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リアル店舗とネットの新しい関係(後編)

旗艦店「アットコスメ トーキョー(@cosme TOKYO)」の店内

リアル店舗とネットの新しい関係(後編)

リアルでモノを確かめて店舗で直接購入するスタイルから、インターネットの普及で、接客・購入までを一貫してオンラインで行う購買スタイルが定着しつつある。その一方で、ネットで注文し、リアル店舗で受け取るなど、リアルとネットを融合した新しい購買スタイルも次々と生まれてきた。顧客満足度を落とさず、効率的・効果的に販売を行うにはどうすればよいのか。リアルとネットの新しい関係を築こうと取り組む事例を紹介する。

case1 株式会社アイスタイル

ポータルサイトから始まりeコマース&実店舗に事業拡大

 日本最大級の美容系総合サイト「アットコスメ(@cosme)」を運営する株式会社アイスタイル。eコマースサイトやリアル店舗を組み合わせて、リアルとネットを融合したサービスを提供することで成長を遂げてきた。「リアルとネットの境目をなくす」とさらに進化を遂げようとしている。

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 「生活者の声が集まり共有されれば、広告宣伝費にお金をかけた商品ではなく、本当に生活者から支持される商品が売れるようになり、生活者主体の市場ができる」
 そんな理念を実現すべく、1999年に設立されたアイスタイル。コスメ情報のメディア「アットコスメ(@cosme)」から始まり、2002年に化粧品のeコマースサイトを立ち上げた。07年には実店舗もオープン。メディア、eコマースサイト、実店舗のいずれも業界屈指の規模に成長した。
 支持されたのは、リアルとネットをうまく組み合わせることで、「自分に合った化粧品をあれこれ試して買いたい」というお客さまのニーズに応えたからだ。
 メディアの「アットコスメ」には、現在3万9千ブランド・34万商品の口コミ情報が1580万件も掲載されている。ユーザーが知りたい化粧品の情報はほぼ手に入るといってよい。アイスタイルから見れば、どんな商品が売れるか、データ収集ができる。

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スマートフォンからいつでもバーチャル空間上の「アットコスメ トーキョー(@cosme TOKYO)」に来店し、商品を購入できるサービス「@cosme TOKYO-virtual store-」も提供している

 その口コミ評価の高い商品を中心に取りそろえたのが、eコマースサイト「アットコスメショッピング」と実店舗の「アットコスメストア」だ。「プチプラ」と呼ばれる低価格商品から無名ブランド、高級ブランドまで、多様な商品がそろっている。
 現在はeコマースよりも実店舗のほうが売上が多い。「化粧品は商品を試してみたい、自分の肌に合うか相談したいというニーズがあります。だから、リアル店舗が非常に重要です」と説明するのは、株式会社アイスタイルRXセグメントセグメント長の遠藤宗氏だ。
 全国24カ所にある実店舗で働く美容部員は、プチプラから高級ブランドまで幅広い商品知識を身につける研修を受けており、ブランド横断で相談に乗ってもらえる。美容部員は個人ノルマを持っておらず、高額商品を販売する傾向もない。お客さまは純粋に化粧品のショッピングを楽しめるわけだ。
 「根本にあるのは『生活者主体の市場をつくる』こと。だから、買ってもらわなくてもよいので、気になったら気軽に来てもらえるお店にしようと意識しています。そうすれば、お客さまの数が増えます。あとは商品に出会える仕掛けをすることで、売りに徹せずとも売上は上がると考えています」(遠藤氏)

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遠藤 宗氏
株式会社アイスタイル RXセグメント セグメント長

リアルとネットの体験をシームレスにするには?

