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East-iと技術者が支える新幹線の「当たり前」<br>日本の新幹線は、なぜ、すごいのか(中編)

検測車両「East-i」は10日に1回、JR東日本管轄の新幹線の全線区を走り、軌道の状態をチェックする

East-iと技術者が支える新幹線の「当たり前」
日本の新幹線は、なぜ、すごいのか(中編)

 「新幹線のすごさ」というと、とかく車両に目が行きがちだ。だが、優れた新幹線の技術は車両だけではない。最高速度320kmの走行を支える線路にも、そのすごさの秘密は隠されている。そんな新幹線の線路について、保守管理を行う担当者に話を聞いた。

耐久性が高く振動が少ない線路になされた数々の工夫

 時速200〜300㎞台の高速走行に加えて、安全性が高く、快適な乗り心地で、騒音や振動も少ない――。新幹線が高次元のパフォーマンスを当たり前のように実現している理由は、車両が優れていることに加え、線路の品質が常に高く保たれているからだ。
 「JR東日本では、新幹線統括本部の指揮のもと、新幹線保線技術センターや新幹線電力技術センター、設備部の土木技術センターなどが一丸となって線路を整備することで、新幹線の走行を縁の下で支えています」とJR東日本新幹線統括本部の小田和美ユニットリーダーはいう。

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小田 和美
JR東日本 新幹線統括本部 ユニットリーダー

 新幹線の線路には、軌道、トンネル、橋梁、高架橋、電気設備などが含まれる。中でも走行への影響が大きいのは、レールや道床で構成される軌道だ。
 数百㎞の道のりを最高速度320㎞で走行する新幹線の軌道は、在来線とまるで異なる。レール幅は標準軌の1435㎜。線形は急カーブのないなだらかな形状で、高速でカーブを走っても重心位置が変わらないよう、カーブの外側レールを内側レールより高くするカント(※1)も、在来線とは付け方が異なる。
 JR東日本の新幹線の軌道は、「スラブ軌道」を中心にしているのも特徴だ。スラブ軌道とは鉄筋コンクリートの路盤にコンクリート板を載せ、レールを据え付けている軌道のこと。東海道新幹線で用いられてきたバラスト軌道のように、路盤とレールの間に砕石を使わないので、砕石を定期的に交換する必要がない。つまり、耐久性が高く、メンテナンスの手間が少なくて済むわけだ。ただ、スラブ軌道のほうが振動や騒音などの問題が起こりやすいことから、一部区間でバラスト軌道も使っている。
 振動と騒音は新幹線の大きな課題だが、車両だけでなく線路でも低減する工夫を行っている。「振動を減らすために、弾性があるゴム製の軌道パッドをレールの下に敷設しています。騒音は、レールを削正(※2)したり、高架橋の壁をかさ上げしたり、防音壁に吸音板を付けたり、と全体的な取り組みで地道に1〜2デシベル下げています」(小田ユニットリーダー)

※1 2本のレールの高低差 ※2 レール上部を適切な形状に削る作業

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スラブ軌道(左)とバラスト軌道(右)。JR東日本の新幹線は、スラブ軌道を中心としており、バラスト軌道に比べて砕石の定期的な交換が不要など、耐久性に優れる

 安全面では、地震対策も二重三重に講じている。地震発生時に、走行中の列車をいち早く止めるため、沿線地震計や海岸地震計を張り巡らせた新幹線早期地震検知システムを導入。高架橋や駅などの構造物が壊れないよう、耐震補強工事も継続的に行っている。脱線しても被害を最小限に留めるために、レールに転倒防止装置を付けた。「車両側に付けた L型ガイドとともに、車両の逸脱防止を図っています」(小田ユニットリーダー)
 地域特性上、東北新幹線は雪害対策も必要だ。車両で排雪するため、線路脇に雪を貯雪できるスペースを設営。さらに車体に付いた氷が時速320㎞で落ちてきたときに、地上設備が損傷あるいは飛散し、周囲に影響を与えないよう、冬期間はバラスト上面をゴムのカバーで覆ったり、付帯設備の強度を高めたりしている。こうした積み重ねによって、安全で快適な高速走行を実現しているわけだ。

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積雪の多い地域では、バラスト軌道の砕石部分をゴムカバー(黒い格子状の部分)で覆うことで、車体に付いた氷が落ちてバラストが飛散することを防いでいる

