JR東日本:and E

笠間の栗ブランド化の意義<br>「食」から始める地方創生(case1)

茨城県の栗の栽培面積および生産量は全国一。その茨城県の中でも笠間市は県内一の栽培面積を誇り、質の高い栗が生産されている

笠間の栗ブランド化の意義
「食」から始める地方創生(case1)

JR東日本は、地域とのつながりを活かし、「食」を視点とした地域活性化にも取り組んでいる。その狙い、現在の動きについて、JR東日本事業創造本部に話を聞いた。

 JR東日本では2009年より、地域再発見プロジェクトを展開している。これはJR東日本グループと地域が、その地域を活性化するための方策について、共に知恵を絞るという「共創戦略」のことをいう。具体的には、地域の農林水産業者と連携して地元の魅力ある素材を掘り起こし(1次産業)、優れた加工技術など(2次産業)と組み合わせ、お客さま視点を踏まえた商品開発と販売(3次産業)によって、その地域で新たな産業や雇用、マーケットを生み出していく、といった地方創生の取り組みである。
 「東日本エリアに広く鉄道網を張り巡らせる当社にとって、地方が元気なこと、それが共生のための重要課題となります。私たちが持っている鉄道ネットワークや首都圏での販路、ショッピングセンター事業などで得た知見を、地方の創生に活かしていきたいと考えています」
 事業創造本部新事業・地域活性化部門地域活性化グループの大谷秀美さんは語る。

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大谷 秀美
JR東日本 事業創造本部 新事業・地域活性化部門 地域活性化グループ

 現在、進行しているプロジェクトの一つに、茨城県笠間市の栗のブランド化事業がある。笠間市は、市町村別の栗の栽培面積は全国1位だが、知名度では長野県の小布施の栗に遅れを取っている。また近年は生産者の高齢化が進み、担い手不足も課題になっている。
 そこで20年8月、JR東日本水戸支社と笠間市、JA常陸が協定を締結。三者の共同出資により法人を設立し、生産者から集荷した栗をペーストや甘露煮、渋皮煮などに加工する工場を建設することにした。工場の稼働は、22年秋を予定している。

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笠間市と協力し、JR東日本グループ各社と連携したプロモーションを展開。どら焼き専門店 志ち乃の「マロンムース」(左)や、洋風笠間菓子 グリュイエールの「おちぼ栗」(右)など、笠間の栗の魅力を伝える商品をグループの店舗で販売している

栗のブランド化によって笠間エリアを盛り上げたい

 この事業で目指しているのは、笠間の栗をブランド化しつつ、市場には適正価格で商品が流通する状況をつくることだ。既存の栗農家の収入増につなげるとともに、栗の生産・加工・販売事業への新たな参入者も出てくることが期待できるので、地域全体の活性化に貢献することが可能になる。
 JR東日本では、青森のリンゴでも同様の取り組みを行ってきた。生産者にとっては単価が安く薄利な加工用リンゴを用いて、高付加価値商品であるシードルの製造を提案。青森駅前に建設した「A-FACTORY」というシードル工房併設の商業施設を立ち上げ、販売も開始したところ、これが話題となり、多くの人が立ち寄るスポットになった。
 この事業展開を見て、青森県内では新たにシードル造りにチャレンジする事業者も増えてきている。今では、青森県において、地域産業および「食」の観光コンテンツとして注目を浴びつつある。これと同様の状況を、笠間の栗においても実現することが目標だ。

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青森駅前の「A-FACTORY」(左)と、同所で製造・販売されている「AOMORI CIDRE」(右)

 「生栗としては規格外の栗でも、ペーストや甘露煮として加工すれば、価値を落とさずに市場に出すことができます。ペーストについては、既にJA常陸さんが別の工場で手掛けてきた実績があります。しかし業務用の甘露煮や渋皮煮は、われわれとしてはまったくの新しいチャレンジなので、茨城県の農産加工指導センターの指導を受けながら、早く品質の高い商品をお客さまに提供できる技術を習得したいと思っています」(大谷さん)
 一方で笠間の栗の認知度を高めるためのPR活動や、首都圏を中心とした販路の開拓も、JR東日本の大切な役割となる。17年秋から笠間市と連携し、グループのホテルや首都圏のエキナカ、列車内で、笠間の栗を使ったスイーツや駅弁などの期間限定メニューを継続的に展開。また、グループの商業施設に入っているテナント各社には、笠間の栗の売り込みも行っている。大谷さんは、取り組みを通じて、「こういう1次加工品が欲しい」といったさまざまな市場のニーズをつかむことで、商品開発に活かしていきたいと考えている。

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「笠間の栗」は、JR東日本水戸支社と笠間市が連携してPRに取り組んでいる。JR友部駅にも、そのための装飾が施されている

 「事業が軌道に乗るまでは、時間がかかることは覚悟しています。短期的な収益を目指すのではなく、地元の方々と信頼関係を構築しながら、息の長い事業にしていきたいですね」(大谷さん)
 次回公開のcase2・case3では、JR東日本グループの地域課題解決と地場産業の振興、他の地域での取り組みを紹介する。

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