水沢江刺駅の全面リニューアル工事現場
ユニオン建設
日々積み重ねる鉄道工事から、安全・安定輸送を支える
鉄道設備の保守・改良という、列車の安定した運行のためになくてはならない重要な業務を担うユニオン建設株式会社。「線路」「土木」「建築」の各部門の事業内容を紹介する。
事業運営の基盤は"安全"
線路の保守、鉄道に関する土木工事や建築工事を主力事業とするユニオン建設株式会社。その設立は1958年で、前身となる会社が国鉄から請け負っていた保線等の事業を引き継ぐ形でスタートした。後に東北新幹線や津軽海峡連絡線の建設工事に携わるなどして業容を拡大し、94年にはJR東日本グループに参入。わずか15名の社員で立ち上げた会社は、設立から60余年で完工高(建設会社の売上高)461億円(2020年度)、社員数785名(2021年4月1日現在)を数えるまでに成長を遂げた。
「JR東日本グループの一員となるまでに何度かの経営危機に直面しましたが、先人たちがハングリー精神を発揮して苦境を乗り越えてきました。その精神は、今も当社の根底に流れていると思います」と、福田泰司代表取締役社長は話す。
福田 泰司
代表取締役社長
20年度の完工高内訳は、「線路」46.5%、「土木」40.6%、「建築」12.9%。以前は「線路」の比重がより大きかったが、近年は高架橋などの耐震補強工事やホーム柵新設に伴う改良工事などの増加で「土木」の比率が高まるとともに、老朽化した駅舎の改良をはじめとする「建築」の受注も伸びつつあるという。
「いずれの部門でもトッププライオリティとしているのが事業運営の基盤たる"安全"です。JR東日本の『鉄道工事に関する安全マネジメント』に沿った対策と独自の安全管理対策を確実に行い、各現場が実施状況を診断して改善するというPDCAサイクルを常に回しています」(福田社長)
そのためには、鉄道工事に関する専門知識と高度な技術が欠かせない。そこで同社では技術研修センターを設置(1995年)するだけでなく、過去の事故事例に基づく教育や、体験型の安全教育を行う「事故の学習館」も開設(2010年)。協力会社の社員も対象として、安全対策の重要性を徹底している。
万全の線路保守で安全性と快適性を維持
鉄道の安全性を保つのに欠かせない線路のメンテナンス。同社の線路部門は、その最前線に立っている。
大宮支店に所属する大宮新幹線出張所では、東京から栃木県小山市付近にかけての東北・上越新幹線の線路を保守。終電後にレールやマクラギ、道床砕石などの状態を検査し、必要に応じて修繕を施す。とりわけ大掛かりなのが、摩耗したレールを新しいものに交換する工事である。
線路のマクラギの下に敷いてある砕石は、劣化すると線路の不陸(水平でない状態)の原因となるため、定期的に交換される
(左)大型保線機械により、終電から始発までの限られた時間で線路の不陸をミリ単位で修繕する
(右)線路の検測では、レールの摩耗状態や設計値からの変位量を測定。ミリ単位の管理を行う
「作業後は始発列車の運行前に確認車と呼ばれる保守用車が走って安全を確かめます。終電後の限られた時間帯に確実にレール交換を終えなければならないので、まさに時間との戦いです」と、同出張所の遠藤賢所長は説明する。
繰り返し通過する列車の荷重により、レールには不陸(水平でない状態)や変形も絶えず発生する。その計測は機器で行い、調整が必要かどうかはシステムが判断するが、機械では捉え切れない小さな違和感に気づくことも、安全を守るための重要なファクターになる。そのために、社員が経験によって"勘所"を養うことも不可欠だという。
大宮支店大宮新幹線出張所の遠藤賢所長
JR東日本から「事故防止につながる精度の高い保守が常になされている」と評価されていることに加え、これまで新幹線の運転士から「異常な揺れを感じた」との報告がなされたことがないのが、遠藤所長の誇りだ。
「レールの不具合は事故のみならず、不快な揺れの原因にもなります。快適な乗り心地を支えることも私たちの使命ですので、引き続き万全の保守に徹します」(遠藤所長)
鉄道を支える土木構造物のメンテナンス
災害対策や鉄道の高架化、駅のバリアフリー化など、多様な鉄道土木工事を担うのが土木部門だ。
大宮支店の浦和土木出張所が担っている重要な案件の一つが、在来線と東北・上越新幹線の高架橋などの耐震補強工事である。
「その目的は、阪神淡路大震災や東日本大震災と同規模の地震が起きても崩壊することのない強度にすることにあります」と話すのは、同出張所の黒川康久所長代理。管轄エリア内の耐震補強を要する箇所を順次施工しているが、中には工事対象となる高架下が既に店舗やオフィスとして利用されているケースもある。
