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次世代新幹線試験車両「ALFA-X」が創る新幹線の未来<br>日本の新幹線は、なぜ、すごいのか(後編)

ALFA-X 1号車

次世代新幹線試験車両「ALFA-X」が創る新幹線の未来
日本の新幹線は、なぜ、すごいのか(後編)

 新幹線の車両開発には、驚くほど時間がかかる。JR東日本では、2030年に予定される次期営業車両デビューを目指して各種開発が進行中だ。次世代新幹線の開発、コンセプトなどについて、試験車両「ALFA-X」の開発責任者に話を聞いた。

10年以上の歳月をかけて新技術を実験・検証する

 FASTECHやSTAR21などに続く、新幹線の新たな試験車両がALFA-Xだ。「Advanced Labs for Frontline Activity in rail eXperimentation」の略称で、日本語で言うと「最先端の実験を行うための先進的な試験室」という意味。正式名称はE956形式新幹線電車10両編成で、2019年5月から走行試験を開始した。
 ALFA-Xの開発責任者であるJR東日本研究開発センター・先端鉄道システム開発センターの浅野浩二所長は、その目的を次のように語る。
 「ALFA-Xの開発は、当社のグループ経営ビジョン『変革2027』に掲げる、『鉄道を質的に変革し、スマートトレインを実現する』ことを目的に推進しています。次世代新幹線においては、これまでの安全・高速な移動手段を提供することに加えて、新たな価値のある移動空間を提供していきたいと考えています。ALFA-Xにおける成果を適用した次期営業車両は、2030年に予定されている北海道新幹線・札幌延伸時の投入を目指しています」

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浅野 浩二
JR東日本研究開発センター
先端鉄道システム開発センター 所長

 ALFA-Xの開発コンセプトは「さらなる安全性・安定性の追求」「快適性の向上」「環境性能の向上」「メンテナンスの革新」の4つだ。JR東日本研究開発センターの他に、本社、支社、現業機関、鉄道総研、メーカー、JR北海道などが連携して、技術開発や走行試験を進めている。
 新幹線に求められる技術水準は非常に高く、特に台車部品等に関しては十分な事前検証が必要だ。「加えてコストやメンテナンスのしやすさなども要求されるので、非常に多くの段階を踏んだ開発をしています」。
 シミュレーション等による性能検討後に試作品を製作し、JR東日本研究開発センターにある試験装置などで高速走行を忠実に模擬した基本性能検証、そして異常状態を模擬した状況下での挙動検証などを実施する。厳しい条件をクリアした開発品をALFA-Xにより3年ほどかけて性能確認した後、さらに数年、何十万㎞も走行して耐久性を検証する。加えて、ALFA-Xの試験結果に基づいた仕様の量産先行車を製作し性能検証。次期営業車両の量産車がデビューするまで10年はかかるという。

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次世代新幹線だけでなく、その先の先まで見据える

 現在は複数の新技術をALFA-Xに搭載し、走行試験を重ねている。「安全性・安定性」で重点的に開発されているのは、地震対策だ。地震が起きた時の車体の揺れを抑制する「地震対策左右動ダンパ」を車体と台車の間に設置。地震発生時にできるだけ早く止まるために、空気抵抗を増やす空力抵抗板ユニットを屋根上に小型で分散して取り付け、さらにレールと台車の間に電磁的な力を発生させ減速させるリニア式減速度増加装置についても試験した。
 札幌までの道のりを安全に走行するためには、雪対策も欠かせない。「気温がマイナス30℃になるのを想定し、車両搭載部品にもさまざまな工夫を取り入れたほか、床下の台車周りを雪がつきにくい形状にしたり、雪を溶かすヒーターを装備したりしています」。
 「環境性能」では、騒音を減らす技術開発にも多数取り組んでいる。象徴的なのは先頭部の形状だ。列車がトンネルに高速で突入した際、圧力波が発生、伝搬して、反対側の出口で「ドン!」という大きな音が出る恐れがある。時速360㎞で走ればなおさらだ。それを抑制するためには車体の先頭部分の形状を工夫することが必要だ。

