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「祭り」を守れ!<br>Case.1 岩手県北上市 北上・みちのく芸能まつり<br>観光客の誘致と地元民俗芸能団体の活性化を両立させる

民俗芸能の宝庫と呼ばれる北上市。「北上・みちのく芸能まつり」では県内外から100を超える団体が出演する。中でも鬼剣舞を楽しみに来訪する人も多いという。写真では、最も鬼剣舞らしい演目といわれる「一番庭」が舞われている

「祭り」を守れ!
Case.1 岩手県北上市 北上・みちのく芸能まつり
観光客の誘致と地元民俗芸能団体の活性化を両立させる

1962年に誕生した岩手県北上市の「北上・みちのく芸能まつり」。コロナ禍により2年間開催が見送られていたが、2022年は8月6~7日開催予定(※1)で準備が進められている。その歴史や展望について、実行委員長に話を伺った。

※1 取材時点。2022年の「第61回 北上・みちのく芸能まつり」は予定通り8月6〜7日、「Joyful!~祈りと喜びと~」をテーマに3年振りに開催された。

観光資源としての民俗芸能の可能性に注目

 「北上・みちのく芸能まつり」は、毎年8月に岩手県北上市で基本として3日間かけて行われる祭りだ(※2)。北上周辺は、鬼剣舞(おにけんばい)や鹿踊(ししおどり)、神楽(かぐら)など、民俗芸能の宝庫と呼ばれており、民俗芸能団体の活動もとても盛んである。祭りでは地元の団体を中心に、県内外から100を超える団体が出演し、演舞が披露される。北上・みちのく芸能まつり実行委員会実行委員長の石川博文さんは、「これだけ多くの団体が参加する祭りは、おそらく全国でも例がないと思います」と話す。

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石川 博文
北上・みちのく芸能まつり実行委員会
実行委員長

 この祭りが始まったのは、高度経済成長によって人々の暮らしにゆとりができ、観光需要も右肩上がりになっていた1962年。
 「その頃、岩手県の観光といえば、豊かな自然を売りにしたものが中心でした。そんな中で当時の岩手県、北上市、岩手県観光連盟の3団体が中心となり、観光資源としての民俗芸能の可能性に注目し、新たな祭りを立ち上げることにしたのです」
 第1回の参加団体は約20団体、観衆も5000人程度だったが、その後順調に規模を拡大し、今では30~40万もの人々を集める祭りとなった。この祭りの特徴は、市内各所に会場が設けられ、演じられる民俗芸能の種類もバラエティーに富んでいること。そのため「去年は鬼剣舞の会場を中心に観覧をした観光客が、今年は神楽を目当てにして再び北上を訪れる」というように、リピート客が多いという。

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(左)和賀大乗神楽は口伝によると約600年前に始まったとされ、幕末から明治のはじめに再興されたという (右)岩手県北上市村崎野に建立された天照御祖神社の付属神楽である村崎野大乗神楽

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江戸時代初期に始まったとされる三本柳さんさ踊り

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昭和初期に、今は既に廃れてしまった別の神楽から教えを受けて定着したとされる、鳥喰太神楽

※2 例年は3日間だが、2022年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響で8月6~7日の2日間で開催された

民俗芸能団体の活性化に祭りが寄与している

 北上・みちのく芸能まつりは、地元の民俗芸能団体の活性化にもつながっている。多くの観衆が見守る前で、自分たちの日ごろの練習の成果を披露できることは、大きな励みとなる。また祭りを見学した人が、「自分も踊ってみたい」と団体に連絡してくるケースも多いという。
 「全国の祭りを見歩いていた京都在住の方は、芸能まつりで鬼剣舞に触れたことをきっかけに強い興味を抱き、その後何度も北上に足を運んで、団体との交流を重ねました。そして今では京都に鬼剣舞の団体を自ら立ち上げています。ほかにも札幌や函館、東京や佐渡などでも、同様に鬼剣舞の団体が生まれています。自分たちの演舞が全国の人たちに注目されることは、活動をしているメンバーにとって、とてもうれしいことだと思います」
 芸能まつりでは、地元の子どもたちに発表の機会を与えることにも力を注いできた。そのため北上では、未就学児や小中学生を対象とした団体が数多く設立されている。また岩手県立北上翔南高校の鬼剣舞部も、全国高校総合文化祭への出場経験を持つなど、活発に活動を行っている。
 いわば芸能まつりは、誘客を目的とした観光祭りであるだけではなく、地域の人々が自らのまちの歴史や文化を再発見し、まちに愛着や誇りを持つ機能も果たしているといえる。

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地元高校生が伝統芸能を披露するイベントも実施。写真は岩手県立岩谷堂高校による鹿踊

男女問わず参加できる環境づくりが大切

 石川さんは今後の祭りの在り方について、「男女問わず活躍できる環境を整えていきたい」と話す。日本では神事であることを理由に、女性が祭りに参加できなかった歴史があるからだ。
 「地域の人口減少が進む中、民俗芸能や祭りを伝承していくには、女性の参加がカギを握ります。最近では女性の受け入れを積極的に行ったり、女性だけの団体も出てきました。女性の踊りには、女性ならではのしなやかさがあります。実行委員会でも女性の活動を支援するため、芸能まつりとは別に、『GEINO女子交流会』の開催などを行ってきました」
 また石川さんは、芸能まつりに訪れた人を魅了するため、祭りの演出にもさらなる工夫を加えていきたいという。例えば鬼剣舞には18の演目があるが、「短い時間で演目がどんどん切り替われば、そのスピーディーな展開に、これまで以上に見る人の心も躍るのではないか」と考えている。
 「民俗芸能なので、演舞の内容は変えられませんが、見せ方については時代に合ったものにするために、いくらでも工夫ができるはずです」
 北上・みちのく芸能まつりは2020年と21年の2年間、コロナ禍で中止を余儀なくされた。特に石川さんが残念に思っているのは、将来の祭りの担い手である子どもたちから、祭りの楽しさを体験できる機会を奪ってしまったことだ。また、中止の期間が長引けば長引くほど、実行委員会内の運営ノウハウの継承も難しくなる。
 だからこそ石川さんは、「今年こそは、何が何でも祭りを実行したい」と、力強く語ってくれた。

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