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「ダイナミックプライシング」の可能性とは(前編)

「ダイナミックプライシング」の可能性とは(前編)

コロナ禍において、にわかに注目されてきた「ダイナミックプライシング」。ホテルや航空券の料金などでは、既になじみ深いものになりつつある。では今後、日本でダイナミックプライシングは、どのような進展を遂げていくのだろうか。本特集では、日本における行動経済学の第一人者である京都大学の依田高典教授に、ダイナミックプライシングの基本的な考え方を伺った上で、実際に導入する企業の事例を紹介。その可能性を考察する。

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依田 高典 いだ・たかのり
京都大学大学院 経済学研究科教授
1965年新潟県生まれ。89年京都大学経済学部卒業。95年京都大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。2007年より現職。現在は京都大学経済学研究科研究科長、同経済学部学部長も務める。その間、イリノイ大学、ケンブリッジ大学、カリフォルニア大学客員研究員を歴任。

カギとなるのはいかに消費者心理に注意を払うか

 ダイナミックプライシングとは、需要と供給の変化に合わせて、価格を小刻みに変動させる価格設定の仕組みのことをいいます。
 電気料金を例に挙げると、電力需要が増加する昼間は割高に、減少する夜間は割安に価格を設定する時間帯別料金(TOU)というプランがあります。電力には需給が逼迫(ひっぱく)すると、発電や送配電にかかるコストが上昇するという特徴があるため、TOUによって需要を夜間に誘導することで、コストの削減を図ろうというわけです。
 ただし、TOUは時間帯によって電気料金は異なるものの、金額自体はあらかじめ決まっています。これに対してリアルタイムプライシング(RTP)という方法では、天気予報などを元に翌日の電力需要を予測し、時間帯別の料金を毎日変動させていきます。厳密な意味でダイナミックプライシングといえるのは、後者のほうです。
 日本でダイナミックプライシングが注目されるようになったのは、東日本大震災直後に電力需給が逼迫したことがきっかけでした。私も関わったある社会実験では、需給が厳しいときに、人々に単に節電を要請するよりは、RTPを導入して「○日の午後1時~4時までの間、電気料金が○円値上がりするので、電力の使用をお控えください」と呼びかけたほうが、長期にわたって使用量を低く抑えられることが分かりました。
 ダイナミックプライシングの導入が可能になったのは、IoTの発達と切っても切り離せません。電力でいえばスマートメーターなどの普及が、需給の把握と予測を容易にしたのです。

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航空機やホテル業界で導入が進んでいる理由とは?

 ただし現実には、電力分野ではダイナミックプライシングが進んでいるとはいえません。TOUのプランですら、加入しているのは少数です。一方、航空業界やホテルの分野では、ダイナミックプライシングがすっかり浸透しています。この違いは何か。
 一般的には、航空機やホテルは、毎日利用するものではありません。消費者は一定の時間的余裕がある中で、価格の変動を見ながら、さまざまな選択肢から自分に適した便や部屋を選ぶことができます。一方、電力は毎日使わなくてはならない必需性の高いサービスであり、ダイナミックプライシングが導入された場合、時間的余裕がない中で、自分がどれだけ電気料金を払って電力を使用するか、その都度意思決定することが求められます。これは、消費者にとっては抵抗感を抱きやすいものなのです。
 こうして見ていくと、事業によってダイナミックプライシングが導入しやすい分野と、しにくい分野があることが分かります。航空機やホテル以外では、コンサートやスポーツイベントなども必需性や喫緊性が低い分、受容されやすい分野です。逆に、必需性や喫緊性が高い分野でダイナミックプライシングを取り入れる際には、よほどの工夫が必要になります。
 価格は単純に需要と供給のバランスだけで決められるものではありません。ダイナミックプライシングは、消費者の心理に十分に注意を払いながら、導入していくことが大切なのです。

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