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働く 集う 和む<br>ゲストとつくる"関係価値"の創出を目指して<br> ──メズム東京、オートグラフ コレクション

エントランスでは、きらびやかな光のウォールアートが出迎えてくれる

働く 集う 和む
ゲストとつくる"関係価値"の創出を目指して
──メズム東京、オートグラフ コレクション

浜離宮恩賜庭園を臨む竹芝エリアにおいて、"つぎの豊かさを生み出すまち"をビジョンに掲げ、文化・芸術の発信拠点の機能を核とし、竹芝の地域資源である水辺を活かしたまちづくりを目的とした「竹芝ウォーターフロント開発計画」。JR東日本グループが進めるこのプロジェクトの拠点として、2020年10月にまちびらきした「WATERS takeshiba(ウォーターズ竹芝)」。先立って、同年4月27日には第Ⅰ期部分として「メズム東京、オートグラフ コレクション」(以下、メズム東京)がオープンした。「WATERS takeshiba」内タワー棟16〜26階に誕生したメズム東京は、JR東日本グループの日本ホテル株式会社が世界最大のホテルチェーンの一つ、マリオット・インターナショナルと提携して生まれた、これまでにないラグジュアリーホテルだ。

グローバルトレンドでは 「ラグジュアリーホテルにも"個性"が求められる」

 2020年4月に開業した「メズム東京」。そのホテル名の由来は「メズマライズ(mesmerize)」──"魅了する""魅惑する"などの意味を持つ。メズム東京は、まさしく"訪れる人の五感を魅了する"ように、ホテル玄関口のロビーからゲストがくつろぐ客室まで、随所に魔法がかけられている。

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大きな窓を用い、天井が高く設計されたロビーラウンジは開放感がある

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窓からは浜離宮恩賜庭園や都心のビル群を望むことができる

 「オートグラフ コレクションは、マリオット・インターナショナルのブランドの中でも、厳選された個性的なホテルが加盟するコレクションラインです。世界中でオートグラフ コレクションに加盟するホテルが増えていますが、近年のグローバルトレンドでは、ラグジュアリーホテルにも"個性"が求められている背景があります。メズム東京は、日本ホテル株式会社オリジナルブランドとのダブルネーム。われわれは"TOKYO WAVES"というコンセプトの下、自分たちのポテンシャルを最大限引き出し、常に変わりゆく東京の躍動感を五感で感じる唯一無二のホテルづくりを心がけました」
 そう話すのは、メズム東京で総支配人を務める生沼久(おいぬまひさし)氏だ。生沼氏は1994年、新卒で「ウェスティンホテル東京」の開業メンバーとしてキャリアをスタート。以降も「シェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテル」の宿泊部長・副総支配人、「シェラトングランドホテル広島」開業準備室プロジェクトマネージャー、「モクシー東京錦糸町」総支配人などを歴任、2018年に日本ホテルに入社した。

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メズム東京 総支配人 生沼久氏

 メズム東京のコンセプト"TOKYO WAVES"には4つの柱がある。
 目前に浜離宮恩賜庭園やベイエリアの眺望を望める絶好の「ロケーション」。
 "スターサービス"と呼ばれる接客セクションのホテルクルーが、ベルやフロント、レストランまでワンストップでシームレスに対応してくれる「おもてなし」。
 世界的ブランドを擁するヨウジヤマモト社の"Y's BANG ON!"とコラボレーションしたオリジナルユニフォームなど、旧来の"ホテルマンらしさ"と一線を画する「東京モード」。
 そして、ゲストの創造力をかき立てる「インスピレーション」。
 「いつもロビーにいらっしゃる常連の方から、『メズム東京のロビーにいるだけで自分の感覚が刺激され、会議のプレゼン資料を作るときにインスピレーションをもらえる』とお話しいただきました」(生沼氏)

ロビーからゲストルームに仕掛けられる "五感への刺激"

 一体、メズム東京にはどんな魔法がかけられているのか。
 まずホテルに入ると、メズム東京オリジナルフレグランスが、ゲストを迎え入れてくれる。通常、ホテルブランドは「1ホテル・1フレグランス」が定石だが、メズム東京ではフレグランスプロデューサー・石坂将氏がプロデュースした春・夏バージョン(Tokyo CITRON)、秋・冬バージョン(Tokyo OUD)と2種類のフレグランスが、季節ごとに移り変わる。

