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ニューノーマル時代の「子育て」を考える(後編)

子どもはもちろん、親も笑顔でいられる子育てのあり方が求められている

ニューノーマル時代の「子育て」を考える(後編)

少子化に悩む日本。背景にはさまざまな問題があるが、理由の一つとして、わが国が子どもを育てにくい社会になっていることが挙げられる。それだけに、子ども自身が健やかに育っていける社会、子育てに喜びや楽しみを感じ安心して子どもを産み育てることができる社会の形成が求められている。本特集では、日本の子育ての現状、そしてこれからについて、有識者の考えや昨今誕生した子育て支援サービスなどを通して考えてみたい。

企業主導型保育所のミスマッチを解消

 既存の子育て支援の仕組みを有効活用しようとマッチングサービス「子育てみらいコンシェルジュ」を20年1月に立ち上げたのが、日本生命保険相互会社だ。
 同社は13年から男性社員の育児休業取得を奨励し、対象者は8年連続で取得率100%を達成。全男性社員の4分の1が育児休業経験があり、従業員の子育て支援を積極的に行ってきた。中期経営計画では、「社会的役割の更なる発揮」を掲げ、地域社会の子育て支援にも取り組んでいる。
 「子育てみらいコンシェルジュ」はその一つ。定員に空きがある企業主導型保育所と、わが子を保育所に預けられずに困っている従業員がいる企業をマッチングする、日本初のサービスだ。
 始めたきっかけは、17年からの株式会社ニチイ学館との協働で、企業主導型保育所の全国展開を実施し、定員充足に向けての課題を知ったことにある。
 企業主導型保育所とは、企業が自社の従業員のために、事業所内や周辺の商業施設などに設置した保育所のこと。16年に待機児童対策の一環でスタートした内閣府の企業主導型保育事業を活用することで、企業は施設の整備費などの援助が受けられる。21年7月時点で全国に約4千カ所あるが、定員充足率は69.2%にとどまっている。

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※2021年7月初日時点、同年11月12日公表速報値
※定員充足率=現員数/開所定員数
※協会が定めた期限までに報告のあった施設の結果であり、全ての施設を網羅したものではない
※施設ごとの定員充足状況については、企業主導型保育事業ポータルサイト
(https://www.kigyounaihoiku.jp/)で公表
(公益財団法人児童育成協会資料より作成)

 定員が埋まらない大きな理由は、仕組みの複雑さにある。企業主導型保育所の受け入れ枠は、企業の従業員が利用する「従業員枠」と、地域住民が利用可能な「地域枠」の2つに分かれている。そのうち、従業員枠は企業主導型保育所と契約を締結すればどの企業でも利用できるが、認知度が低いため、保育所は十分な数の企業と契約できず、従業員枠を余していた。
 一方で待機児童に悩む親が大勢いる。これは大きなミスマッチだ。
 「また、従業員のために、自分たちで企業主導型保育所をつくりたいという企業もあるのですが、保育施設を運営するノウハウや体力がなく、断念するケースが少なくありませんでした。子どもを預けられない親と、定員が埋まらない既存の企業主導型保育所と、保育所が持てない企業。3者の課題をクリアするスキームを考え、『子育てみらいコンシェルジュ』に至りました」と話すのは、総合企画部ライフサポート事業班の笠原有子課長だ。
 具体的には、日本生命のグループ会社・株式会社ライフケアパートナーズが、全国約450カ所の企業主導型保育所を集めたプラットフォームを構築。企業がライフケア社と契約することで、その企業の従業員は専用サイトで自分に合った企業主導型保育所を検索し、申し込めるようになる。その他、親子の健康相談に関する電話サポートや、保活に関する情報冊子の提供なども受けられる。
 できるだけ事業所から近い保育所を利用できるよう、ライフケア社は企業の要望に応じて、保育所の開拓も行う。保育経験のあるライフケア社のスタッフ等が、入会時に運営状況を調査するだけでなく、年1回の調査をすることで、保育所の質を確認している。
 利用料金は1000名以上の企業で月額10万円、1000名未満で月額3万円と低く抑えた。「社会課題の解決を目的としているので、比較的導入いただきやすい価格設定にしています。保育所からは利用料をいただいていません」と笠原課長は言う。

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笠原 有子氏
日本生命保険相互会社
総合企画部ライフサポート事業課長