 アイスタイルでは、情報サイト・eコマース・実店舗の3つを一体と考え、「ビューティープラットフォーム」と呼んでいる。近年、力を入れているのは「リアルとネットの体験をシームレスにすること」だ。
 同社では、8年前から、eコマースサイトと実店舗の顧客管理を一元化し、一つのIDで管理している。その顧客IDにアクセスすれば、eコマースや店舗での購買履歴やカウンセリング履歴がすべて分かる。
 「一元化したことで、『実店舗に来店されたお客さまに、eコマースサイトや他の店舗で購入した化粧品の履歴も考慮しながら、メイクアップのカウンセリングをする』などができるようになりました。リアルとネットを合わせてバランスのよい提案ができるわけです」(遠藤氏)
 一方、実店舗でしか受けられなかったサービスを、ネット上でも受けられるようにした。その中心が、20年に原宿にオープンした旗艦店「アットコスメトーキョー」だ。ここで行っている新サービスが「お買い物コンシェルジュ」。店舗にいる美容部員と1対1のオンラインで、店舗の商品を見せてもらいながら、買い物の相談が30分間できる。相談自体は無料だ。15分間の無料オンラインカウンセリングもある。

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メディア(情報サイト)、eコマース、実店舗の3つを一体と考え、「ビューティープラットフォーム」として事業を構築している。

 「通信終了後に紹介した商品情報のURLをメールで送りますが、必ずしも買う必要はありません。目先で見れば単なるサービスで終わってしまうかもしれませんが、長期的に見て、また利用してもらえるサポートができていればOKです」(遠藤氏)
 また、美容部員が実店舗で紹介しているプロのノウハウをもっと活用しようと、店内のスタジオで動画を撮影し、ネット上で配信している。
 「SNSなどでは個人の発信も目立ちますが、これからは信頼度の高いプロのアドバイスも効果的に届けていきたいと考えています。今後は、当社の強みである美容部員の存在がさらに重要になります」(遠藤氏)
 さらに、実店舗も増やしていくという。
 「eコマースを利用されているお客さまを、リアルでフォローする場所も必要だと考えています」(遠藤氏)
 ネットだけでなくリアルも整えていくことが、ビューティープラットフォームの最適化には欠かせないようだ。


case2 株式会社ルミネ

いつでもどこでもルミネカードで買える

 ルミネが2020年12月に始めた「ルミネカードWEB決済サービス」が、好評を博している。当初立てた年間売上目標を4カ月間で早々と達成したという。「オンラインとリアルを融合したサービス」というが、一体どのようなサービスなのだろうか。

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 「ルミネカードWEB決済サービス」とは、ルミネの対象ショップの店頭で取り扱っている商品が、いつでもどこでもルミネカードで決済できるサービスで、例えば、次のようなシチュエーションでの利用が想定されている。

・馴染みのショップスタッフが、インスタライブなどのSNSで紹介している商品を買いたい。
・ショップでは迷って買わなかったが、帰宅してから買いたくなった。
・ネットで見たブランドの商品を、割引が受けられるルミネカードを使って買いたい。

 こうしたとき、お客さまはショップに連絡すれば、商品をルミネカードで購入できる。連絡方法は、電話、メール、LINE、インスタグラムのDMなど。購入の意思を伝えると、ショップからメールなどで決済URLが送られてくるので、そのURLにアクセスして、決済をカードで行う。

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 このサービスを利用する大きなメリットは、ルミネカードの場合、店頭やネット通販「アイルミネ」と同様に5%の割引が受けられること。加えて、ショップポイントがたまるブランドもある。お客さまとすれば他のeコマースモールなどで買うより得だ。また、購入総額が1ショップ3000円以上になれば、1都8県への送料が無料になる。

「決済手段がない」ショップの悩みを解消

 2020年12月にこのサービスを始めたきっかけは、新型コロナウイルス感染症拡大により、お客さまが来店できなくなったことだ。緊急事態宣言中は休館しており、解除後も感染を防ぐために、来店を自粛するお客さまが多かった。
 何かできることはないか。そこで各ショップにヒアリングをしたところ、「決済に困っている」という声が上がってきた。

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ルミネカードWEB決済サービスはWEBやポスターの他、名刺大のカードをショップで手渡しするなどして広めていった

