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キャッシュレス化をけん引するSuicaの可能性<br>貨幣のゆくえ③

キャッシュレス化をけん引するSuicaの可能性
貨幣のゆくえ③

2001年11月18日にJR東日本が導入した「Suica」は、昨年20周年を迎えた。この非接触ICカードは鉄道の乗車券として始まり、店舗での決済が可能な電子マネーサービスを導入するなど、キャッシュレス化の立役者だといえる。これまでの歴史、これからの可能性を担当者に聞いた。

2001年の誕生以降進化を続けるSuica

 2021年には、発行枚数が8800万枚を突破したSuica。JR東日本のチケットレス・キャッシュレス化の歩みは、Suicaを抜きにして語ることはできない。
 切符と定期券をICカード化したSuicaが発行されたのは01年のこと。続いて03年にはクレジットカードと一体型の「ビュー・スイカ」カードが登場し、04年には当時黎明(れいめい)期にあった電子マネーサービスも始めた。MaaS・Suica推進本部の松本憲副課長は、「この時期に電子マネー事業を始めていたからこそ、今日の急激なキャッシュレス化社会においてビジネスチャンスをつかむことができた」と語る。
 06年には「モバイルSuica」のサービスがスタート。またこの頃、他の鉄道事業者でも交通系ICカードの導入が進んだため、事業者間での相互利用を積極的に進め、07年にはPASMOとの相互利用、13年には全国の10のICカードでの相互利用サービスも実現した。
 さらにその後も、「タッチでGo!新幹線」(18年)や「新幹線eチケット」(20年)により、新幹線でも、Suicaを自動改札機にタッチするだけで乗車できる環境を整えていった。

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松本 憲
JR東日本 MaaS・Suica推進本部 Suica共通基盤部門
戦略統括グループ 副課長

モバイル化やポイント共通化によるさらなる進化

 こうしたSuicaの歩みの中で、「04年の電子マネーサービスの開始とともに、06年から開始したモバイルSuicaも、その後のSuicaの発展に大きな影響をもたらしました」と松本副課長は語る。
 モバイルSuicaにより、チャージや定期券の購入を、駅に行くことなく手持ちの携帯電話で行うことが可能になり、利用者の利便性が大きく向上。また事業者側にとっても券売機の削減など、効率的な事業運営に結び付けることができた。
 「モバイルSuicaをご利用されているお客さまは、カード型のSuicaをお持ちの方と比べて、電子マネーのご利用回数が多いという傾向にあり、電子マネー事業の拡大にも寄与しています」(松本副課長)
 さらに近年では他の事業者とも連携し、「Apple Pay(Apple Payは、米国およびその他の国で登録されたApple Inc.の商標です)」や「Google Pay」「楽天ペイ」などのアプリからSuicaを発行し、利用できるサービスを開始。特に「Apple Pay」との連携は、モバイルSuica利用者の飛躍的な拡大につながったという。
 また松本副課長は、「Suicaは、『JRE POINT』と掛け合わせることで、グループ全体の新たな価値創造にも貢献しています」と語る。

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JR東日本グループの共通ポイント「JRE POINT」

 従来JR東日本では、グループ内に複数のポイントプログラムが存在していた。そこで16年に共通ポイントプログラムとして「JRE POINT」をスタートさせ、駅ビルのポイントを順次統合。続いてSuicaやクレジットカードのポイントを統合。19年にはSuicaを使って鉄道を利用した際にポイントが貯まるサービスを開始し、さらに21年には新幹線や特急列車などのインターネット予約サービス「えきねっと」のポイントも統合したことで、グループ内で幅広く利用できるポイントプログラムとなった。
 これによりグループ内での相互送客の促進が期待できるとともに、ポイントを活用したキャンペーンなど、グループ全体でのマーケティングも可能となった。

人々の日常にもっとSuicaを

 昨年春にJR東日本では、新たに「地域連携ICカード」をスタートさせた。
 地方のバスなどの交通事業者の中には、金銭的な負担が大きいことから、交通系ICカードの導入を見送っているケースも少なくない。この課題に対し、Suicaの機能に加えて、交通事業者ごとの割引や福祉ポイントといった独自サービスも提供可能としたのが地域連携ICカードだ。

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地域連携ICカード
岩手県交通の「Iwate Green Pass」(写真左 21年3月27日開始)と宇都宮エリアの「totra」(写真右 21年3月21日開始)

 システムやカードの開発はJR東日本が行い、導入事業者間で開発コストをシェアするビジネスモデルとしているため、事業者にとっては従来よりも安価にICカードの導入が可能となった。21年には宇都宮エリアと盛岡エリアの路線バスで導入され、今後も東北や北関東を中心に拡大が進む。加えて同社では23年春以降青森・盛岡・秋田の各エリア44駅にSuicaを導入する予定だ。
 「当社としては、地域の様々な課題解決のお役に立ちたいと考えており、Suicaで人々の日常をもっと豊かに、便利にしていきます」(松本副課長)

「タッチ&ゴー」をさらに多くのシーンで

 さらにJR東日本では21年9月より、お台場レインボーバスを運行する「株式会社kmモビリティサービス」の協力を得て、NFCタグを活用したバス乗車サービスを行っている。NFCタグとは、ICチップが内蔵されたシールやカード状の媒体のことで、NFCリーダーモード対応のスマートフォンをNFCタグにタッチすれば、キャッシュレス決済などのさまざまなサービスに利用できるというものだ。今回の実証実験では、利用者は「Ringo Pass」(※)アプリをあらかじめダウンロードし、アプリで乗車人数を選択した上で、「タッチする」ボタンをタップすれば、NFCリーダーモードが起動する仕組みになっている。このプロジェクトを担当する同本部の柴田聡さんは、次のように語る。

※ JR東日本と株式会社日立製作所が共同で進めるMaaS(Mobility as a Service)のアプリサービス。Suicaでシェアサイクルを利用できる他、タクシーの配車・支払いが可能

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柴田 聡
JR東日本 MaaS・Suica推進本部 Suica共通基盤部門
企画グループ

 「設備としては、路線バスであればNFCタグを運賃箱の上部などに貼ればいいだけなので、スペースも取らず、費用も低く抑えられます。今後も改良を重ね、多くの交通事業者に導入していただけるものにしていきたいと考えています」
 今回の実証実験では、支払手段としてクレジットカード決済を採用したが、今後は「Ringo Pass」アプリでモバイルSuicaのチャージ残高からの決済を可能にすることで、Suicaが使える環境を整備していく予定だ。JR東日本では今後もさまざまな決済をSuicaと連動させることで、人々の生活をさらに便利なものにしていくという構想を描いている。

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「Ringo Pass」アプリとNFCタグがあれば、大掛かりな装置を使わなくても便利な決済手段として活用できる(お台場レインボーバスでの決済の様子)

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アプリで「大人」「こども」それぞれの乗車人数をあらかじめ選択することで、スムーズな運賃の決済が可能となる

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