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16階のロビーへといざなう廊下

 ロビーやバー&ラウンジでは、音響機器メーカー・ヤマハ製のシグナルプロセッサー、スピーカーシステム、シーリングスピーカー、パワーアンプなどの音響システムを導入して実現した「"TOKYO WAVES"をイメージしたFGM(フォアグラウンドミュージック)」が高音質で流れている。フォアグラウンドミュージックとは、空間の背景としてさりげなく流れるBGM(バックグラウンドミュージック)とは異なり、立体感のある高音質の音楽を、本格的な音響機材で実現する新しい音楽体験を意味する。
 また、ロビーには同じくヤマハ製のヴィンテージグランドピアノが鎮座。毎夜出演者の代わる音楽やアートのライブパフォーマンスも催される。
 レストラン「シェフズ・シアター」は"シェフの劇場"という名の通り、まるで舞台を観劇するかのように独創的なフレンチをカジュアルに楽しめるレストランで、オープンキッチンから流れ出る音・香り・臨場感もまたゲストの五感を刺激する。ちなみに、同レストランでキュリナリーマイスター(総料理長)として指揮を執るのは隈元香己(くまもとこうき)氏だ。日本人で初めてミシュランの星を獲得した中村勝宏氏の薫陶を受けた人物で、フランス料理界の巨匠ジョエル・ロブション氏が審査委員長を務める「プロスペール・モンタニェ国際料理コンクール」において日本人として2人目、日本在住の日本人としては初めて優勝の栄冠を勝ち取るなどの実績を持つ。その隈元氏の五感を駆使した料理は来訪者の心をつかみ、リピーターとなる人も多いという。

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オープンキッチンの開放感とともにビストロノミースタイルのフレンチを堪能できるレストラン「シェフズ・シアター」

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目でもおいしいアミューズブッシュ(写真はイメージです)

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物語性のあるフレンチを、テーマに沿った音楽とともに楽しめる(『オズの魔法使い』)(写真はイメージです)

 当然、客室にも魔法はかけられている。スイートルーム8室を含む全265室のうち一部の客室では、ウェルカムアートとして『BE@RBRICK TokyoWaves (2020)』が迎え入れる。BE@RBRICK(ベアブリック)は、世界中で愛されているテディベアが生誕100周年を迎えた2001年に、「デジタルなイメージのテディベアを作る」といったコンセプトの下に、MEDICOM TOY社によって日本で生まれたクマ型ブロックタイプフィギュアだ。このBE@RBRICKに光に反応する特殊なインク「NINJAINKⓇ」を用いることで、スマホなどでフラッシュ撮影をするとホテルのコンセプト"TOKYO WAVES"を漢字で表現した"東京波"の文字が現れる。

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chapter 4 Suite Luxe

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BE@RBRICK TokyoWaves (2020)

 さらに、全客室にはカシオ製のデジタルピアノ「Privia」を導入。ゲストルームのタブレット端末に入った楽譜で、ゲストは思い思いの演奏を楽しむことができる。中にはゲストルームで練習をした後、ロビーのヴィンテージピアノで演奏を披露するゲストもいるという。

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客室内のデジタルピアノ「Privia」

 他にも、メンズスキンケアブランド「BULK HOMME」とコラボレーションし誕生した、性別問わず心地よく利用できるオリジナルバスアメニティや、ホテルアメニティの入った小箱をパズルのように組み立てると、大航海時代をイメージした絵柄が完成するユニークなアメニティボックス、さらに老舗洋菓子店「不二家」やスペシャルティコーヒー専門店「猿田彦珈琲」といった東京の企業とのコラボレーションシリーズなども全室に完備されている。

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小泉氏デザインのオリジナルアメニティボックス

辿り着いたのは 「ゲストとの"共犯関係"になるホテル」

 開業にあたり生沼氏は、外部スタッフとしてではなく、インハウスの"クリエイティブディレクター"として小泉堅太郎氏を招聘(しょうへい)した。生沼氏は、小泉氏のことを「妄想家である私の勝手なアイデアを、いつもかたちにしてくれる方(笑)」だと話す。

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メズム東京 クリエイティブディレクター 小泉堅太郎氏

 小泉氏はこれまで主にグラフィックデザイナーとして、ビューティー・ファッション業界における外資系企業のブランディング、プロモーション、PR活動に従事してきた人物。メズム東京ではBI(ブランドアイデンティティ)、VI(ビジュアルアイデンティティ)、アメニティグッズ、アートワーク、各種ブランドコラテラル(webサイトやステーショナリー、内装、広告など諸々の制作物)のデザイン・監修を担当している。
 「一般的にホテルといえば、寝泊まりするところです。ビジネスホテルなら数千円で宿泊できるところもたくさんあります。しかしメズム東京では、最もお安いchapter1のお部屋でも約5万円です。この"数万円の価格差"にある付加価値は何なのか。ホテルをデザインするにあたって深く考えました」(小泉氏)

