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デジタル×リアルの融合<br>「旅」のこれから

TRAIN SUITE 四季島

デジタル×リアルの融合
「旅」のこれから

コロナ禍、デジタル化の進展で旅のかたちが大きな転換期を迎える中で、今後、どのようなサービスや取り組みが展開されようとしているのか。JR東日本、東北の観光活性化のために官民で設立された一般社団法人東北観光推進機構に、それぞれ話を聞いた。

case1 JR東日本

デジタルとリアルの融合を図りながらお客さまに意味や価値を感じてもらえる旅を提供したい

 JR東日本が旅行事業に本格参入したのは、1987年の民営化直後のことだ。JR東日本鉄道事業本部営業部観光戦略室の渡辺厚室長は、「会社発足時から当社には、旅行事業者として3つの強みがあった」と話す。
 1つ目は、大消費地である首都圏という市場を持っていること。しかも駅や列車という強力なタッチポイントを有しており、駅貼りポスターや電車内広告を通して、自社商品の魅力を首都圏の消費者に訴求することができた。さらに駅構内で旅行商品を販売する「びゅうプラザ」を運営できたことは、鉄道会社ならではの強みといえた。
 2つ目は、首都圏だけでなくJR東日本エリアの各地に支社・駅があり、昔から地域と深いつながりを築き、地域の観光開発を行ってきたことだ。この強みがあったからこそ、デスティネーションキャンペーンのように、地域が地元の魅力を自ら掘り起こして磨き上げ、魅力的な商品として提案することが可能になった。
 「地域には、全国的にはあまり知られていなくても、地元の方ならば誰でも知っている観光地や特産品があるものです。当社では、地域の皆さまと協力して、そうした観光資源に光を当て、新たな観光の流動を創ってきました」

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利用時期によって旅行代金が変動する「JR東日本ダイナミックレールパック」では、利用者の旅行スタイルに合わせて、往復のJRと宿泊施設を自由に組み合わせることができる

 そして3つ目は、発地と到着地を結ぶ新幹線をはじめとした鉄道網を有していること。この強みを活かして生まれたのが、びゅう旅行商品であり、さらにウェブ上でJR東日本エリアの新幹線・特急列車と宿泊施設を組み合わせた価格変動型の旅行商品「ダイナミックレールパック」へと姿を変えてきた。また2017年からは「TRAIN SUITE 四季島」の運行を開始。東日本の奥深い魅力を鉄道ならではの特別な体験と発見を通じて感じていただく上質な旅として、好評を博している。

旅行者と地域を結んで関係人口の増加を図る

 こうした旅行事業における地域とのつながりやJR東日本の強みは、現在も基本的には変わっていない。ただし渡辺室長は、デジタル化が進展する中で、これまでのやり方では従来のようにお客さまに自社の商品を選んでもらうことが難しくなってきたという。
 「人々の情報収集の手段は、圧倒的にスマートフォンなどのデジタルツールが中心になりました。あふれんばかりの情報の渦の中で、旅に目を向けてもらい、さらに『旅に行くならば、列車に乗ってあの土地を訪れたい』と感じていただくためには、お客さまに、実際に訪れる意義や価値を感じてもらえる旅の提案をいかにできるかが、これまで以上に重要になってきます」
 また、旅行商品やきっぷの購入も、旅行会社や駅の窓口ではなく、ウェブで行う人が増えてきた。ただし、人々が旅に求めているのは、リアルな出会いや、ふれあいである。デジタルとリアルの融合も、今後、より重要になってくる。

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支払方法がクレジットカード以外も可能となった他、簡単に予約できる画面表示になるなど、利便性が高くなった

 JR東日本ではこの6月に、きっぷの申し込みが行えるウェブサービス「えきねっと」をより利便性の高いものへと大幅にリニューアルした。また、スマートフォンひとつで安心・快適な旅をサポートする観光型MaaSの展開を進め、シームレスな移動を実現することで、訪れやすい地域づくりを目指している。一方で、現在、駅構内にある「びゅうプラザ」を「駅たびコンシェルジュ」に転換中である。これまで「びゅうプラザ」が担ってきた個人型パッケージツアーの販売は、ウェブ販売に移行。「駅たびコンシェルジュ」は、旅行前や旅行中のお客さまの旅に関するさまざまな相談に、時間をかけて丁寧に応える場となる。こうしてデジタル対応の強化を図るとともに、リアルな場での顧客との接点の充実にも力を注いでいる。

