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ゼロカーボンに向けたエネルギー戦略<br>脱炭素化は環境政策であり経済政策でもある

ゼロカーボンに向けたエネルギー戦略
脱炭素化は環境政策であり経済政策でもある

日本においてカーボンニュートラルはどのように受け止められ、進められていくのか。日本のエネルギー戦略に詳しい早稲田大学大学院の林泰弘教授に、わが国の現状、また今後の進むべき方向性について話を伺った。

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林 泰弘 はやし・やすひろ
早稲田大学 大学院
電気・情報生命専攻 教授
1967年福井県生まれ。94年早稲田大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。早稲田大学理工学部助手、茨城大学工学部講師、福井大学大学院工学研究科准教授を経て、2009年より現職。早稲田大学スマート社会技術融合研究機構機構長、同先進グリッド技術研究所所長を兼務する。

脱炭素対策が不十分な国の輸入品は課金対象に

 日本が脱炭素を進めるのは、環境政策のみならず経済政策という側面もあります。脱炭素を巡る世界的なルールづくりにおいて、主導権を握るのはEUです。2022年3月15日、EU理事会は、脱炭素対策が不十分な国からの輸入品について、生産工程でのCO2排出量に応じて炭素価格分の課金を行うという炭素国境調整メカニズム(CBAM)に関し、欧州委員会の原案を大筋で支持しました。脱炭素への動きを加速させることは、国際産業競争力の確保という点からも不可避であるということです。
 前の菅政権では、「カーボンニュートラル宣言」に続いて、これを実現するための施策として、「洋上風力・太陽光・地熱」「水素・燃料アンモニア」「自動車・蓄電池」「住宅・建築物・次世代電力マネジメント」などの14の重点分野を選定し、そこに積極的な予算措置等を講じていくという「グリーン成長戦略」を策定しました。これらはいずれも脱炭素時代における産業社会において、日本が強みとし得る分野ばかりです。現在の岸田首相はそのアクションプランとして21年12月に「クリーンエネルギー戦略」の策定を指示し、22年5月に中間整理が公表されています。現時点では先行投資の色合いが強く、将来的にこの中から何が脱炭素化の柱となり、爆発的に普及していくことになるかはまだ未確定です。まずは競い合わせ、その中から可能性のある分野にさらに重点投資を行い、育て上げていくということになるのでしょう。

「技術」「仕組み・法整備」「投資」の三人四脚で進める

 「グリーン成長戦略」では2050年カーボンニュートラルへの転換イメージを公表しています(下図)。エネルギー起源CO2(※1)は、電力分野と非電力分野に分かれます。このうち電力分野については、図のように再生可能エネルギーや原子力、水素・アンモニアなどを用いることで、電源の脱炭素化への完全移行を図るとしています。一方、非電力分野については、水素やメタネーション(※2)の活用や、電源の脱炭素化を実現した電力をエネルギーとして利用することで、CO2の排出量を最小限に抑えるという青写真を描いています。

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 さて、この青写真を実現する上で重要になるのが、非電力分野における電化の推進です。ただし、「グリーン成長戦略」「クリーンエネルギー戦略」に電化の必要性は謳われているものの、どのように電化を図るかというHOWは十分に示されていません。せっかく再エネが普及し、また仮に将来的に水素発電の実用化の目処がついたとしても、非電力分野が脱炭素電源による電力を使用できるための仕組みが整っていないと、脱炭素の実現は困難になります。
 これまで電力ネットワークは、火力発電所や原子力発電所などで大規模に発電を行い、それを太い電線を使って需要家に供給するという集中管理型でした。しかし再エネの普及とともに、地域の各所で小規模の発電が行われるようになり、決して送電容量が大きくない電線を用いて地域内外で電力を融通し合うという自律分散型へと移行しつつあります。また太陽光発電や風力発電といった再エネの場合、天候などによって発電量が変動してしまうという特性もある中で、目詰まりを起こすことなく、高効率に需要家に脱炭素電源で発電した電力を供給していくためのネットワークの構築が求められているわけです。
 脱炭素電源で発電した電力の利用を、需要家に促していくための法整備も不可欠となります。22年、政府はこれまでの省エネ法を改正し、エネルギー使用の合理化に加え、需要家の非化石エネルギーへの転換を求めることにしました。そのため、小売電気事業者に対して、再エネの稼働率が高く、余剰電力が発生しやすい時間帯の割安プランの実施計画作成を義務付けました。電力の需給バランスを調整することをデマンドレスポンス(DR)といいます。これまでは電力供給が逼迫(ひっぱく)しているときに、需要家に節電を促す「下げDR」のみでしたが、今後は電力が余っているときに料金を下げることで、再エネ由来の電力の使用を促す「上げDR」も行われるようになるわけです。
 脱炭素社会の実現というと、再エネの発電コストをどう下げるかとか、EVや蓄電池の開発をどう進めるかといった技術面ばかりが注目されがちです。ただし、開発した技術を社会実装していくためには、技術を有効活用していくための仕組みづくりや法整備がカギとなります。さらには可能性のある分野に大胆に資金を投じていくことももちろん重要です。岸田首相は化石燃料中心の経済・社会、産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させ、経済社会システム全体の変革を行うための政治決断に向けGX実行会議を22年7月に発足させました。脱炭素に向けては、「技術」「仕組み・法整備」「投資」の三人四脚で歩んでいく必要があるのです。

※1 燃料の燃焼で発生-排出されるCO2のこと
※2 水素(H2)と二酸化炭素(CO2)を反応させ、天然ガスの主成分であるメタン(CH4)を合成する技術

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