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東北に生きる。<br>鳥たちと分かつ伊豆沼の価値

宮城県の登米市と栗原市をまたぐ伊豆沼は、東北最大の低地湖沼。全面結氷せず、多様な生物相を育んでいるなど、水鳥が越冬しやすい環境が整っているため、白鳥やガン類の全国有数の飛来スポットになっている

東北に生きる。
鳥たちと分かつ伊豆沼の価値

土地に根づき、毎日を営む──。東北の文化を記憶する写真家、奥山淳志のフォトエッセー。

 金色に揺れていた稲穂が刈られ、田園が秋の静けさに包まれる頃、伊豆沼は目覚めるようににぎやかになっていく。水鳥たちが沼に降り立つからだ。多数の水生植物が繁茂する沼の環境は、鳥たちのサンクチュアリなのだ。
 しかし、この伊豆沼とともに暮らしているのは鳥たちだけではない。伊豆沼はかんがい用水としてはもちろんのこと、茅刈り場や沼エビの漁場として土地の生活に結び付いてきた。時代の中で開発が進められることもあったが、人々は沼と共に生きることを選択してきた。
 早朝、地平線からのぞく紅色の太陽を合図に鳥たちは一斉に飛び立つ。その瞬間、水面全体が揺れ、水しぶきが舞う。まさに沼が沸き立つようだ。
 鳥たちは春を迎えるまで、周囲の田園で落ち穂を拾って、1日を過ごし、夕暮れとともにまた沼に帰ってくる。空を飛ぶ鳥たちにとって、伊豆沼は大地の広がりに見開かれた美しい瞳にも思えるのかもしれない。
 伊豆沼は鳥と人がともに生きていけることを物語ろうとしている。



奥山 淳志 おくやま・あつし
写真家
1972年大阪生まれ。出版社勤務後、98年に岩手県雫石町に移住。以降、写真家として活動を開始し、雑誌を中心に北東北の風土や文化を発表する。2015年の伊奈信男賞をはじめ、日本写真協会賞新人賞、写真の町東川賞特別作家賞などを受賞。主な著作に『庭とエスキース』(みすず書房)など。
https://atsushi-okuyama.com

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