JR東日本では、太陽光パネルや小型風力発電機などが設置された「エコステ」を拡大しており、高輪ゲートウェイ駅もその一つ
ゼロカーボンに向けたエネルギー戦略
JR東日本グループの取り組み②
ゼロカーボンへの取り組みを通じてサステナブルな社会の実現を目指し、地域や社会の発展に貢献する
社会全体がゼロカーボンに向けて動く中、JR東日本グループは、2022年7月に「エネルギービジョン2027~つなぐ~」を策定。エネルギーを「つくる」「送る・ためる」「使う」の三つのフェーズに分け、鉄道事業におけるCO2排出量を2030年度までに50%の削減(13年度比)、さらに50年度までには実質ゼロにすることを目指している。ここでは、「送る・ためる」「使う」の二つのフェーズの取り組みを紹介する。
送電設備の検査にドローンを導入する
JR東日本では、川崎発電所や信濃川発電所で発電した電気を列車や駅などに送るために、長大な架空送電線や地中送電線、多数の変電所を自前で有している。この「送る・ためる」フェーズでは、送電設備メンテナンスの品質向上を図り、つくった電気を安定的に送り届けることで、ゼロカーボンの実現に貢献していく。
首都圏や北関東、新潟県など1都9県のエリアにおいて、送電線や変電所の保守を担当しているのは、給電技術センターという職場だ。送電設備は、設備自体の劣化や故障といった内的要因のほかに、架空送電線であれば鳥害や雷害、樹木が送電線に接近するといった外的要因で、送電に支障が生じることがある。そのため定期的な巡視や検査等のメンテナンスが欠かせない。同センター武蔵境給電メンテナンスセンターの東海林貴文主任は、「今後はメンテナンスに携わる作業員の確保が困難になってくることが予想される」と語る。
東海林貴文
給電技術センター
武蔵境給電メンテナンスセンター 主任
「特に高所での作業となる架空送電線の保守は、ラインマンと呼ばれる専門職の方にお願いしているのですが、ラインマンは全国でも5000人程度と年々減少しており、高齢化も進んでいます。そこで、従来のやり方にとらわれないメンテナンスの方法を検討するためのワーキンググループを発足させ、私もメンバーに名を連ねています」(東海林主任)
ワーキンググループでの検討を経て、現在導入を始めているのがドローンだ。作業員が架空送電線の鉄塔に昇る代わりにドローンを上空に飛ばし、さまざまな角度から撮影することで、設備の状態を把握する。これまで鉄塔での作業時には、安全確保のために一時的に電気を止めていたが、ドローンであればそれも不要。作業員の墜落・感電リスクを減らせるとともに、電力の安定供給も維持できるというメリットが生まれる。
送電鉄塔のドローンによる設備点検は、作業員の安全確保や電力の安定供給維持という複数のメリットをもたらす
JR東日本グループが「送る・ためる」フェーズにおいて、つくったエネルギーを無駄なく利用するために取り組もうとしていることはほかにもある。回生電力の有効利用がその一つ。これは減速中の列車で車輪が回転しようとするエネルギーを使って発電した電力(回生電力)を電力貯蔵装置に充電し、ほかの列車が加速する際に供給したり、回生インバーター装置を介して駅などに供給したりするというもので、現在首都圏の路線や駅を中心に導入が拡大中だ。
さらには、電気抵抗ゼロの超電導ケーブルを使うことで、車両への送電ロス削減や回生電力の利用率向上を図るための技術開発の検討も進められている。
小さな工夫の積み重ねが省エネを実現する
ビジョンでは三つ目の「使う」のフェーズにおいて、さまざまな場面で省エネを徹底することで、エネルギー使用量を年間1%削減することを目標に掲げている。
具体的には、CO2排出量が少ない新型車両やハイブリッド車、蓄電池車の投入、ビッグデータを基に解析した省エネ運転手法の推進、さまざまな環境保全技術を駅の施設・設備に導入する「エコステ」の拡大などが挙げられる。
またお客さまサービスでは、二次交通手段として、利用者の予約状況に応じてAIで最適化した運行を行う乗合型交通サービス(オンデマンド交通)の利用推進を図ることで、快適で環境負荷の少ない移動の実現を図る取り組みなどを拡大していく。
ただしこれらの施策は、それ単体では省エネに及ぼす効果は限られる。「だからこそ積み重ねが大切」とエネルギー企画部戦略ユニットの安藤政人ユニットリーダーは話す。
「特に重要なのは、当社グループの一人ひとりが、自らの業務の中で省エネにつながることを見つけ、実行していくことです。当社には社員が自らの業務改善の取り組みを、ほかの社員にSNS等で発信する仕組みがあるのですが、この仕組みを活用しながら、省エネのための工夫の仕方を社員全体で共有化していくとともに、省エネへの意識を高めていきたいと考えています」
