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農園の成功は第一歩<br>荒浜地区のにぎわいを取り戻すことが最終目標<br>──開業から1年、「JRフルーツパーク仙台あらはま」の今

「JRフルーツパーク仙台あらはま」に併設された直売所「あらはまマルシェ」では、農園でとれた果物のほか、荒浜地区の生産者が育てた新鮮な野菜などが購入できる

農園の成功は第一歩
荒浜地区のにぎわいを取り戻すことが最終目標
──開業から1年、「JRフルーツパーク仙台あらはま」の今

「JRフルーツパーク仙台あらはま」は、津波の被害が大きかった仙台市荒浜地区に、東日本大震災から10年を機に誕生した。かつては人々が住み、田畑が広がるのどかな地域だった荒浜の地を復興したい──そんな願いが込められた同農園の開業からの1年は、どのようなものだったのか。

密にならないフルーツ狩りで コロナ禍の逆風を跳ね返す

 2021年3月18日に仙台市若林区荒浜にオープンした体験型観光農園「JRフルーツパーク仙台あらはま」。約11haの敷地面積は東北地方最大級で、いちご、ブルーベリー、ナシ、リンゴ、イチジクなど8品目150品種以上を栽培しており、1年中フルーツ狩りが楽しめる。
 同農園のある若林区荒浜は、東日本大震災で大きな被害を受けた場所だ。同地区のにぎわいを取り戻そうと、仙台市はさまざまな施設を誘致。JRフルーツパーク仙台あらはまは、その第1弾としてオープンしたが、どのような1年だったのだろうか。同農園を運営する、仙台ターミナルビル株式会社観光農業部の近藤志帆さんに話を聞いた。

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仙台ターミナルビル株式会社観光農業部の近藤志帆さん

 まず気になるのが、新型コロナウイルス感染症の影響だ。全国でさまざまな施設が、コロナ禍のあおりを受けて苦戦を強いられている。
 「当園はありがたいことに、コロナの影響は最小限に抑えられています」と近藤さん。「例えば、いちごハウスでのフルーツ狩りは、参加者を1回あたり30人に限定しています。約2,000㎡のハウスの中に30人と聞くと、ほとんどの方にお申し込みいただけるんです。一箇所で密にならないということで、ご安心いただけるようです。そういう意味では、個人のお客さまに関してはコロナ禍の影響はあまり感じていません。もっとも、団体のお客さまについてはかなり影響があります。せっかくご予約いただいても、コロナの状況によってキャンセルが出てしまっているのは残念です」

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カフェ・レストラン「Les Pommes(レポム)」では、新型コロナウイルス感染症対策として、当初の席数を3分の2にして対応。新鮮な素材を生かした「おばんざいカレー」や、いちごパフェが人気だ

 同農園では、来園者には手指消毒の徹底やマスク着用、ソーシャルディスタンスについて協力を求める一方で、併設するカフェ・レストラン「Les Pommes(レポム)」の席数を3分の2にするなどして対応。宮城県からの認証も受け、来園者が安心して利用できる体制を築いている。
 「初年度である21年度は来園者数12万人を目標としていますが、幸いなことに22年2月末の時点で約11万4,000人のお客さまにご来園いただいており、ほぼ達成できそうです」

味良し、サービス良し リピーターも増加中

 JRフルーツパーク仙台あらはま最大の魅力は、四季折々で変わる果物の種類の多さだ。21シーズンはいちごだけでも、宮城県のオリジナル品種「もういっこ」、新品種の「にこにこベリー」、九州の育成品種「あまえくぼ」「恋みのり」、の4品種を食べ比べることができる。リンゴに至っては、まだ試行錯誤中との話だが、34品種が栽培される予定だ。
 「初年度は、どのタイミングで収穫するのが最もおいしいのかなどを試しながら進めてきました。そのため、まだ全ての品種をご提供できるわけではありませんが、近い将来、全てのフルーツ狩りをお楽しみいただける予定です」

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農園内に設置されたマップ。さまざまなフルーツ狩りが楽しめる

 1年目は、いちごやブドウなどが人気を集めたというが、特に注目されたのがイチジクだった。同園でとれるイチジクは生食用。東北地方でイチジクは甘露煮などにして食べるが、生で食べられるものはあまり販売されていない。そのこともあり、地元からの来園者には面白がってもらえたという。
 フルーツ狩りを目的とした来園者が多いのは土曜や日曜などの休日。子どもを連れたファミリー層が多いという。
 「私どもでは、フルーツ狩りの最中も果物の摘み方や品種のご説明などをしており、分かりやすいとご好評です」

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「いちごハウス」の面積は約2,000㎡。コロナ禍においては、密にならずにいちご狩りが楽しめる

 他のフルーツ狩りでは、注意事項の説明が最初だけのところが多いので、フルーツ狩り初心者にとってはありがたいサービスだ。そうした心配りは施設にも反映されている。例えば、いちごハウスでは北側の19レーンは幅が広く取られている。バリアフリー設計になっており車いすの人でもいちご狩りが楽しめるように配慮されている。
 栽培される果物は味の評価も高く、これらサービスも相まってリピーターも少なくないという。
 併設する施設も、近隣の主婦層に人気があるという。平日の直売所「あらはまマルシェ」には、開店と同時に来て、いちごを購入するなど、常連のお客さまも少しずつ増えてきた。直売所では、農園で収穫した果物だけでなく、荒浜地区の生産者が育てた新鮮な野菜なども販売しており、喜ばれている。