 サービスを始めると、2年足らずで、大企業を中心に約60社が契約した。「認可保育園に落ちてしまい困っていたときに、自宅近くの企業主導型保育所が見つかり、助かりました」と利用者からは喜びの声も届いている。
 「空いている保育所が見つかれば、園によっては1~2週間で入所できるので、復職したいタイミングでスムーズに復帰できます。そのため、育児休業をしている方にとっては安心感があると思います。また、電話サポートや情報提供も、第一子で何をしていいのか分からない方に喜ばれています」
 企業主導型保育所からも好評だ。子育てみらいコンシェルジュでは、東京大学発達保育実践政策学センターと共同研究し、保育スタッフ向けのオンライン研修動画を作成して、登録保育所に提供している。こうした研修面のサポートも評価されている。
 「認可保育園だと自治体単位の研修を行っているのですが、認可外保育所は対象外の場合もあり、研修の機会が不足しているのですね。オンライン動画によってその点をカバーできるので、ありがたいという声をいただいています」
 今後は、ポスト待機児童の時代を見据えて、一時保育の受け入れなど、保育所のサービスの質を高めるサポートの拡充や、子育てをしている人が集まるコミュニティの立ち上げなどもしていきたい、と笠原課長は語る。

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 活用されていない既存の子育て支援の仕組みは企業主導型保育所だけではない。地域子育て支援拠点も同じことが言える、と前編でお話を伺った日本福祉大学の渡辺教授は言う。渡辺教授は、20年に人口5万人未満の市町村にある地域子育て支援拠点に関する調査を実施。そこで分かったのが、出生数が減っているにもかかわらず、利用者数が増加している支援拠点が約3割あることだ。
 「増加傾向にある拠点に共通していたのは、認知度アップや土日開所などの努力を行っていることです。つまり、環境改善の余地はあるし、改善すればその地域では子育てがしやすくなり、少子化に歯止めがかかるかもしれません。日本はまだまだあきらめてはいけない。私は希望を持っています」
 個人・企業などそれぞれができることを模索し、実行する。それこそが、全ての人の笑顔をつくるただ一つの手段だろう。


JR東日本グループが取り組む子育て支援 HAPPY CHILD PROJECT

利用者の仕事と家庭の両立をサポートしたい

 JR東日本グループでは、2011年から「HAPPY CHILD PROJECT」を展開している。その目的は鉄道や駅の利用者の、仕事と家庭の両立をサポートし、沿線の生活を豊かにすることだ。
 「地域に貢献したいという思いをもとに、駅型保育園をはじめとする子育て支援施設や、地域交流、多世代交流が図れる施設を開設しているほか、改札通過サービス『まもレール』などのサービスを展開しています」と話すのは、事業創造本部新事業創造部門新領域ユニット(くらしづくり推進)の相澤汀さんだ。

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駅型保育園は、1996年から2021年4月までに150カ所を開設している

 駅型保育園は、首都圏を中心に設置。保育園以外にも、駅型学童、交流コミュニティひろば、送迎保育ステーションなどの子育て支援施設を開設しており、21年4月には計画の1年前倒しとなる施設数150カ所を達成。25年度末までには170カ所を目指す。
 もっとも、数を増やすだけでなく、支援内容の充実も大事だという。
 「昨今の保育園の増設で、待機児童数は落ち着いた状況にあります。一方、「小1の壁」(※)や障がい児向けの学童保育の不足など、新たな社会的課題が表面化しました。そうした課題にも目を向け、JR東日本グループ各社のリソースを活用した施設の開設を目指していこうと考えています」

※小1の壁とは、子どもが小学校に進学することにより、保育園・幼稚園時代に比べて、親の仕事と子育ての両立が困難になること

ほどよい距離感で子どもを見守る

 「まもレール」は、利用しやすい子育てサービスとして、17年10月からスタートした。子どもがSuicaまたはPASMOで駅の自動改札機を通過すると、保護者に通過時刻や利用駅、チャージ残額を知らせてくれるサービスだ。

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「まもレール」では、改札にタッチするだけで通過時刻・利用駅・チャージ残額を保護者に知らせてくれる

 「お客さまから他の私鉄でも使いたいとの声があり、20年4月から都営交通や東京メトロに拡大しました」と語るのは、相澤さんと同じ部署に所属する仁木昭良さんだ。
 現在は都営交通、東京メトロも含め、首都圏496駅がサービス対象になっている。
 「まもレール」は見守りサービスであり、GPSではないため、子どもから不満も出にくく、保護者がほどよい距離感で見守ることができることがメリットの一つ。さらに、ICカードを利用しているので充電の心配もなく、手軽にサービスを利用できると利用者から好評だという。登録者数は累計約1万7000人。21年1月からは、これまで18歳までの小学生、中学生、高校生だった利用対象を、19歳以上の障害をお持ちの方、65歳以上のシニアにまで拡大した。
 「『まもレール』は、まだ発展途上です。他の鉄道事業者とも連携して拡大し、利便性を高めていきたいですね。また、同じ公共交通機関であるバスでの利用も広げたいと考えています」
 相澤さん、仁木さんに共通する思いは「お客さまの生活を豊かにしたい」ということ。その目標のため、次のサービスを構想中だ。

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仁木 昭良(左)/相澤 汀(右)
JR東日本 事業創造本部 新事業創造部門 新領域ユニット(くらしづくり推進)
(仁木昭良:現 株式会社千葉ステーションビル)

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