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独自の魅力を持つ<br>「えちごトキめきリゾート 雪月花」開発ストーリー<br> 快適な移動空間と輸送サービス(中編)

独自の魅力を持つ
「えちごトキめきリゾート 雪月花」開発ストーリー
快適な移動空間と輸送サービス(中編)

イギリスのデザインアワード SBID国際デザイン賞公共デザイン部門最優秀賞(英国デザイン協会主催)をはじめ、国内外で数々のデザイン賞などを受賞した贅沢で快適なリゾートトレイン「雪月花」。そのコンセプト、こだわりとは──。

 近年、全国各地で登場しているリゾートトレイン。中でも、国内外で数々の賞を受賞し注目を集めたのが、2016年にお目見えした「えちごトキめきリゾート 雪月花」だ。運行するのは、新潟県上越市のえちごトキめき鉄道株式会社。JR信越本線と北陸本線の一部を経営分離し、15年に開業した第三セクター鉄道だ。日本海沿いを走る直江津~市振(いちぶり)の「日本海ひすいライン」、内陸を走る直江津~妙高高原の「妙高はねうまライン」の2路線を持つ。

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糸魚川駅に入線する「雪月花」

 「国内外から観光のお客さまを呼び込むために贅沢な観光列車を造ろうと考えましたが、他社と違う魅力を持たせたかった。そこで四季折々で豊かな表情を見せる上越地方の春夏秋冬を表現して、独自の魅力を打ち出そうと考えました。『雪月花』と名付けたのも四季を楽しんでほしいとの思いからです」
 そう開発の経緯を語ってくれたのは、同社の石黒孝良常務取締役経営企画部長だ。
 越後の魅力を味わってもらうために「ALL MADE IN 新潟」にもこだわった。インテリアの素材も、車内で提供する食事の材料も、新潟の名産品が総動員されている。こだわりを全て具現化するために、一から車両を新造した。地方鉄道のリゾートトレインとしては非常に珍しいという。
 「その分、コストはかかりましたが、当社が仮に赤字でも、沿線の皆さんが観光収入で潤えば、運行する意義がある。そう考えて、全体の計画を立案しました」

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石黒 孝良氏
えちごトキめき鉄道株式会社 常務取締役 経営企画部長

国内最大級のガラス窓を使用
グランクラスも意識

 車両は、フランス国有鉄道交通拠点整備研究所で働いた経験を持つ1級建築士の川西康之氏に、設計デザインを依頼。全国のリゾートトレインを研究し、他にない形を模索した。「JRさんにも実際に観光列車を見学させてもらいました」と石黒常務は振り返る。
 こうして生まれたのが2両編成の雪月花だ。特長は、側面から天井までカバーする巨大なガラス窓。法律で定められている最大限度の大きさのものを使用することで、これまでにない開放感を実現した。

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開放感あふれる巨大なガラス窓から、沿線の眺望を楽しめる

 列車両先端部にある展望ハイデッキはそのスペースだけ床が底上げされており、高い位置からパノラマビューを楽しめる。1号車のハイデッキは誰でも利用可能、2号車は予約制。両車共に食事を味わいながら豪華なひとときを堪能することができる。

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2号車先頭部の展望ハイデッキ(最大定員4名)。ダイナミックな展望が体験できる

 「乗車されたら、ぜひハイデッキから景色を眺めてみてください。車窓からの景色と相まった演出の妙を感じていただけると思います」
 デザインは車両ごとに変えている。1号車は「豊穣」をイメージした黄金色の明るい雰囲気。四季折々の表情を見せる妙高山や白い波の立つ日本海を眺められるよう、全座席が海側を向き、シートは幅も周りの空間もゆったりとしている。

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全て海側向きに座席が配置された1号車。大きな窓から展望できる風景は格別だ

 「シートは新幹線のグランクラスを意識。快適な時間を過ごしていただくには、ゆったりした空間が必要だと考えました」
 2号車はレストラン・カー形式の座席配置で、落ち着いた色合いの空間が広がる。バーカウンターがある「さくらラウンジ」では新潟の日本酒やワインを楽しめる。

