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JRフルーツパーク仙台あらはま<br>復興と農業力、底上げの両立を目指す<br>「食」から始める地方創生(case3)

JRフルーツパーク仙台あらはま
復興と農業力、底上げの両立を目指す
「食」から始める地方創生(case3)

2021年3月18日、宮城県仙台市若林区荒浜に体験型観光農園「JRフルーツパーク仙台あらはま」が開業した。同地区は東日本大震災で大きな被害を受けた地域。運営する仙台ターミナルビル株式会社に同農園の目指すところを聞いた。

 仙台ターミナルビル株式会社は、東北地方でショッピング事業やホテル事業などを手掛けるJR東日本グループの会社だ。同社では今年3月、仙台市荒浜地区に体験型観光農園「JRフルーツパーク仙台あらはま」をオープンさせた。

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「JRフルーツパーク仙台あらはま」では、2021年はいちご、ブルーベリー、22年からはブドウ、リンゴ、ナシ、イチジク、キウイ、スグリといった8品目156品種の摘み取り体験が季節に合わせて楽しめる

 この農園の特徴は、東北地方最大規模の約11haの敷地内で、いちごやブルーベリー、ナシ、リンゴなど8品目156品種もの果物を栽培。1年中果物狩りが楽しめるというものだ。また「フルーツステーション」と名付けた建物の中には、地元の生産者の野菜が購入できる直売所や、ホテルメトロポリタン仙台のシェフがメニューを監修するカフェ・レストラン、自分が摘み取った果物を加工品にできる加工体験室を開設。さらに果樹栽培に関する研修棟も備えている。フルーツステーションの設楽真美店長は、次のように語る。

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設楽 真美
フルーツステーション店長

 「農園では果物の摘み取り体験だけでなく、栽培担当者から果物の特徴や栽培法についての説明も受けられます。楽しみながら学ぶことができるので、特にお子さま連れのファミリー層の方にはオススメの施設です。学校の課外活動にも活用してほしいですね」

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フルーツステーションで売られている「エスポワールコンフィチュール」は、地元で育てられた果実・野菜を100%使用している

果樹を切り口に地域の農業力の底上げを図る

 では、なぜ同社は、まったくの異業種から農業、中でも果樹栽培に参入したのだろうか。同社の観光農業部長で、荒浜事業所長も務める渡部善久上席執行役員は「当社としてやるべき地域貢献を考えたときに、浮かんできたのが果樹栽培だった」と語る。
 周知の通り、日本の食料自給率は年々低下しており、農業振興は今後重要な地域貢献のテーマになり得る。とりわけ同社が拠点としている宮城県では、県産の果実の自給率が10%を切っており、極めて低い状況だ。また農業技術者も水稲や野菜が中心で、果樹の専門家はほとんどいないという。

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渡部 善久
仙台ターミナルビル株式会社 上席執行役員 観光農業部長

 「そんな中で当社が11haの農園を開園するだけで、自給率は数%上がります。また農園の運営にあたって専門家を招き、スタッフに教育を行うことによって、果樹栽培に関する最先端の知識やスキルを身に付けた人材が、自然と増えていくことになります。彼らがいずれは指導者になっていけば、地域全体の果樹栽培のレベルアップを図ることができます」(渡部上席執行役員)
 同社は今回のオープンに先立ち、農学のノウハウを獲得すべく、2016年に「せんだい農業園芸センター(みどりの杜)」を開業していた。現在、同センターでは、農業従事者や起農希望者を対象に果樹栽培研修や複合経営研修を開催。既に水稲や野菜などを手掛けている生産者も、空き時間や土地を活用して果樹栽培に取り組めば、所得向上の道も開けてくる。複合経営研修は、そのノウハウを伝えるための研修だ。
 こうして同社は、果樹を切り口に、地域全体の農業力の底上げを図ろうとしているのだ。

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 もちろん、果樹栽培においては新興勢力である宮城県が、知名度の高いブランドを持つ他県に肩を並べるのは容易なことではない。同社では、農園で収穫された果物のうちの2割程度を、地元や首都圏で販売する予定だが、そこではブランド力のある他県の果物との競争が待ち受けている。
 「私どもが進めるジョイント栽培は最先端の栽培技術で、効率的に果物を生産できることから多くの収量が見込め、結果として従来よりも価格を下げることができます。『宮城県の果物っておいしいし、値段も手頃でいいね』と言っていただけるのが目標です」(渡部上席執行役員)

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複数の幹を接ぎ木でつなぐジョイント栽培が行われている

 同社ではこの観光農園の運営を通じて、もう一つ目指していることがある。農園をオープンさせた荒浜地区は、仙台平野の沿岸部にあり、東日本大震災のときには津波に襲われた。住民は自宅を流され、移転を余儀なくされた。農園はその跡地にできている。
 そのため、農園施設の建設にあたっては、かつての生活道路や区画をできるだけ残すようにした。旧住民の方が農園を訪ねたときに、「私たちの家はここだったよね」と分かるようにするためだ。
 「津波の被害に遭った仙台市の沿岸部では、当社の他にも、温泉施設やパークゴルフ場など、さまざまな施設が造られようとしています。他の事業者とも連携し、地域の再生に貢献できればと考えています」(渡部上席執行役員)

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