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渡辺 厚
JR東日本 鉄道事業本部 営業部 観光戦略室 室長

 「今後はJRE POINTやSuicaのデータ等を活用したデジタルマーケティングにも力を入れることで、データ分析による最適な旅行プランをお客さまに合わせて提案することも実現したいと考えています」
 デジタルは、旅行者と地域とのつながりをより強めるツールであり、JR東日本グループのさまざまなサービスが、双方をつなげる可能性を秘めていると渡辺室長は語る。
 「例えば、旅先から戻ってきたお客さまに対して、オンラインで地域の方と交流する機会を設けることで、『あの旅は楽しかったな。またあの地域を訪れてみたいな』と思っていただければ、リピーターの増加につながっていきます。お客さまが観光地を一度旅行して終わりではなく、その地域のことを常に気にかけ、何度も訪れてくれるようになることで関係人口を増やしていくことも、これからの時代の私たちの大切な役割だと考えています」


case2 一般社団法人東北観光推進機構

日本の原風景ともいえる「そのままの東北」の姿を訪れる人が楽しめる環境を整える

 一般社団法人東北観光推進機構(以下、東観推)は、東北6県と新潟県および仙台市、地元経済界が連携して、国内外からの観光客を誘致し、東北の観光産業の振興を図ることを目的に、2007年に設立された組織だ。
 その取り組みとして、16年に東北と新潟の7県の知事や副知事、仙台市長が台湾を訪れ、トップセールスを行った。これを契機に台湾から多くの人が東北・新潟を訪れるようになった。その後もトップセールスは香港、大連やバンコクなどで実施され、現地から東北・新潟の都市への直行便の就航を実現させるなどの成果を得た。
 一方、東観推では、東北を訪れてくれた方に満足度の高い旅を提供するために、観光コンテンツを磨き上げることにも力を注いだ。推進本部本部長代理の奥村聡子氏は、「特に意識したのは、点在している観光地を線や面にしていくことだった」と語る。

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奥村 聡子氏
一般社団法人東北観光推進機構 推進本部 本部長代理

 「北東北を代表する縄文時代の遺跡といえば、三内丸山遺跡が有名ですが、域内には他にも縄文遺跡が数多くあります。ところが、ほとんどの観光客は、三内丸山遺跡を見るだけで終わっていました。そこで各地に点在している縄文遺跡を、1つの大きなまとまりとして紹介することで訴求力を高めました。古代の歴史に興味のある方が、東北広域を旅してくれるようになりました」
 21年5月には、「北海道・北東北の縄文遺跡群」が世界文化遺産に登録される見通しであることが報道された。今後はさらに、遺跡を目当てに東北を周遊する旅行者が増えることが期待される。

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東北には青森の三内丸山遺跡のほか、秋田の大湯環状列石など、数々の縄文時代の遺跡が点在する。それらの魅力を発信していくのも役割の一つという

いつも東北を支えてくれる東北ファンを増やしたい

 奥村氏は東北の観光推進に取り組むうちに、訪日外国人旅行客も国内旅行客も、東北に対しては「日本の原風景」を求めて訪れる人が多いことを実感するようになったという。例えば、三陸海岸沿いの自然歩道「みちのく潮風トレイル」は、変化に富んだ自然の風景とともに、地元の人々の暮らしぶりがわかることから、とりわけヨーロッパの旅行者から好評とのことだ。
 「彼らが求めているのは、観光地化されていない『そのままの東北』の姿です。旅の途中で出会った地元の方とのちょっとした会話が、すごく嬉しいようです。大切なのは、東北を観光地化することではなく、『そのままの東北』をいかに活かしていくかだと思っています」
 ただし、旅行者が「そのままの東北」を安心・安全に旅行してもらうための環境の整備は必要だ。
 例えば外国人旅行客にとっても、対応する地元の方にとっても、一番困るのは、言葉の壁によって意思疎通がままならないときがあることだ。そこで東観推では多言語コールセンターを設置。オペレーターが電話を介して、会話を通訳するサービスを実施している。

