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自動車・航空機・船舶に見る<br>自動運転の「現在」<br>鉄道の自動運転がもたらすもの①

自動車・航空機・船舶に見る
自動運転の「現在」
鉄道の自動運転がもたらすもの①

「自動運転」というと、真っ先に自動車が思い浮かびがちだが、乗り物ということでは、航空機や船舶、鉄道でも早くから自動運転の実現に向けた取り組みが進められてきた。そこで本特集では、自動車・航空機・船舶といった身近な乗り物の自動運転の現状について整理。また鉄道の自動運転の現在と課題について斯界の第一人者に取材した上で、JR東日本の考え、取り組みについて紹介する。

 鉄道の自動運転の現状を見る前に、自動車・航空機・船舶といった私たちが日常に利用し得る他の乗り物の自動運転の現状はどうなっているのだろうか。その歴史や現状を見てみよう。

すでに始まっていた自動運転タクシー

 産業技術総合研究所の津川定之氏の論文「自動運転システムの60年」によると、自動車における自動運転を最初に提唱したのは、米ゼネラルモーターズ社で、1939〜40年にニューヨークで開催された世界博覧会でのことだった。50年代に入ると、吹雪の高速道路で発生した重大な交通事故を知ったラジオ会社の副社長の提案で研究がスタート。道路に誘導ケーブルを敷設して自動車を制御しようというもので、工事、運用、保守の負担が大きく、普及までには至らなかった。
 それをきっかけに、日本やヨーロッパでも自動車の自動運転の研究が始まっていくが、前出の津川氏の論文によると、50年代〜60年代にかけての第1期、70年代〜80年代の第2期、80年代後半〜90年代後半の第3期、21世紀に入ってからの第4期に分けることができるという。

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世界初となる自動運転タクシーのサービスは2018年に米ウェイモ社によって開始された

 研究は、第2期においては第1期の反省を踏まえて、自動車単体で動ける自律型システムが志向され、第3期ではいくつかの自動車が一定の距離を保ち、並んで走行するプラトゥーン走行を行い、対象車両が路線バスや大型トラックにまで拡大された。そして現在の第4期に入ると、実用化に向けた研究開発の段階にまで至っている。
 世界各国では実証試験が本格化しており、2018年12月には米グーグル社の子会社・ウェイモ社が、世界初となる自動運転タクシーのサービスを開始。22年2月にはゼネラルモーターズ社の子会社・クルーズ社も続いた。
 日本においては、本田技研工業株式会社が21年3月、自動運転レベル3(※1)機能を搭載した世界初の量産車となる新型「レジェンド」を発売。高速道路などでの渋滞時の自動運転を可能にしており、同社はレベル4(※2)の実装化に向けて、さらなる開発に取り組んでいる。

※1 条件付運転自動化。システムが全ての動的運転タスクを限定領域において実行。作動継続が困難な場合は、システムの介入要求等に適切に応答。安全運転に係る監視、対応主体はシステム(作動継続が困難な場合は運転者)
※2 高度運転自動化。システムが全ての動的運転タスク及び作動継続が困難な場合への応答を限定領域において実行。安全運転に係る監視、対応主体はシステム

パイロットが操縦かんを握るのは10分だけ?

 もっとも、自動運転は自動車だけのものではない。例えば、航空機におけるオートパイロットシステムは既に導入されて久しい。
 航空機は空中で、ロール、ピッチ、ヨーという3つの回転を制御することで姿勢を保つ(下図参照)。パイロットは同時に多くの操作をしなければならず、加えて強風などに対して都度対応する必要があるため、高度な技量が求められている。操縦の自動化を図ることでパイロットの負担を軽減するとともに、安全性も向上させるというニーズが強くあった。

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ロール、ピッチ、ヨーの3つの回転を制御することで姿勢を保っている

 オートパイロットシステムは、自動的に姿勢を安定させて一定方向に飛行させる「自動操縦装置」、視界不良時でも安全に滑走路上まで誘導する「自動着陸装置」、適切に推力を調節する「自動推力調整装置」の3つで成り立っている。このうち自動推力調整装置は1933年に採用され、現在では操縦士が飛行中に手動で操縦するのは平均すると10分にも満たないと言われるほどシステムは進化した。
 また2019年には米リライアブル・ロボティクス社が、地上からの遠隔操縦が可能な自動操縦プラットフォームを使用して自律型飛行機の開発に成功するなど、航空機の自動化も進んでいる。

無人運航船の経済効果は年間1兆円

 陸、空だけでなく、海における船舶の自動化にもおもしろい動きがある。船舶における自動運転は、自動車とは違い、海に出てしまえば障害物が少なく運航状況も安定することから、自動操舵装置自体は1920年代以降には存在していた。だが、物流や漁業などの活発化で、コンテナ船や漁船が激増し、従来の自動操舵装置では、近年の混雑した海上運航への対応が難しくなった。その結果、手動操舵でのヒューマンエラーによる事故が増えた。加えて、船員の高齢化が進んでおり、若手船員の不足が指摘されている。これは資源の多くを輸入に頼っている日本にとっては、死活問題ともなる。

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「MEGURI2040」の実証試験の一つとして、東京九州フェリーの大型フェリー「それいゆ」の無人運航試験が2022年1月に行われ、成功している(写真提供・日本財団)

 そこで2018年に国土交通省は、従来の自動操舵装置よりも高性能な「自動運航船」に関するロードマップを策定。25年までに、陸上からの操船や高度なAIによる行動提案で船員をサポートする「フェーズⅡ自動運航船」の実用化を目標に掲げた。公益財団法人日本財団も、世界に先駆けて内航船における無人運航の実証試験を成功させるべく、無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」をスタート。
 プロジェクトは、コンテナ船、フェリー、水陸両用船、小型観光船をそれぞれ対象としたシステム開発など5つのコンソーシアムで構成されており、40以上の企業、団体が参画する一大プロジェクトだ。無人運航船が実現し、40年までに50%の船舶が無人運航船に置き換わった場合は、年間1兆円の経済効果が日本にもたらされると試算されており、プロジェクトへの期待は大きい。以上のように自動車、航空機、船舶の自動運転の実現に向けた取り組みは着実に進んでいるが、鉄道はどのような動きをしているのだろうか。次回は、その動向を専門家に聞く。

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