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スタンダードタイプのchapter1の室内

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室内電話もすべてメズム東京のために特注した

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室内に設置されたタブレットは照明などの操作が感覚的にできると好評。ピアノの楽譜としての役割も果たす

 その末にたどり着いたのが「ゲストとの"共犯関係"になるホテル」。
 「例えばゲストルームにある「猿田彦珈琲」の珈琲はインスタントではなく、お客さま自身でドリップして入れていただかなければいけません。一見、ドリップで珈琲を入れるなんて面倒なことのようにも思えますが、当ホテルがターゲットとするのは、そうしてご宿泊中も能動的に動きながら自らの人生を豊かにしようとする──そんな"インディビジュアリスト"だと考えました。ここでは単に『15時にチェックインして翌朝チェックアウトするだけ』のように寝泊まりするだけでなく、お客さまご自身に動いて体感いただくことで、ホテルの滞在時間を有意義な時間へと変える演出を施しています。その演出がホテル中にちりばめられており、一度ご来訪いただいただけでは全てそしゃくしきれないくらいです」(小泉氏)

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猿田彦珈琲の珈琲をはじめとした、メズム東京オリジナルアメニティ「THE BLEND」

 さらに小泉氏はホテルの展望をこう話す。
 「やがてはメズム東京を『これはもはやホテルじゃないよね』と言われるような、アミューズメント的空間にしていかなければいけないと思っています。単なる宿泊客ではない"ファン"を創出していく方向に、これからのホテルの在り方は見直されていくでしょう。メズム東京はある意味その実験場。私はそうしたソフト面にあるコンセプトやフィロソフィーを、デザインを通じて伝えています」(小泉氏)

コロナ時代に求められる これからの"ホテルの価値"とは

 2020年、ホテル業界もまたコロナ禍で大打撃を受けた。人の移動が制限される中、廃業を余儀なくされた旅館業経営者も大勢いる。
 2020年4月には1度目の緊急事態宣言が発出され、メズム東京の開業もちょうどその時期に重なる。開業前後に開催予定だった内覧会などマスコミ向けイベントの多くも延期・中止に追い込まれた。決して順風満帆な船出とはならなかったはず、である。
 しかし、メズム東京は開業からしばらくして緊急事態宣言が解除されるとともに、インターネット上のSNSや宿泊体験記などですぐに話題になった。
 「メズム東京はスターサービスクルー(接客スタッフ)のユニフォーム1つとっても、他のホテルのようにフォーマルな格好ではありません。そのことに限らず、何の予備知識もなくご来訪いただいた方の中には『これは本当にホテルなのか?』と、戸惑った方もいるでしょう。私もこの業界に長くいますが、正直ホテルとしては"やり過ぎ"な面があるくらいです。
 しかし、私たちはそれを意図的に行っています。同時に一度でも宿泊していただければ『これは他のホテルとはちょっと違うぞ』と、ポジティブに感じていただけるはず。予想外だったのは、コロナ禍の制限などもあってなかなか私たちが公にできなかったことをお客さまが積極的に発信してくれたことです。SNSや宿泊体験記の写真を通じ、他の多くの方にも共感いただけました」(生沼氏)
 いまだコロナ禍でホテル業界にとっては厳しい状態が続くが、生沼氏は「こういう時こそホテルがデスティネーション(旅行目的地)として選ばれ、宿泊費に見合うだけの価値を提供しなければいけない」と考える。
 「これまでのホテル選びは価格訴求の傾向が強かったですが、メズム東京ではお客さまがともにホテルの価値をつくっていく、そんな"関係価値"の創出にチャレンジしています。そしてそれはやがてグローバルスタンダードになる確信も持っています」(生沼氏)

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生沼氏・小泉氏の2ショット

 生沼氏が目指すホテルのイメージは"クールなラグジュアリーホテル"。日本では「クール」という言葉に対して、冷静やおとなしいなど、ややもすればネガティブなイメージをまといがちだ。だが、アメリカでは特に若い人たちの間では、カッコ良いもの・イケてるものに対して、「クール」と表現している。
 「これまでのラグジュアリーに求められたエレガント・スマート・ゴージャスといったことではなく、そうして世代・性別・人種を超えて『クール!』と言われる、そんなホテルを目指しています」と生沼氏。
 クールなメズム東京でしかできない体験、一度実際に味わってみてはいかがだろうか。

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