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ALFA-X 10号車

 ALFA-Xでは両端の1号車と10号車の先頭形状を2パターン用意。10号車に関しては25mの車両のうち、22mを細長い先頭長部分にした。他にも騒音を抑えるパンタグラフや屋根上の吸音パネルを新たに搭載している。「そもそも現行の新幹線でも多様な騒音対策がなされていて、これ以上の低減は困難ですが、小さな効果の積み重ねで騒音を減らしています」。
 「快適性」では、上下左右の振動を減らす機能を装備し、座り心地のよいシートや寒冷地仕様のエアコンを開発。「メンテナンス」では、搭載機器にモニタリングシステムを装備し、そのデータをメンテナンスセンターにすぐに送ることで、最適なタイミングで修繕を行うCBM(状態基準保全)を実現しようと研究を進めている。
 「ALFA-Xでは、2030年頃の次世代新幹線を見据えた開発だけでなく、その先の新幹線に適用するような基礎開発も行っています。また、走ることだけでなく、価値のある移動空間をご提供するためのサービスに関しても研究しています。新幹線のイノベーションにおけるあらゆるプラットフォームとして、最大限に活用していきたい」
 誰も見たことがない新幹線の未来を創るために、ALFA-Xは進化し続ける。


独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構

3路線403キロを同時に建設する、すごい組織

 鉄道が完成するまでには、鉄道構造物の設計・施工はもちろん、ルート選定のための調査や自治体など関係機関との協議、用地取得など、実に多様なプロセスがある。
 それらをワンストップで行っているのが、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)だ。日本鉄道建設公団と運輸施設整備事業団が統合し、2003年に誕生した。「整備してきた路線は、前身の公団が発足した1964年以来、120以上。青函トンネルなどの津軽海峡線や北海道、東北、北陸、九州などの整備新幹線を筆頭に、JR線や民鉄なども手がけ、総延長は3600㎞以上に及びます」と新幹線部新幹線第一課の小島康弘課長補佐は言う。

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小島 康弘氏
新幹線部新幹線第一課 課長補佐

 長年の鉄道建設によって、JRTTには土木・機械・建築・電気・事務など多系統にわたる技術やノウハウが蓄積されている。新しい技術の開発にも余念がない。
 例えば、「SENS(センス)」は鉄道建設に欠かせないトンネル工事の新技術だ。硬い地盤で用いる山岳工法と、軟らかい地盤で用いるシールド工法の両方の長所をミックス。両工法が得意な地盤の中間にあたる難しい地盤条件に使用。円筒形の大きな機械で地盤を掘削し、直後に無筋のコンクリートを打設して、トンネルを作る。従来工法より安全性、施工性及び経済性に優れているという。

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シールド工法で用いるものを改良した「SENS」用のマシン

 「東北新幹線の新青森延伸工事で初めて用いられ、改良を加え進化をとげて、新幹線や地下鉄など5カ所で使いました。これによって土木学会技術賞および日本産業技術大賞審査員特別賞を受賞しています」と設計部設計第二課の千代啓三総括課長補佐は語る。

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千代 啓三氏
設計部設計第二課 総括課長補佐

 現在は北陸新幹線・金沢〜敦賀間、九州新幹線・武雄温泉〜長崎間、北海道新幹線・新函館北斗〜札幌間などの工事を進めている。北海道新幹線は騒音や振動を抑えながら時速320㎞で走れるよう設計を進める。震災対策も最新の基準をすぐに取り入れ、耐震性の高い構造物をつくっている。JRTTは安全で快適な日本の鉄道ネットワークのために注力していく組織である。

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[JRTTウェブサイト]https://www.jrtt.go.jp/

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