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東北に生きる。<br>来訪神 優しき山の神

写真は、秋田市豊岩地区の「やまはげ」と呼ばれる来訪神。男鹿の「なまはげ」とは違い、般若を想起させる無着色の面が特徴。声を抑え、静かに鬼の形相でにらみ付ける様子から、なまはげを類型とする来訪神の中でも最も怖いといわれている。

東北に生きる。
来訪神 優しき山の神

土地に根づき、毎日を営む──。東北の文化を記憶する写真家、奥山淳志のフォトエッセー。

 冬の秋田は来訪神の季節でもある。「男鹿のなまはげ」が知名度としてはその代表だろうか。日本海に突き出した男鹿半島では、雪の山からの来訪神を迎え、もてなす伝統が受け継がれてきた。しかし、実は、こうした文化は男鹿地域に限定したものではない。その類型は秋田県外にも存在する。
 これらの来訪神行事で興味深いのは、神々の妙な人間臭さである。まさに鬼の形相で山から降りてくる彼らだが、家人より労いの言葉とともに酒や御馳走を振舞われようものなら相好(そうごう)を崩し、「ババ様、ずっとまめでけれや(いつまでも元気で暮らせや)」と上機嫌となる。最初の登場こそ荒ぶる神そのものではあるが、酔っ払って優しい声をかける姿は、いわゆる見た目は怖いけど実は良い人で、神と呼ぶには威厳がない。
 しかし、この恐ろしさと優しさの同居こそが、自然の化身である来訪神の本質でもある。東北の自然は厳しいが、そこに豊饒を宿す。ゆえに人も神もこの土地で生きてきた。来訪神の中に共存する厳しさと優しさは、東北の自然そのものなのだ。



奥山 淳志 おくやま・あつし
写真家
1972年大阪生まれ。出版社勤務後、98年に岩手県雫石町に移住。以降、写真家として活動を開始し、雑誌を中心に北東北の風土や文化を発表する。2015年の伊奈信男賞をはじめ、日本写真協会賞新人賞、写真の町東川賞特別作家賞などを受賞。主な著作に『庭とエスキース』(みすず書房)など。
https://atsushi-okuyama.com

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