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岩手県浄土ヶ浜・「みちのく潮風トレイル」田老ルート

 また旅行客の多くは、「トリップアドバイザー」などの口コミ情報サイトを頼りに旅をしている。だが、そもそも事業者が当該サイトに登録していないと、旅行者は詳しい情報にアクセスできない。そこで東観推ではトリップアドバイザーと連携しながら、旅行関連の事業者に対して登録を働きかけているという。
 「東観推では、域内の観光コンテンツを一元的に情報発信するためのプラットフォームを構築するなど、コンテンツのデジタル化も推進してきました。今後は旅行者が『この体験メニューをやってみたい』と思うときに、スマホからすぐに予約して、その日のうちに体験できるようなサービスも提案するなど、さらに利便性を高めていきたいと考えています」
 もう1つ、奥村氏が今後力を入れていきたいと考えているのが、「東北ファン」を増やすことだ。東北の観光は、震災のときも、今回のコロナ禍においてもダメージを被ったが、そんな中でも常に変わらず東北を応援してくれる人の存在が支えになっているという。

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「東北歴史文化講座」セミナールームでの様子(左)と現地講座(右)

 東北ファンづくりの一環として位置づけられるのが、東北の歴史・文化に関する造詣が深い専門家が、さまざまなテーマで講義を行う「東北歴史文化講座」の開催だ。従来は1回の講座につき定員800人を上限にしていたが、コロナ禍の影響でオンライン講座に移行したことで、上限を設定する必要がなくなり、より多くの方に受講していただくことが可能になった。現在では、多いときの受講者数は3000人を超えるという。
 東観推では、こうした取り組みを通じて東北の良さを理解してくれるファンを増やし、東北観光を持続可能なものにしていきたいと考えている。


空間も楽しむ上質な旅 「TRAIN SUITE 四季島」

 「TRAIN SUITE 四季島」は、発着駅が同じクルーズトレインで、この列車に乗り込んだ瞬間から旅は始まる。
 シャンパンゴールドのモダンな車体デザイン。そして、上質なくつろぎの空間が広がる車内は、周遊する東日本各地の風土や歴史を映し出す工芸品によって彩られている。
 1・10号車「VIEW TERRACE きざし・いぶき」は展望車両となっており、大きな車窓からダイナミックな景色を楽しむことができる。
 6号車の「DINING しきしま」では、佐藤総料理長が作るフランス料理のコースをはじめ、巡る先々の名店の料理人が乗り込み、土地の風土と、その地で育まれる旬の食材を活かした料理が饗される。テーマは「記憶に残る料理」。刻々と表情を変える風景とともに、ここでしか味わえない時間を過ごせることだろう。
 エントランスとなる5号車「LOUNGE こもれび」は、穏やかな樹林をイメージさせる洗練されたラウンジ。乗客たちが集う空間では、ピアノの調べとともに、オリジナルカクテルなどのドリンクを楽しめる。

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「TRAIN SUITE 四季島」 四季島スイート(7号車)

 客室は全室スイートルーム以上。特に7号車には、「四季島スイート」「デラックススイート」が各1室用意され、その贅沢なつくりに目を見張る。両室に設置された特製の檜風呂が、旅の疲れを癒やしてくれる。
 「四季島スイート」はメゾネットタイプで、見晴らしのよい2階は掘りごたつ風のテーブルが置かれた和の空間。まさに、この列車でしか体験できない、特別な、心からくつろげる空気が流れる。
 「TRAIN SUITE 四季島」の旅のコンセプトは"深遊 探訪(しんゆう たんぼう)"。深く深く、その季節と場所を訪れ、そこで出会う時どきのうつろいを、愛でる。そんな旅の醍醐味を感じたい人に、今までにない体験と発見をもたらすこと。
 目的地を訪れ観光する──そうした旅のあり方は、もはや旅のかたちの一つに過ぎなくなった。

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