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直売所「あらはまマルシェ」では提携する福祉施設などで作られた産品も販売している

 「『あらはまマルシェ』だけでなく、仙台駅の東西自由通路でも定期的に販売しています」と近藤さん。果物、野菜ともに評判も良く、仙台駅での購入をきっかけに来園する人も多い。この自由通路での販売は、22年度も継続して取り組んでいくとのことだった。

イベントの種類を増やし 全国区の知名度を目指す

 誕生から順風満帆に見えるJRフルーツパーク仙台あらはまだが、今後の目標は何か。「知名度を高めることが、22年度の目標です。まだ仙台市の方でも、当園をご存じない方はいらっしゃいますし、またコロナ禍ということもあり、初年度は県外のお客さまも多くありませんでした。JRフルーツパーク仙台あらはまを、全国的にも知っていただけるようにしたいと考えています」
 そのための取り組みの一つがイベントの開催だ。初年度も、近藤さんをはじめとしたスタッフが、さまざまなイベント企画を実施してきた。

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農園内の畑で行われたサツマイモ掘りは、子ども連れの家族から大人気だった

 加工体験室「あらはまキッチン」で、いちごパフェやいちごクレープを作るイベントを実施。また、農園内の畑で行ったサツマイモ掘りやトウモロコシ狩りは、特に親子連れの人気を博した。
 「白菜や聖護院大根の収穫もやったのですが、サツマイモやトウモロコシなど、お子さまが喜ぶイベントのほうが人気が高かったですね。この1年、どのようなことがお客さまに喜んでいただけるのか、手探りで進んできたのが正直なところです」
 近隣の生産者と連携したイベントも行った。ゴールデンウィーク、夏、秋に行ったバーベキューでは、提携する生産者から仕入れた新鮮な野菜を用いて好評だった。
 「夏と秋はブドウ畑の中でバーベキューを開催したのですが、ちょうどブドウの葉が茂っていて、非日常的な空間だと喜んでいただけました」

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参加者から好評だったブドウ畑でのバーベキュー。生い茂るブドウの葉によって暑さがしのげるだけでなく、その空間が非日常的だと喜ばれた

 枝豆の摘み取り体験も人気だった。生産者が朝一番に枝に付いたままの枝豆を持ち込み、直接摘み取ってもらうというものだ。取れたての枝豆の味にやみつきになり、リピーターも多かった。食に関するものだけでなく、どうぶつふれあい体験や日比谷アメニス(※)と提携した花を用いたワークショップも開催している。
 「22年度は、初年度に開催した内容を継続しつつ、イベント色を取り入れた摘み取りなども含めて新しい催しを企画し、充実させていきます」

※本社を東京に置く造園会社。緑や花、環境を基軸としながら快適な人と空間との関わりを提言する事業も行っており、JRフルーツパーク仙台あらはまとワークショップなどで提携している

農園の成功は第一歩 真の目標は荒浜地区の復興

 JRフルーツパーク仙台あらはまは、単に自社の農園が成功を収めることのみが目的ではない。あくまで最終目標は、震災によってダメージを受けた荒浜地区の復興にある。その点に関して、仙台ターミナルビルの上席執行役員観光農業部長で、荒浜事業所長を兼任する渡部善久さんに話を聞いた。
 「荒浜地区の再開発は地域の活性化を目的に始まりましたが、そのための拠点はこれまでJRフルーツパーク仙台あらはまのみでした。ですが、22年4月21日には地中熱を利用した温泉棟を持ち、農園、レストランを併設した複合施設『アクアイグニス仙台』がオープンします。これで復興のための拠点が2つ。これからはアクアイグニスさんと協力してお客さまを集客し、この地域における回遊性、滞在性をいかに高めていけるかが重要になります。ある意味、22年度は荒浜地区10km圏内のにぎわいを取り戻す"入り口"としての1年になるので、非常に荷が重いですが、やりがいを感じています」

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仙台ターミナルビル株式会社上席執行役員 観光農業部長兼荒浜事業所長の渡部善久さん

 JRフルーツパーク仙台あらはま、アクアイグニス仙台ともに荒浜地区の南側に位置している。そのため、商圏としてカバーできるのは荒浜地区10km圏内の南側5km。残りの地区については、どう考えているのだろうか。
 「当園とアクアイグニスさんが成果を出せれば、荒浜地区に対する需要が実証できます。そうすれば北側にも事業者が入り、荒浜地区10km圏内が本当の意味で活性化されるはずです。2年目、3年目、これからが本当の意味での勝負となります」
 農園の成功は第一歩であり、最終的な目標のために、どのような行動がとれるかが大事だと、渡部さんは話す。
 「最終的な目標に近づくために、生産者の方をはじめとした地域の人たちと連携しながら、お客さまとつながっていきたいと思います」と近藤さん。
 震災復興・地域連携・農業振興を目的としたJRフルーツパーク仙台あらはまの挑戦は続く。

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