっている。加えて気候変動による生産性の地域格差の拡大、紛争による食料価格の高騰などもあって、将来の需要増にも対応できる持続可能なフード・システムを構築する取り組みが求められている。
 そこで、食の新たなシステムづくりのキーになるものとして注目されているのが「フードテック」である。フードテックとは、最先端のテクノロジーを活用し、新しい食品や調理方法、生産、流通、環境を革新するという意味の造語。ITやAI、あるいはバイオ技術を駆使して食品に新たな価値を付加させようという取り組みだ。欧米を中心にその熱は高まっており、世界におけるフードテック市場への投資は年間2兆円を超えている。
 流行の代表格が、「動物に頼らないプロテイン供給」をテーマに開発が進む、大豆ミートなどの植物性代替肉だろう。その世界的な市場規模は、22年の79億米ドルから27年には157億米ドルに達するとの予測があるほどだ。
 IoTやAI、ロボティクスを活用し、新たな価値創造に挑む動きも拡大しており、フードテック・ビジネスは多様化。その市場規模は25年には700兆円に達するとの試算もある。

急速に動き始めた日本のフードテック市場

 欧米に比べ、やや遅れをとっていた日本も、急ピッチでフードテックの普及に努めている。20年、農林水産省はフードテック官民協議会を立ち上げて推進を図っている。同年9月には、世界中のスタートアップとのオープンイノベーションを進める「Food Tech Studio-Bites!」に、日清食品ホールディングス、大塚ホールディングス、伊藤園、不二製油グループ本社、ニチレイ、ユーハイムの6社が参画を表明。国内外のスタートアップとのマッチングや参加企業同士の協業が進められている。
 例えば、日清食品では飽食による肥満や無理なダイエットによる新型栄養失調など、食にまつわる課題を解決すべく、長年培ってきた食品加工技術を駆使し、栄養バランスが良く、しかもおいしい「完全メシ」を開発して話題になっている。

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日清食品は、「日本人の食事摂取基準」で設定された33種類の栄養素をバランスよく、しかもおいしく摂取できるよう、同社のフードテクノロジーを駆使して開発した「完全メシ」シリーズを発売した

 ITやAIといったデジタル技術の進化は、フードテックを急拡大させた要因の一つだ。今回取材したマクタアメニティの「おいしさの見える化」もそうだが、より身近なところではスマートフォンと連動した調理家電などもあり、いまやフードテックは珍しいものではない。
 また、フードテックは生産や流通ばかりではなく、外食産業にも影響を及ぼしている。コロナ禍で脚光を浴びた「Uber Eats」に代表されるフードデリバリーサービスもフードテックの一つの形であるし、人手不足の深刻化をカバーする調理のロボット化などは、その最たるものであろう。

SDGsに必要不可欠な食品ロスの削減

 フードテックが新しい概念である以上、その担い手は既存の大手企業だけでなく、スタートアップ企業が大きな存在感を示すことにもなる。その一社が熊本市に本社を置くDAIZ株式会社だ。同社は、発芽大豆のアミノ酸組成を自由に設定し、あらゆる肉の味にすることができる「ミラクルミート」を開発し、大手食品メーカーなどに販売している。

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植物肉の開発・生産・販売などを行うDAIZ。同社の「ミラクルミート」を使用した餃子(左上)、肉団子の甘酢あんかけ(左下)、ミートソーススパゲティ(右上)、唐揚げ(右下)

 また、株式会社テクニカン(神奈川県横浜市)では冷気ではなく、零下まで冷やしたアルコール液の中に製品を入れて凍結する新たな液体急速凍結機「凍眠」を開発。「魚や肉は冷凍すると味が落ちる」「冷凍食品はおいしくない」というイメージを変えながら、より長期の保存を可能にしている。

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テクニカンは新たな液体急速凍結機「凍眠」を活用した冷凍食品専門店「TŌMIN FROZEN」(トーミン・フローズン)を横浜市に2022年2月にオープン

 食品ロスも食にちなむ大きな問題の一つである。廃棄された食品は焼却処分されることから、その削減はCO2の削減に直結する。SDGsでは、30年までに世界全体の一人当たりの食料廃棄量を半減させることを目標としている。余った食材を再加工して活用するホテルメトロポリタンさいたま新都心のような取り組み以外にも、廃棄間近のパンや賞味期限の近い災害備蓄品(乾パン・アルファ化米)からクラフトビールをプロデュース・販売する株式会社Beer the Firstなどのアップサイクル事業(※)を展開する企業も増えてきた。これらの動きが拡大することで、新たなフード・システムの構築に拍車がかかるだろう。
 持続可能な社会を実現するために欠かせないフードテック。テクノロジーの進歩により、新たな価値を持った食材や、革新的な新食材の登場が期待される。消費者にとっては、目的や好みに合わせた食の選択肢が増えていくと言えそうだ。

※ 捨てられるはずだった廃棄物や不用品に新たな価値を与えることで、より次元・価値の高い製品を生み出すこと

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