 「少しでも売上をあげるために、ショップのスタッフは、インスタやZoomなどを使って、お客さまに新商品の情報を発信していました。ただネックになっていたのが、お客さまが商品購入を希望したとき、決済が銀行振込などの面倒な手段しかないこと。これではせっかくのチャンスを逃すこともあります。そこでルミネカードで決済できる仕組みをつくったのです」
 株式会社ルミネの敦賀一裕常務取締役デジタルトランスフォーメーション推進部長は、サービス開始の経緯を語る。

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敦賀 一裕氏
株式会社ルミネ 常務取締役
デジタルトランスフォーメーション推進部長

 「ルミネはもともと『アイルミネ』というネット通販サイトを展開しています。そこに誘導して購入してもらう手も考えられますが、ショップスタッフの売上にならないので、モチベーションが下がります。大切なのはお客さまとショップとの関係をつなぎ続けることだと考え、WEB決済の導入を進めました」

売上の2割がWEB決済のショップも

 サービスを開始すると、予想以上の利用があった。年間売上目標を4カ月間で達成。すでに売上の1~2割が、同サービス経由となったショップもあるという。
 「『東京出張がなくなり、ルミネに来られない常連のお客さまが、スタッフに商品をLINEで紹介してもらい、WEB決済』『新作発売日に来店できないので、取り置きしてもらい、WEB決済』など、さまざまな使い方が出てきているようです」と、最初にサービスを導入したルミネ新宿の弘中謙二郎新宿店営業部マネージャーは、手応えを口にする。

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弘中 謙二郎氏
株式会社ルミネ 新宿店 営業部 マネージャー

 ルミネ新宿を皮切りにニュウマン新宿、ニュウマン横浜に導入したが、好評を受け、今後はルミネの他店にも広げる。6月に池袋店、有楽町店で導入済で、8月に立川店、横浜店、9月に町田店で開始する予定だ。
 同社では、他にも、オンラインとリアルを融合したサービスを行っている。「ルミネ・ニュウマン店舗受取サービス」は、アイルミネで購入した商品をお客様が選択するルミネ・ニュウマンのいずれか(ルミネ・ニュウマン全15館のうち9館でサービス展開中)の店舗で受け取れるサービス。通勤通学の途中で受け取れ、不在で再配達をしてもらう必要がなくなる。また「店頭取り置きサービス」は、アイルミネで気になった商品を取り扱い店舗に取り置きしてもらい、店頭で試着できるサービスだ。

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ルミネカードWEB決済サービスの展開を受け、ショップはインスタライブを開催するなど活用している

 「アフターコロナになっても、お客さまはリアルとオンラインをうまく併用していくでしょう。そのニーズに合うよう、双方を融合したサービスを用意すれば、お客さまはそれらを使い分けてルミネを利用してくださる。その上で、リアルとオンラインで体験価値をご提供できれば、売上を維持できると考えています」と敦賀常務は未来を見据える。


case3 大日本印刷株式会社

未来の書店や読書体験をミラーワールドで実現する

2021年3月、池袋ミラーワールド内にオープンした「バーチャルジュンク堂書店 池袋本店」。全国的に書店が減少するなかで、どこにいてもリアル書店のような本との出会いができる企画として、業界内外から注目されている。プロジェクトを推進する大日本印刷株式会社に、そのきっかけ、今後の展開を伺った。

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 2021年3月に池袋ミラーワールド内にオープンした、大日本印刷株式会社(以下、DNP)の「バーチャルジュンク堂書店 池袋本店」。バーチャルな店舗空間に足を踏み入れると、巨人の足音のような効果音が響き渡り、コミック本の表紙やコマ割りのパネルが飾られている──講談社の大人気コミック「進撃の巨人」の最終巻発売に合わせて、6月9日から1カ月間展開されたフェアの様子だ。さらに店の奥に進むと、常設展示として文芸や美容、ビジネスなどのベストセラーが紹介されている。そして、これらの中の気になる本をクリックすると、本の通販ストア・電子書籍ストアであるハイブリッド型総合書店「honto」で詳細が分かる。