「工事は騒音や出水を伴いますが、一時的に移転をお願いすると、先方にご不便をかけるだけでなく、費用もかさんでしまいます。そこで可能な限りの防音対策等を施し、店舗やオフィスはそのままで工事を進められるように努力しています」(黒川所長代理)
大宮支店浦和土木出張所の黒川康久所長代理
同じ浦和土木出張所で、主に在来線の跨線橋の耐震補強工事を担当している渡邊恭平工事長が何よりも心を砕くのは安全対策だ。
「小さな工具類を1つ置き忘れただけでも重大事故につながりかねないので、当然ですが作業後の現場確認には最大限の注意を払っています」(渡邊工事長)
大宮支店浦和土木出張所の渡邊恭平工事長
コストに対する意識も強く、本来なら夜間に軌陸車(軌道と道路の両方を走行できる工事用車両)を用いて行う作業を、吊り足場を組むなどして日中に行うことで、工期を短縮するといった工夫も積極的に行っているという。
黒川所長代理と渡邊工事長に共通する想いは、鉄道を利用するお客さまの目には触れにくいところでの安全性を高める仕事に、大きなやりがいを抱いていることだ。
(左)高架橋の橋脚に補強鋼板を設置し、耐震性能を高める
(右)東北新幹線 上野・大宮間における防音壁改良工事の様子(2019年7月頃撮影)
駅施設の改修などでより心地よい空間を実現
建築部門は、駅舎の改修や美化などを通じた快適な駅空間の創出に貢献している。JR東日本は「災害に強い鉄道づくり」の一環として、東北新幹線の老朽化した駅を抜本的に改良するとともに、上家の耐震性も高める大規模改修プロジェクトを展開中だ。
その中でも、同社は水沢江刺駅の全面リニューアルを受注し、盛岡支店の盛岡建築出張所が23年3月の竣工を目指して工事を進めている。
「20年4月にスタートしたこの工事は、これまで日中の作業が主体だったため、工事ヤードとお客さまの導線を明確に分離する事で、駅をご利用になるお客さまにご不便やご迷惑をおかけしないよう努めてきました」と語るのは、同出張所の北上寿幸所長代理。高速で通過する列車による大きな風圧を受けるため、足場を通常より強固に組むなど、新幹線の駅ならではの安全対策も求められたという。
2023年3月の竣工を目指して行われる水沢江刺駅の全面リニューアル工事。前半では昼間に外壁等の工事を行い、後半になると新幹線の運転終了後の夜間に、駅内等の工事が行われる
「今後はホーム上での作業が増えるので、工事のメインの時間帯を終電後の夜間にシフトさせます。日中より短い時間での作業となるため、工程管理をこれまで以上に綿密に行っていきます」と話す北上所長代理。
「駅はより多くの方がご利用になる公共施設なので、現場管理者として大きな責任を感じますが、一方で工事への注目度が高く、完成した際の達成感も大きいです。引き続き、関係者との緻密な打ち合わせを重ね、お客さまと作業員の安全確保に注力していきます」(北上所長代理)
盛岡支店盛岡建築出張所の北上寿幸所長代理
コミュニケーション能力とリーダーシップ
チャレンジ精神を重視
「工事原価を下げることは、自社だけでなくJR東日本グループとしてのメリットになる」─その考えに基づき、前述の土木部門に限らず、あらゆる部門・現場で工事コストの低減や効率化につながる工夫が積極的になされているのも同社の特長だ。材料や工程の工夫により、工事費低減などにつながる現場の社員からの提案が毎月60件ほどあり、それを社長も含めた役員が確認。優れた事例を表彰するとともに、全社に水平展開している。優良事例は同業他社にも共有され、同社が提起した新しい工法や工夫が、他社で使用される例もあるという。ちなみに、先出の盛岡建築出張所も最近表彰されている。
優れたコストダウン事例は、事例集としてまとめられ、全社で情報共有している
同社にとって今後の大きな課題は、少子高齢化に伴う人材の不足だ。少ない人手で生産性を維持・向上できるよう、施工の機械化や省力化を推進する一方で、働きやすい職場づくりにも注力している。社員が自社の現状を把握することが働きがいにつながると考える同社は、会社の動きや経営情報をタイムリーに発信。また、快適な事務所の新築・改修や、多様な働き方を支援する社内制度の拡充など、ハード・ソフトの両面で環境整備を進めている。
そうした施策を進める福田社長が社員に求めるのは、高いコミュニケーション能力とリーダーシップだ。
「当社の業務は個人ではなく、協力会社の皆さんも含めたチームで行われます。単に情報を伝えるだけではなく、発注者や協力会社の皆さんから信頼を受け、チームを率いるリーダーシップも備えて欲しいですね。その上で、現状を改善するチャレンジ精神を発揮してくれることに期待しています」(福田社長)
高い安全意識と向上心を持った社員たちの仕事は、一般の利用者には見えにくいものではある。だが、彼らの日々の積み重ねが、鉄道の安定した運行を支えている。