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働く 集う 和む<br>大正レトロな駅舎を保存・再現しつつ、<br>観光駅としての魅力を向上<br>──JR日光線・日光駅

働く 集う 和む
大正レトロな駅舎を保存・再現しつつ、
観光駅としての魅力を向上
──JR日光線・日光駅

宇都宮駅から日光駅までの路線距離40.5kmのJR日光線。その中でも日光駅の駅舎は、正統な西洋建築を取り入れた建築様式として評価が高く、「白い貴婦人」とも呼ばれている。北方ヨーロッパの建築技法であるハーフティンバー様式が用いられた木造2階建構造のネオルネサンス建築は、1階部分の一角に大正天皇が休息に使われた「貴賓室」(非公開)、2階部分に旧一等待合室(現在は「ホワイトルーム」として一般に開放)を備える。関東の駅百選において、「明治時代の面影を残す白亜の木造建築の駅」として選定された。

日光駅に向かうにつれ非日常性が次第に高まる
「タイムグラデーション」のコンセプト

 日光駅は1890(明治23)年、日本初の民営鉄道会社「日本鉄道」により開業された。その後、日本鉄道の国有化で国鉄の駅となる。東京駅の駅舎竣工の2年前に当たる1912(大正元)年には平屋の初代駅舎が改築され、現在の2代目駅舎が完成した。
 駅舎の設計者はいまだ不明だ。かつては、世界的建築家で日本でも帝国ホテルなどを手がけたフランク・ロイド・ライトが設計した、とうわさされたこともあった。しかし、その後2007年、近代化産業遺産群に選定された際、駅舎の天井裏から棟札が見つかったことをきっかけに、東京高等工業学校建築部を卒業後、鉄道院に入省した元鉄道院技手・明石虎雄(1890年頃〜1923年)が設計者だと考えられるようになった。
 一方で、駅舎建造時期の明石虎雄の年齢(22〜23歳)や当時の実績を考慮すると、正当な設計者とは考えにくく、建築の専門家の間では「明石虎雄も建造に関わったものの、設計者は宣教師としても活動したアメリカの建築家、ジェームズ・マクドナルド・ガーディナーではないか」とする説も根強い。
 いずれにせよ、洋風木造の優美なたたずまいは改築から100年以上が経った今もなお現存し、日光の観光名所の一つに数えられている。

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駅1階にある「貴賓室」。大正天皇が行幸の際に休息をとられた部屋(非公開)

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駅2階の旧一等待合室は、現在は「ホワイトルーム」として一般に開放。シャンデリアを支える天井のレリーフは当時のものだという

 JR東日本は、2009年と16〜17年の2度にわたり、この日光駅の駅舎リニューアルを行った。09年のリニューアル時、その後も受け継がれていく「デザインコンセプト」を担当した株式会社JR東日本建築設計(以下JRED)の朴明浩氏(現・建築設計本部 まちづくり推進部門 担当部長)は当時の背景を次のように振り返る。
 「当時、JR東日本では、JR日光線の活性化のため、沿線の駅を含め全面的にデザインリニューアルを行う『日光線活性化プロジェクト』が立ち上がっていました。日光駅の駅舎リニューアルもその一環として行われたものです。そのとき、われわれが立てたのが、日光線の始発駅(宇都宮駅)から終着駅(日光駅)に向かうにしたがい現代から過去へ時間がさかのぼる──『タイムグラデーション』というコンセプトです。電車が宇都宮駅から日光駅に向かうにつれ非日常性が次第に高まっていく、そんな路線にしたいと考えました」(朴氏)

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JR東日本建築設計 建築設計本部 まちづくり推進部門 担当部長
朴 明浩氏

内装を大幅刷新し、大正レトロな駅舎を実現

 09年リニューアルでは案内表示や車両デザインなどを「タイムグラデーション」のコンセプトに統一。同時に駅舎の模様替えを行った。
 「日光駅は当時から文化財登録の話が持ち上がるほど歴史的に貴重な建造物であり、その伝統的価値をしっかりと守らなければいけませんでした。とはいえ時代が進むにつれ、駅の中には現代的な生活感が随所に現れるようになりました。そこで本リニューアルでは、タイムグラデーションのコンセプトに調和する部分は残しつつも、調和しない部分は限定的に模様替えを施したのです」(朴氏)
 具体的にどのようなリニューアルが行われたのか。実施設計を担当した坂井正博氏(現・建築設計本部 鉄道建築部門 担当部長)にその詳細を聞いた。

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JR東日本建築設計 建築設計本部 鉄道建築部門 担当部長
坂井正博氏

 「09年は主に内装のリニューアルを行っています。具体的には、外観のハーフティンバーに合わせたコンコース(駅舎内中央広場)や券売機周りの内装リニューアルで、プロジェクトで新たに採用した日光線の沿線カラーである『クラシックルビーブラウン』も、駅名表示板やベンチ、時計、自動販売機など、駅舎の雰囲気になじませるよう随所に導入しました。また駅事務室・コンコース・待合室などの腰壁には化粧材として木製パネルを新たに設置し、内装と外装の一体感を醸成しました」(坂井氏)

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腰壁に化粧材として木製パネルを新たに設置するなど、大正レトロな雰囲気を再現した(2009年改修時に撮影)

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2009年リニューアル時に採用された日光線の沿線カラーである「クラシックルビーブラウン」は特別に調合された、赤みを帯びた茶色。出口の表示板など、日光駅でも随所に使用されている(2009年改修時に撮影)

