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「祭り」を守れ!<br>祭りの継承にどのように向き合うか

「祭り」を守れ!
祭りの継承にどのように向き合うか

少子高齢化、地方の過疎化、さらに今般のコロナ禍……。各地の祭りが存亡の危機に陥っているといわれている。その一方で、祭りを観光資源として捉え、まちおこしに活用しようとするなど、地域の伝統文化を失うまいと取り組む人たちも多い。今後、日本の祭りは、どうなっていくのか。祭りの意味や今置かれている現状を専門家に伺った上で、東日本の幾つかの著名な祭りの継承についてレポートする。
まず最初に、日本人にとって祭りとはどのようなものなのか。祭りの意味や機能、そして現在の置かれた状況について、都市祭礼に詳しい法政大学社会学部の武田俊輔教授に伺った。

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武田 俊輔 たけだ・しゅんすけ
法政大学 社会学部 社会学科 教授
1974年生まれ。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文社会系研究科社会文化研究専攻社会学専門分野博士課程単位取得満期退学。博士(社会学)。滋賀県立大学人間文化学部講師・准教授を経て、2020年より現職。著書に『コモンズとしての都市祭礼:長浜曳山祭の都市社会学』(新曜社)などがある。第5回日本生活学会博士論文賞・第13回地域社会学会賞(個人著書部門)受賞。

祭りはさまざまな意味や価値を内包している

 そもそも祭りとは何でしょうか。民俗学者の柳田國男は、儀式をもって神に供物を捧げもてなすことで、そのつながりを強固なものにしようとする行いが、祭りの起源であると唱えました。そして、祭りを執り行う信仰を共にする人々とは別に、祭りを外から見物する人々が現れたのは、それよりも後のことだと柳田は言います。柳田は前者を「祭り」、後者を「祭礼」に区分しました。
 祭りが柳田の言うところの「祭礼」になると、人々は自分たちの祭りが周りから見られていることを強く意識するようになります。きらびやかな装飾を施した山車(だし)や神輿(みこし)が、多くの祭りにおいて欠かせない存在となっているのはそのためです。そういう意味で祭礼は、神事であると同時に、観光との親和性が非常に高いといえます。
 祭りの特性を機能面から捉えていくと、共同体の構成員が祭りの遂行のために互いに協力し合い、祭りならではの非日常的な空間を共有する。その中で、ともすれば日常生活を続けるうちに薄れがちになる、共同体としての一体感を取り戻す。祭りには、そんな機能があります。
 また祭りは、その共同体における年齢相応の役割を求められ、自身の能力を試される場でもあります。例えば私が調査を続けてきた滋賀県の長浜曳山祭(ひきやままつり)では、狂言を担う若衆と、若衆を出た、曳山の管理や祭礼の進行を担う中老に分けられ、それぞれが自身の役割をいかに全うできたかが、周りからの評価の対象となり、共同体内におけるその人物の地位にも直結していきます。

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武田教授が調査を続けてきた長浜曳山祭は長浜八幡宮の祭礼で、曳山(山車)が町中を巡行する曳山巡行や子ども歌舞伎など、多くの見どころがある

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子ども歌舞伎は長浜曳山祭の最大の見所ともされ、5歳から12歳くらいまでの子どもによって演じられる

 このように祭りには、さまざまな要素が内包されています。ある人は神事としての祭りを重視し、ある人は祭りを通じて共同体としての一体感が醸成されることを重視する。このように、祭りにどんな意味や価値を見いだすかも、人によって多様であることが、祭りの特徴であるといえます。

テレビ番組や国鉄によって観光ブームが起きた

 前述したように多くの祭りは、「観光としての祭り」の要素を備えていますが、それがより強く押し出されるようになったのは、大正末期から昭和初期にかけてのことです。この時期、鉄道が整備され、一般の人でも遠隔地に旅行することが容易になりました。そんな中で祭りは、強力な観光コンテンツの一つとなりました。
 さらに戦後の1970年代にもう一度、祭りで観光ブームが起こります。大阪万博での祭りの出演、さらに全国の民俗芸能を紹介したNHKの「ふるさとの歌まつり」(※1)、国鉄の「ディスカバー・ジャパン」キャンペーン(※2)などがきっかけとなり、祭りが再注目されるようになったのです。
 高度経済成長期には、多くの人が地方を離れて都市部に移り住みました。そうした人にとって地方の祭りは、望郷の念を呼び起こさせるものとして映ったことでしょう。
 ちなみにこの時期には神事としての要素がない、観光客の誘致を主目的とした観光祭りも、各地で新設されています。
 祭りの継承のためにはヒト・モノ・カネといった資源が不可欠ですが、戦後の日本の地方都市は、経済的な地盤沈下に見舞われました。そんな中で行政が観光客の誘致を期待して資金を提供するようになったことは、祭りの継承において貴重な金銭的資源となりました。

※1 1966~74年に放映。全国各地に伝わる郷土芸能、年中行事を中心に民謡、風俗や習慣などを、地元出演者とゲスト歌手の歌とともに届け人気となった
※2 高度経済成長で失ったさまざまなものを反省し、日本の美しい自然や文化、歴史、伝統、人々との触れ合いを見直そうと国鉄が展開したキャンペーン

今、祭りの継承をめぐり重大な選択を迫られている

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長浜曳山祭の開催は毎年4月。京都市の祇園祭、高山市の高山祭と並び、日本三大山車祭の一つに数えられている

 時代の波を越えて継承されてきた全国各地の祭りも、令和に入った今、曲がり角に直面しています。ヒト・モノ・カネのいずれの資源の確保も課題ですが、少子高齢化の進行により、特に枯渇しているのが人的資源です。
 これまで多くの祭りは、人的不足の問題をさまざまな形でカバーしてきました。例えば他出子、すなわち普段は都市部に住む子世代が、祭りのときだけ地元に帰り、祭りの担い手となる場合があります。しかし、その子世代が高齢化したときに、果たして孫世代以下が、祭りを継承してくれるかどうか、という問題があります。特に人口減が激しい農村部ほど、継承は難しくなるでしょう。
 また、地元以外からの参加者を受け入れたり、これまで裏方として祭りを支えることしか許されてこなかった女性の参加を認めたりする所も出てきています。これについて、強い抵抗感を抱く人もいます。新たな担い手を増やさないことには、祭りの継承自体が不可能になるのですが、こればかりは地域ごとの判断に委ねるしかありません。
 さらにこの2年間はコロナ禍の影響で、ほとんどの祭りが中止に追い込まれたことも、祭りの継承にとっては逆風となりました。祭りは一度取りやめると、再開に当たってはとても大きなエネルギーを要します。運営のノウハウも失われますし、人々の生活リズムも、祭りがないことを前提としたものになってしまうからです。そのため今年度は、新型コロナの感染状況にかかわらず、実施に踏み切った所が多く見られます。
 こうしたコロナ禍への対応も含め、日本の多くの祭りは今、その継承をめぐり、重大な選択を迫られた時期にあるといえます。

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