「East-i」の走行で小さなゆがみも見つけ出す

 線路の安全性や環境性能を保持するためには、こまめなメンテナンスが不可欠だ。一般的に鉄道は高速で走れば走るほど軌道や分岐器などがゆがむ。時速300㎞超で走る新幹線は極めて軌道などがゆがみやすい。
 「新幹線のメンテナンスは、在来線よりはるかに保守レベルを高くしなければなりません。整備を必要とする基準や工事の精度をさらに高くした上で、修繕サイクルをきちんと回す。それを愚直に繰り返すことが、新幹線の安全を守る方法です」と小田氏は強調する。
 そこで新幹線は在来線とは異なる独自のメンテナンス体制を敷いている。線路を担当する「保線」に関しては、各地に設置された9つの技術センターが、それぞれの持ち場を管理する。東北新幹線は、大宮、宇都宮、郡山、仙台、北上、八戸の6カ所、上越新幹線では高崎、新潟、北陸新幹線では長野にある。グループ会社・パートナー会社の協力のもとに、終電後から始発までの短時間で、保守作業を行う。
 さらに、JR東日本では、新幹線のメンテナンスのために、自らも最高時速275㎞で走行可能な、電気軌道総合検測車「East-i」を運用している。

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「East-i」自体も最高時速275kmでの走行が可能だ

 概ね10日に1回、JR東日本管轄の新幹線の全線区を走り、軌道の状態をチェックする。データをリアルタイムで取り、不具合が見つかれば、期限内に修繕する。これを10日単位で繰り返すわけだ。
 修繕の基準となる閾値の高さの例が、レールのゆがみに関する基準。在来線の場合は10mのレールに同じ長さの糸を張り、その中心部で糸とレールの間に15㎜以上の隙間ができれば修繕の対象になるが、新幹線の場合はさらに厳しくなる。
 「40mの糸を張り、レールと糸の間が7㎜以上あれば、修繕の対象にします。修繕後、そのゆがみが2㎜以内ならようやく合格です」と小田氏は説明する。
 「East-i」では、線路のゆがみと車輪とレールが接触している音もチェックする。音が高くなったら、レールの表面が荒れている証拠だ。「レールが荒れると、音や振動に影響して、乗り心地が悪くなります。そのため、レールの表面を削るのです。音が出なくても、累積で5000万トンの荷重がかかった地点のレールを削ります。地味な作業ですが、高速鉄道の乗り心地を大きく左右する重要なことです」と小田氏は言う。

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「East-i」の車内には検査装置が並び、軌道の異常を見逃さない

 修繕したら、始発運転前に確認車という保守用車両を走らせて、線路上の置き忘れなど支障物の有無をチェックし、高速で走行する列車の安全を確保している。確認車はJR東日本管内に41台あり、各地でこのような修繕サイクルを日夜繰り返しているのだ。
 現在は機械によって自動的にメンテナンスできる範囲が増えたが、まだまだ人間のノウハウも必要だ。ベテラン技術者は毎年、定年によって退職していくため、新たな技術者の育成にも余念がない。保線技術センターの新入社員は、集合教育で基礎知識を学んだ後、現場でOJTを受ける。「最近はシミュレーション訓練を多く取り入れています」と話すのは、JR東日本新幹線統括本部宇都宮新幹線保線技術センターの南木聡明所長だ。

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南木 聡明
JR東日本 新幹線統括本部
宇都宮新幹線保線技術センター 所長

 「新幹線はトラブルを経験することが少ないので、在来線で発生した事象なども参考に、万一トラブルが起きたときのことを想定し、訓練を繰り返し行っています。そうすることで、いざというときにとっさに動ける。消防士さんが常に訓練しているのと同じです」
 メンテナンスにあたっては、お客さまの存在を常に意識することが重要だ、と南木所長は語る。「私たちの仕事の先には、必ずお客さまがいらっしゃいます。そのことを肝に銘じることが、緊張感を持って仕事に取り組むことにつながると考えています」

「SMART-i」などを投入し、新幹線=安全を守り続ける

 東北・上越新幹線が2022年度に開業40年を迎えることから、現在は、新幹線設備の大規模改修を計画中だ。すでにレールに関しては、REXS(新幹線レール交換システム)などを用いて、1日最大1.4㎞ずつ交換を行っている。「新幹線の営業を続けながら、橋梁やトンネルなどの大規模補修を完了できるよう、スピーディーに修繕できる機械や工法の開発を進めています」(小田ユニットリーダー)
 また、19年には、新幹線線路設備モニタリング装置を搭載した専用保守用車「SMART-i」を試験的に導入した。複数のカメラやレーザーセンサーなどを用いて、映像で、レール締結装置などの材料の異常有無や、線路のゆがみを測定でき、さらに精緻に検知できるという。

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新幹線レール交換システム「REXS」を用いたレール運搬の模様(左)
新幹線線路設備モニタリング装置を搭載した専用保守用車「SMART-i」(右)

 「今後、北海道や北陸方面に、新幹線のネットワークがさらに広がる中、これまで以上にお客さまにご利用いただくには、『新幹線=安全』というイメージを守り続けることが重要です。そのために一切トラブルを起こさないことがわれわれの使命。スムーズに走って当たり前の状態をつくるために、当たり前のことを愚直にやり続けます」と南木氏。こうした技術者たちにより、新幹線の線路は守られている。

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