 このとき坂井氏が特に注視したのは、待合室のデザインである。
 「駅の待合室は、これから始まる旅の期待と、余韻を感じる場です。お客さまの旅の思い出に残る何か印象的なデザインができないか苦心しました。日光駅を利用されるお客さまのほとんどが訪れる日光東照宮を事前調査で訪れた際に、拝殿の「折り上げ格天井」を見上げたとき「これだ」と確信し、待合室の天井デザインに取り入れることにしました。これにより地域との調和を図り、タイムグラデーションというコンセプトに基づいたリニューアル設計ができました。結果的に大正期に建造された当時のクラシックな駅舎の魅力が増し、同時に旅の記憶に残る駅舎になったと思います」(坂井氏)

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改修された待合室。天井面に「折り上げ格天井」を取り入れたことが分かる(2009年改修時に撮影)

 この実施設計で坂井氏は、改めて「歴史的建造物に従事する」ことの意義を感じる体験をしたという。
 「こうしたリニューアル設計の際、われわれ設計者は既存の建築物のことを事細かに研究します。その研究の中で感じたのは、日光駅駅舎のデザイン性が非常に優れているという点です。例えばファサード(建物正面部の外観)を見ると、比例・幾何学・黄金比といったさまざまなデザインツールが見事に組み合わされていることがよく分かります。昔の建築家もコンパスや定規を使いながらより美しいデザインを考えていたことを、一設計者・技術者としてうれしく思うと同時に、過去に生きた設計者がデザインに込めた思いをなくしてはいけない、と身の引き締まる思いでした」(坂井氏)

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リニューアル時に、坂井氏がデザイン分析のため手描きしたファサード(建物正面部の外観)

老朽化対策に加え安全性・利便性も向上

 それから7年後の16年5月から翌17年3月にかけ、日光駅では再び大規模リニューアルが実施されている。17年のリニューアルを担当した上神正和氏(現・建築設計本部 鉄道建築部門 次長)はこう振り返る。
 「このときのリニューアルの大きな目的は、JR東日本よりオーダーのあった駅舎老朽化対策、そして観光駅としてのさらなる魅力向上です。特に後者の魅力向上の背景として、17年にクルーズトレイン『TRAIN SUITE 四季島』の運行開始を控えており、日光駅は四季島の運行コースに設定された停車駅の一つとして乗り入れが行われる予定でした。
 前回、09年の駅舎模様替えと打って変わり、今度は構造面も含めたかなり大がかりなリニューアル。09年から続くタイムグラデーションのコンセプトから考えれば、極力、駅舎のどこにも手を入れないのがベストなのでしょうが、何しろ日光駅は建造から100年以上も経過した古い建築物です。老朽化対策は避けられない状態でした」(上神氏)

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JR東日本建築設計 建築設計本部 鉄道建築部門 次長
上神正和氏

 具体的な工事対象は、駅舎(外壁・屋根の修繕工事・耐震補強工事、ホワイトルーム修繕工事)、ホーム(1番線ホーム上家の建替工事、2番線ホーム上家の葺替・塗装工事)、その他(トイレリニューアル、団体改札・団体待合所のリニューアル、跨線橋の内装改良・屋根葺替・塗装工事)と広範に及んだ。
 特にホーム上家(ホーム上の屋根)はそれまで駅舎と同じ木造だったが、このときに鉄骨造へ刷新されている。天井材に透光性のあるパネルを採用するなどして「陽の光が射し込む」よう設計された。
 「『TRAIN SUITE 四季島』がホームに停車したそのときから、四季島のお客さまの日光への旅行体験は始まっているのだと思います。ならば電車の窓から駅舎を見たお客さまをがっかりさせたくはない。駅の安全性確保のために老朽化対策をしつつも、駅舎の魅力をしっかりと守り、お客さまにとっての安全性・利便性・快適性を向上させる──17年のリニューアルについて、JREDにはそんなミッションが課せられていたのだと思います」(上神氏)
 日光へ電車で向かうには、JR日光線と東武日光線の2つのルートがある。JR日光駅と東武日光駅は距離でみて300mほどしか離れておらず、どちらの路線を使うかは旅行者に委ねられる。上神氏は、2度にわたり行われたリニューアル設計者を代表し、その思いをこう語った。
 「日本全国で駅のリニューアルが進められる中、今回の日光駅のような『築100年以上の建築物を保存しつつも魅力を向上させる』駅は非常に稀少です。やはり私たちの思いとしてはJR日光線のルートを使っていただき、JR日光駅という歴史的建築物をじかに体験していただきたい。コロナ禍が過ぎればインバウンドも復活してくるでしょう。この駅に訪れること自体を一つの旅行体験にしてもらいたいと思っています。個人的には夕暮れから夜にかけての日光駅も、趣があって印象深いのでお勧めしたいですね」(上神氏)

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2016〜17年のリニューアル後に上空から撮影した日光駅の全景(2018年撮影)

 最後に朴氏が、JREDとして一連のリニューアルプロジェクトに挑んだ意義についてこう語った。
 「JREDはJR東日本のグループ会社として、公共インフラにおける建築設計に従事しています。しかし、建築設計はすべからく更地から建物をつくる新築設計とは限りません。日光駅のように建物そのものがローカル性を持ち、かつ歴史的な価値を持っている場合などは、建物の用途を変更して再利用するコンバージョンや復原の需要が存在します。同時に、それは新築設計に引けを取らない熱量で挑むことが求められます。日光駅のプロジェクトはまさしくそれであり、私もコンセプト設計に当たっては『日光』という場所の歴史的文脈もきちんと理解した上で臨みました。ここでの経験・ノウハウは、JREDにとって大きな強みになったと感じています」(朴氏)
 リニューアルによって、日光駅は安全性・利便性・快適性が高まった。その一方で、大正時代の雰囲気を大切に守り続けたことで、変わらず人々に愛されている。そのことは、駅舎の前で記念撮影するお客さまの姿が絶えないことからも感じることができる。

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