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沿線にちなんだ桜と樺桜の木をふんだんに用い、床に敷かれた安田瓦が美しい「さくらラウンジ」(左)。丸い窓から中をのぞき込むと、オリジナルグッズ等の展示コーナーになっているなど、車内の至るところにデザイナーこだわりの意匠がちりばめられている(右)

 照明にもこだわっている。色温度や照度を自由に設定できるマルチ調光調節システムの採用により、日中と夕方で色温度と照度を自動制御している。特に、トンネルに入ると減光され、淡く優しい光が車内の表情を変える。

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照明はマルチ調光調節システムにより、色温度と照度が自動制御されている

 この豪華絢爛な車両が、オール新潟で造られている。車体製造は新潟トランシス株式会社が担当。調度品に使われている木材は「越後杉」や「ブナ」、ラウンジなどの床材には雪に強く滑りにくい阿賀野市名産の「安田瓦」、金属製品は「燕三条製」といった具合だ。
 完成後も、より快適な空間をつくろうと、微調整を繰り返している。例えば、1号車のテーブル上の照明は「視線に入るのが気になる」というお客さまの声をきっかけに少し低くした。「お客さまのご希望に応え、より良い空間をつくり上げたい」と石黒常務は意気込む。

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車内ではアテンダントが、「雪月花オリジナルグッズ」も販売

ハードとソフトの工夫が快適空間をつくり出す

 快適な空間をつくるには、ハード面だけでなくソフト面も重要だと石黒常務は言う。
 「一言でいえば、『おもてなし』。心通うおもてなしが、豪華列車に息を吹き込むのです」
 雪月花は、主に週末午前便と午後便の2本が運行されており、いずれも3時間ほどの行程の中で、食事を楽しめる。料理・サービスに関しては、古民家宿「里山十帖」をディレクションした岩佐十良氏にプロデュースを依頼。午前便ではミシュラン二つ星を獲得したレストラン「Ryuzu(リューズ)」のオーナーシェフで新潟県出身の飯塚隆太氏が監修したフレンチ、午後便では糸魚川の老舗割烹「鶴来家(つるぎや)」の五代目・青木孝夫氏が腕を振るう和食を味わえる。食材は肉・魚・野菜、いずれも新潟産だ。

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午後便の食事は、地域の旬の食材を使って、地元・糸魚川の老舗割烹「鶴来家」が技巧を凝らしたものだ(左)。午後便の和食のデザートと車内で供されるホットコーヒー。ホットコーヒーはまろやかな口当たりの「雪室珈琲雪月花オリジナルブレンド」(右)

 もてなすのは、専属車掌やアテンダントだけではない。直江津駅や妙高高原駅などでは駅長や駅員がホームで出迎え、発車時にも手を振って見送ってくれる。石黒常務は、「私はこの『お手振り』がおもてなしの原点だと考えています。ハード面も大切ですが、人同士の触れ合いこそが、心に残る思い出になるのです」と語る。

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直江津駅に列車が入ると、駅長と駅員がホームでお客さまを歓迎してくれる

 運転に対する気配りも行き届いている。雪月花の運行をつかさどる齋藤徹運輸部長(安全統括管理者)は「鉄道会社では定時運行の観点から、線路上のポイント(転てつ機)では減速しませんが、雪月花ではポイントで軌道が変わる際も、お飲み物がこぼれないように慎重に速度を調整しています。また、車窓からの眺めを楽しんでいただくために、車掌と打ち合わせを行い、アナウンスと合わせて減速も行っています」と話す。

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齋藤 徹氏
えちごトキめき鉄道株式会社 運輸部長(安全統括管理者)

 こうしたハード・ソフト両面の工夫により、快適空間が生まれる。
 同社によると、10回以上乗車したリピーターが何人もいるという。そのファンの存在が、雪月花の空間の心地よさを物語っている。

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専属車掌は地域を知り尽くし、軽妙な語りで見どころなどをアナウンスしてくれる

掲載内容は、2020年11月までに取材したものです。

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