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「進撃の巨人」最終巻発売に合わせて開催されたフェアでの展示

 池袋ミラーワールドは、テレビ東京が主幹事となって立ち上げたもので、バーチャルとリアルを行き来することで、利用者に新しい体験を提供することを目的としており、豊島区も後援している。池袋駅やサンシャイン60、西武池袋本店など、実際に池袋にある施設が集結。DNPは、グループであるジュンク堂書店 池袋本店をバーチャル化し、池袋ミラーワールドに構築。本というコンテンツと書店というメディアの新たな価値の提供に取り組んでいる。
 参画した背景にあるのは、コロナ禍で出版業界を取り巻く環境や人々の生活様式、意識の変化がより加速したことにある。同社は、1876(明治9)年に創業。以来、出版事業を通じて広く知識を伝える社会的責任を果たしてきた。
 「今、出版市場ではコンテンツの新たな売り方、売り先、売りモノの創出が喫緊の課題です。生活者一人ひとりに、最適なカタチやタイミングで最適な情報、体験としてコンテンツを提供することが求められています」と、DNP出版イノベーション事業部企画設計室の野田万利子室長は話す。同事業部では、変わりゆく社会に対応した新しい価値を生活者に提供することで、出版文化の継続的な発展に貢献すべく、書籍や雑誌、教育分野でのDXを推進している。

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野田 万利子氏
大日本印刷株式会社 出版イノベーション事業部
CLMビジネスセンター ビジネスデザイン本部 企画設計室 室長

 さらに、同社では「XRコミュニケーション事業」として、リアルとバーチャルを融合したまちづくりや、コミュニケーションの開発にも取り組んでいる。これらのノウハウを活かし、生活者が満足する体験価値を提供する、新しい書店の形や読書体験をいかに生み出すか。「バーチャルジュンク堂書店 池袋本店」の取り組みには、大きな期待が寄せられている。

テーマパークのようなバーチャル書店の可能性

 「単に本を買えるだけではワクワクしないと思うので、バーチャルならではの、新しい本の楽しみ方やお買い物体験を提供したいというのが根底にあります。動きや音をつけた演出、アバターを介した一体感といったバーチャル空間を活かした体験を通じて、作品の世界に入り込み、好きな作品について語り合ったり、本を通じたコミュニケーションが生まれればと考えています」
 オープン後は、バーチャルの特性を活かしたさまざまなイベントを催している。
 短編アニメ「青い羽みつけた!」とのコラボレーションでは、人気声優の杉田智和さんの録りおろし音声にナビゲートされながら、書店空間内で青い羽の持ち主を探すイベントを開催した。「日比谷音楽祭2021」とのコラボレーションでは、音楽をテーマにした選書フェアを、オンラインとリアルの双方で展開。冒頭で紹介した「進撃の巨人フェア」も、リアル店舗と連動してフェアが行われた。

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4月末には短編アニメ「青い羽みつけた!」とのコラボレーションフェアが開催された

 池袋ミラーワールドでは参画企業同士のコラボも進められており、取材時点ではサンシャイン水族館と行うフェアも進めているとのことだった。
 野田室長はバーチャル書店の未来像として、「訪れるだけで楽しいテーマパークのような書店をつくりたい」と考えている。
 そこではアトラクションやパレード、ライブなどがあり、オリジナルグッズが買える。店舗のマスコットキャラクターがバーチャル書店員となって接客し、本の詳しい情報を教えてくれたりもする。
 「さまざまな構想がありますが、DNPでは『バーチャル接客サービス』を提供しているので、実現は近いかもしれません。バーチャルならではの体験ができる店舗をつくれば、普段、リアルの書店を利用されない方にも来ていただけて、お客さまの層を広げられるのではないか。その結果、実際にリアルの池袋にも足を運んでいただける相乗効果も期待しています。書店に足を運んでくださる方も、そうでない方にも楽しんでいただける、訪れるだけで楽しい書店をつくりたいです」

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