ゼロカーボンのまちづくり高輪ゲートウェイシティ
JR東日本グループでは、「つくる」「送る・ためる」「使う」の全てのフェーズを横断する取り組みにも挑もうとしている。24年度オープン予定の高輪ゲートウェイシティ(仮称)における「環境先導まちづくり」がそれだ。これは高輪ゲートウェイシティのまちの中で、太陽光や風力、下水熱などを用いてエネルギーを創出し、使用するという「エネルギーの地産地消」によって、CO2排出実質ゼロのまちづくりを目指そうというものだ。また、都市型バイオガス設備を導入することで、まちの中で排出されたごみを有効活用していくことや、複数の建物を熱導管や電力線でつなぐことによって、エネルギーの面的利用なども促進していく。
「高輪ゲートウェイシティ(仮称)」の完成イメージ
「高輪ゲートウェイシティでは、エネルギーを需給一体でマネジメントすることで、その効率的な利用を図っていくという構想を描いています。そして高輪で得た知見を、今後開発を予定しているほかの地域のまちづくりにも生かすことで、JR東日本グループとして社会全体のゼロカーボンの実現に貢献していきたいと考えています」(安藤ユニットリーダー)
JR東日本グループは、ゼロカーボンへの取り組みを通じて、サステナブルな社会の実現を目指し、地域や社会の発展に貢献することをグループの使命としている。それに対する周囲の期待も大きく、今後の取り組みがますます注目される。
トピックス「ためる」
「リチウム空気電池」がCO2削減を後押し!?
CO2の排出量を減らすためには蓄電池の進歩が必須だ。例えば、電気自動車へのシフトには、優れた蓄電池の存在は欠かせない。
また、再生可能エネルギーの利用にも蓄電池は重要な役割を果たす。再エネでネックとなるのが「電気は蓄えにくい」という性質。天候に左右されやすく、電力の出力が不安定な再エネは、その変動を吸収するために電力を貯蔵しておく必要がある。さらに、電気は常に需要(使用量)と供給(発電量)を一致させなければ、安定した供給ができないという特徴もある。再エネを効率的に利用するには、需要の少ない時間帯に生じた余剰な電力を蓄えておかなければならない。
このような事情から性能の高い蓄電池が求められる中、期待が高まっているのが次世代電池と呼ばれる「リチウム空気電池」だ。現在需要の多いリチウムイオン電池では、正極(+)に主にコバルト酸リチウム、負極(-)に炭素素材が使われている。
一方、リチウム空気電池では正極に空気、負極にリチウムを使う。電池の性能で重要なのはエネルギー密度とパワー密度。前者はどれだけエネルギーを蓄えられるか、後者は瞬間的に放出できるエネルギー量を指す。エネルギー密度は電池の重さに関係しており、軽いほどエネルギー密度は高まるとされる。当然、空気を使うリチウム空気電池のエネルギー密度は高く、「究極の二次電池」との呼び声も高い。
2021年に国立研究開発法人物質・材料研究機構がソフトバンク株式会社と共同開発したリチウム空気電池は、現行のリチウムイオン電池のエネルギー密度を大きく上回っており、現時点で世界最高レベル。軽くて容量が大きいことから、ドローンや電気自動車、家庭用蓄電システムまで幅広い分野への応用が期待されている。
トピックス「使う」
「ゼロカーボンシティ」横浜市の取り組み
環境省は「2050年にCO2を実質ゼロにすることを目指す旨を首長自らがまたは地方自治体として公表した地方自治体」を「ゼロカーボンシティ」としている。神奈川県横浜市もその一つだ。
同市は、50年までに「市内のエネルギー消費量を約50%削減すること」「市内の消費電力の100%を再生可能エネルギー(太陽光や風力、地熱発電など、発電時に二酸化炭素を排出しないエネルギー)由来の電力へ転換すること」を目指し、市民や事業者への協力を呼び掛け、注目を集めている。
既に20年度には市庁舎の使用電力に、ごみ焼却場で発電された再生可能エネルギー電力等を用い、100%再エネ化を実現。市内の公共施設の照明もLED型照明器具への交換を進め、30年までに100%の達成を目指すという。
また市内の小中学校83校と1区役所には、民間事業者が所有し運用管理する蓄電池を設置。21年度からは市内の小中学校65校の屋上に太陽光パネルと蓄電池を設置し、各学校で使う電力の一部を賄う計画だ。また、これらの電源は非常時にも利用される。
さらに、他都市との取り組みとして、再エネポテンシャルの豊富な15の市町村と連携協定を締結しており、自治体の脱炭素化のトップランナーとして、「Zero Carbon Yokohama」の取り組みが期待されている。
2020年6月に供用を開始した横浜市庁舎では、消費電力の100%再エネ化を達成した