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「社会的合意をどう得るか」に鉄道の自動運転実現のカギはある<br>鉄道の自動運転がもたらすもの②

1981年開業の神戸ポートライナーでは、世界で初めて完全に無人の自動運転を採用した

「社会的合意をどう得るか」に鉄道の自動運転実現のカギはある
鉄道の自動運転がもたらすもの②

既に一部で導入されている鉄道の自動運転。だが、自動運転で運行される鉄道は多くない。その理由はなぜか。また、これから鉄道における自動運転はどうなっていくのか。日本における鉄道の自動運転研究の第一人者である東京大学の古関隆章教授に伺った。

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古関 隆章 こせき・たかふみ
東京大学大学院
工学系研究科 教授
1963年生まれ。86年東京大学工学部電気工学科卒業。92年東京大学大学院工学系研究科電気工学専攻博士課程修了。2013年より現職。18年7月から電気学会産業応用部門交通・電気鉄道技術委員会委員長。国土交通省「鉄道における自動運転技術検討会」座長。

日本の鉄道会社も自動運転を本格的に検討

 運転士も係員も乗務しない、完全に無人の自動運転(UTO※1)が世界で初めて実用化されたのは、1981年に開業した日本の神戸ポートライナーです。一方、海外では80年代半ば以降、ヨーロッパの地下鉄を中心に、UTOや、係員は乗務するが運転士は乗務しないかたちの自動運転(DTO※2)が次々と導入されました。今ではヨーロッパの国々は、自動運転システムの世界市場への輸出を積極的に展開しており、この分野のトップランナーとされています。

※1 UTO=Unattended Train Operation(下図の自動化レベル「GoA4」が該当)
※2 DTO=Driverless Train Operation(下図の自動化レベル「GoA3」が該当)

 これに対して日本は、その後も大阪メトロニュートラムや横浜シーサイドライン、ゆりかもめなど、新交通システム(※3)ではUTOの導入が進みましたが、ヨーロッパと違い地下鉄についてはUTO、DTOのどちらも、いまだに導入例はありません。気が付けば日本は自動運転分野において、すっかり諸外国の後塵を拝することになりました。

※3 従来の鉄道のように鋼鉄の線路の上を鉄の車輪で走行するのではなく、ゴムタイヤの車輪によって専用軌道を走行する形式の公共交通機関のこと

 ところが近年、JR東日本やJR九州が自動運転についての検討や研究に着手したことが一つのきっかけとなり、日本でも地下鉄事業者のみならず、鉄道業界全体において自動運転が高い関心を集めるようになっています。
 日本は人口減少社会に突入しており、今後は運転士の確保も困難になることが想定されます。運転士不足が原因で、適切なダイヤ編成を組めなくなるというのは、鉄道会社としては絶対に避けたいことです。利用者の利便性を損なわず、事業を持続可能なものにするために、鉄道各社は自動運転の導入を本格的に検討するようになったと考えられます。

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実績や知見を積み重ね自動運転のレベルを上げる

 UTOが新交通システムの分野で真っ先に導入されたのには理由があります。踏切のない高架構造になっており、ホームにはホームドアが設置されているため、線路内に人などが立ち入る可能性が低く、運転士がいなくても安全の確保が容易だからです。
 同様に地下鉄も踏切がなく、ホームドアを設置すれば、新交通システムと近い環境を実現できます。事実、日本の地下鉄でもUTOやDTOの導入が検討されたことがありました。しかし「もしトンネル内で火災などが発生した場合、運転士や係員がいない状態では、すみやかに異常を察知して、乗客を避難させるのが難しいのではないか」といった議論が起こり、導入が見送られました。
 これに対してJRや私鉄などの路線の場合、導入に向けたハードルは地下鉄以上に高いといえます。多くの線路は地上に敷かれており、踏切はもちろん、さまざまな場所から人や車などが進入してくるリスクがあるからです。
 地上を走行する路線において、UTOやDTOの実現には、列車の前方に障害物があった際に高い精度で検知をするセンサーの開発や、踏切部で異常が発生した際にそれを検知し、列車を停止する機能の開発、ホーム部へのホームドアの設置、ホーム・踏切部以外の線路脇に防護柵を設置するなど、総合的な安全対策の強化が不可欠となります。

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※IEC 62267(JIS E 3802):自動運転都市内軌道旅客輸送システムによる定義 鉄道における自動運転技術検討会 令和2年7月3日 PDFを参考に作成

 またひと口に自動運転といっても、自動化のレベルには段階があります(上図参照)。日本の地下鉄も前述のように、GoA4(UTO)やGoA3(DTO)は導入できていませんが、ATO(自動列車運転装置※4)を用いたGoA2(STO:半自動運転)については、多くの地下鉄で既に導入されています。地下鉄、JR、私鉄の路線共に、まずGoA2を実現したら、次はGoA2.5、GoA3というように、実績や知見を積み重ね、環境整備や技術開発を進めながら、段階を追って徐々に自動運転のレベルを上げていくことになると考えられます。

※4 ATO:自動列車運転装置(Automatic Train Operation)。列車衝突や速度超過を防ぐ保安装置(ATC:自動列車制御装置)が許容する速度以下で、列車の加速・減速、定位置停止制御などを行う装置

 鉄道における自動運転を普及させる上で、もう一つカギとなるのが、どこまでの安全度を求めるかについての社会的合意です。例えば、DTOで列車を運行させていた際に、前方の障害物を検知できず、事故が起きたとします。その場合、「もし運転士が運転席にいれば、事故を回避できたのではないか」といった議論が巻き起こることが想定されます。しかし運転士がいたとしても、障害物を見つけるのが遅くなり、やはり事故は起きたかもしれません。
 そこで保守的な日本社会に新技術を導入する際に社会的合意を得るための1つの目安と考えられているのが、現状非悪化(現状よりも状況を悪化させない)と呼ばれる考え方です。100%事故を防止できる技術を開発できない限りUTOやDTOを認めないのではなく、運転士がいる場合よりも安全性が下がらない、つまり現状非悪化であることを導入の条件とすることに、多くの人の同意が得られれば、鉄道における自動運転は、実現に向けて大きく前進することになります。

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