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観光マーケティングで<br>多様化する旅のニーズを捉える<br>「旅」のこれから

観光マーケティングで
多様化する旅のニーズを捉える
「旅」のこれから

多くの人が気軽に旅をする社会が実現したことによって、人々が旅に求めるニーズも大きく変化しており、旅行業界も変化への対応を求められてきた。今起きている変化はどのようなものか。これからの旅の姿や、旅行業界の役割はどう変わっていくのか。観光マーケティングの専門家である立教大学の東徹教授に話を伺った。

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東 徹 あずま・とおる
立教大学 観光学部教授
1962年岩手県生まれ。北海学園北見大学(現・北海商科大学)教授、日本大学商学部教授を経て、2010年から現職。総合観光学会副会長、日本フードサービス学会理事等を務めるほか、自治体の観光振興計画・ビジョンの策定にも参画。専攻は、商学・マーケティング。観光マーケティング(観光ビジネス、観光・地域振興)のほか、サービス・マーケティング、地域ブランドなどの研究に取り組む。『現代マーケティングの基礎知識』(共編著、創成社)をはじめ、著書(共著)・論文多数。

多様化する旅行者 変化するニーズ

 旅行が大衆化していく上で、旅行業が果たした役割は非常に大きいと思います。
 人々はレジャーとして旅行を楽しむことに高い関心を抱いていましたが、旅慣れていないがゆえに、自分で旅行プランを立てるスキルが伴っていませんでした。そういう多くの人たちにとって旅行会社は大変重宝な存在でした。カウンターで相談すれば、オススメの旅行プランや宿を懇切丁寧に案内してくれますし、いくつもの観光名所を周遊するための交通手段、宿、食事(アゴ・アシ・マクラ)があらかじめセットされた「既製品としての旅行」、つまりパッケージツアーを買いさえすれば、より手軽に旅行を楽しむことができます。添乗員がアテンドしてくれれば、旅先でも安心ですし、効率的に観光名所を回ることができるのも魅力的でした。旅行業というビジネスと交通機関の発達が旅行というレジャーの大衆化を促し、旅行市場を成長させていったのです。

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五能線

 しかしやがて旅行市場は成熟化し、人々の旅行ニーズは変化していきました。人々の旅行の経験値があがり、知識やスキルが高くなってくると、あらかじめ旅行会社が決めた旅程をなぞるような受け身の旅に物足りなさを感じるようになってきました。「どこへ行くか」だけでなく、「そこで何をするか」に関心が向くようになっていったのです。例えば、四国の観光名所を一通りなぞり、土産物店めぐりを繰り返すような旅よりも、「全国に12しかない現存天守のうち4つ(丸亀城、松山城、宇和島城、高知城)が残っている四国にせっかく来たのだから、もっとお城めぐりに時間をかけたい」というように、こだわりの旅を志向する人が増えてきました。
 また近年では、観光名所や観光客向けの店ではなく、「地域の生活のニオイを感じる観光」を求めて、地元の人が普段利用する市場や飲み屋を訪れ、なにげない路地裏を散策することを好む旅行者も出てきています。いわゆる「ご当地グルメ」や地域の普通の家に宿泊する民泊に対する関心が高まっているのもその表れでしょう。そうした旅に自由度や個性を求めるこだわり派の人は旅行会社に頼らず、自律的に旅を楽しもうとします。

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 一方、より手軽に旅行を楽しめるようになり、レジャーも多様化してくるにつれて、旅行の特別感が薄れてきたようにも感じられます。かつてのように、旅行が特別なイベントではなくなってきているのです。そのような中、旅行に行かないわけではないが、それほどの思い入れはなく、費用や面倒な手間をあまりかけたくない人たちも増えてきているように思います。彼らが求めるのは、できるだけ低価格でそこそこ旅の楽しみを味わえるような旅行商品でしょう。
 このように、かつて旅行業の成長期を支えていた顧客層から、こだわりの旅を求める顧客や旅行にあまり思い入れのない顧客が分化していったのです。

拡がる旅行のカタチと観光の可能性

 旅行市場が成熟化するにつれ、旅行会社は、多くの人が安く手軽に旅行に行けるような旅行商品だけでなく、新たな価値を創造し提供するために、さまざまな工夫を凝らした旅行商品を手掛けるようになっています。
 地域とコラボして、地元ならではの魅力を深掘りした企画や、写真撮影やスケッチなど趣味の旅、城めぐりなど特定のテーマをもった旅......等々、さまざまな旅行商品が登場しています。例えば、俳句の先生と一緒に松尾芭蕉の『おくの細道』の足跡をたどる旅や、東海道や中山道といった旧街道を何回かに分けて踏破するプランなど、興味がある人にとっては心動かさずにはいられない旅行商品が企画されています。

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中山道 下諏訪宿 本陣 岩波家

 また「TRAIN SUITE 四季島」や「ななつ星in九州」などのクルーズトレインの登場は、観光と交通の関係を大きく変える出来事だったと思います。これまで列車は目的地に行くための手段と捉えられていました。だからこそ、JRは観光キャンペーンを行い、旅行の目的を創造することで手段としての列車の需要を喚起しようとしてきたのです。ところが「TRAIN SUITE 四季島」や「ななつ星in九州」は、列車に乗ること自体も目的です。東北各地を旅したり、九州をめぐる経験に加えて、クルーズトレインに乗り、贅沢で特別な旅を味わいたいのです。
 インターネットの発達も旅行業界を大きく変えようとしています。OTA(Online Travel Agent)と呼ばれる旅行会社の利用が増加し、業界における存在感を増しています。オンライン上で、航空便や宿、レンタカーなどを自由に組み合わせるダイナミックパッケージが登場し利用者も増えています。オンラインならではの企画もあります。例えばユーザーの中から「ラクダに乗って砂漠を旅したい」といった声が出てきて、それに賛同する人たちが一定程度集まれば、ユーザーの声をもとにした旅行商品を造成することができます。旅行者自身が、旅行商品の作り手になり得る状況が出現したのです。

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バーチャルツーリズムにより、直接旅行に行くことが難しい人も観光を楽しむことができる

 新たなテクノロジーが観光の新たなカタチを生み出す可能性も出てきています。例えばバーチャルツーリズム。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)など技術の発達によって、自宅に居ながらにして、旅行気分が味わえるようになるかもしれません。コロナ禍の中、オンラインで地域とつながる体験をした人もいるでしょう。今は物足りなさから、「かえって旅行に行きたくなった」という人も少なくないと思いますが、やがて技術が進歩すれば、それを観光と呼ぶ時代が来るかもしれません。そうなれば、障がいのある方や要介護の方のように、直接現地を訪れることが難しい人も観光(地域の光を観る)を楽しむことができる可能性がでてきます。
 旅行業と交通機関の発達はマス・ツーリズム(大衆観光)を実現させましたが、今度は情報通信技術や映像技術などテクノロジーの発達がユニバーサル・ツーリズム(あらゆる人が楽しめる観光)に向けて観光の可能性をさらに拡げていくのかもしれません。

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