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日本の「ジビエ」をリードする<br>JR東日本グループと長野の取り組み<br>信州ジビエのチカラ(後編)

2013年の「信州ジビエ 鹿肉バーガー」(写真左)発売以来、毎年定番の期間限定商品となったジビエ鹿肉バーガー。サワークリームソースの酸味がアクセントのバーガー(2017年・写真中央)や、信州産あわび茸をトッピングする(2018年・写真右)など、「信州ジビエ ザ★鹿肉バーガー」として進化を続ける

日本の「ジビエ」をリードする
JR東日本グループと長野の取り組み
信州ジビエのチカラ(後編)

「地域再発見プロジェクト」の一環で、積極的にジビエのメニュー開発・販売をおこなうJR東日本グループ。そして、良質なジビエの安定的な供給体制を構築し、「信州ジビエ」ブランドを立ち上げた長野県。ジビエ振興の一翼を担う取り組みを紹介する。

 近年、ジビエの消費量は急激に増えている。農林水産省の「野生鳥獣資源利用実態調査」によると、2018年度の野生鳥獣のジビエ利用量は、1887tと前年より15.8%増加。17年度も前年比で27%増えている。これは個人店に加えて、大手外食チェーンがメニューに加え始めたことが要因の一つといえるだろう。
 JR東日本グループでは09年から「地域再発見プロジェクト」に取り組んでいる。鉄道ネットワークや首都圏での販路などを生かして、地産商品の掘り起こしや、観光資源の紹介などの地域活性化を進めるプロジェクトだ。その一環でジビエ振興にも乗り出している。
 「当社も、以前から鹿との衝突による輸送障害に悩まされていました。そこに藤木シェフ(ジビエのチカラ(前編)参照)から、ジビエの利活用をご提案していただいたことで、これなら地域活性化につながり、かつ当社にもメリットがあると考えたのです」と、JR東日本事業創造本部新事業・地域活性化部門地域活性化グループの清水理三郎課長は話す。

信州ジビエ鹿肉バーガーがヒットし、累計10万食を販売

 この流れで、10年からジビエのメニュー開発に取り組み始めたのが、日本レストランエンタプライズとジェイアール東日本フードビジネス(現・JR東日本フーズ)だ。「社内に鹿肉を食べた経験がある人が少なく、『それ、美味しいの?』と半信半疑。藤木シェフの助けを借り、手探りで商品開発を始めました」とJR東日本フーズ外食事業本部ベッカーズ営業部の森大祐部長は振り返る。
 駅弁は冷めた状態で提供するため、鹿肉のうま味が消える。ホットドッグにすると肉の鉄分で真っ黒なソーセージに......。試行錯誤を続け、鹿肉入りカレーを、東京駅や上野駅などのカフェやレストラン3店舗でテスト販売すると、予測を超える販売実績を記録した。

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JR東日本事業創造本部新事業・地域活性化部門地域活性化グループの清水理三郎課長(左)/JR東日本フーズ外食事業本部ベッカーズ営業部の森大祐部長(中央)/同商品戦略部企画・商品開発グループの時田晃一郎サブマネージャー(右)

 手応えを感じた開発チームが次に送り出したのが、ハンバーガーレストラン・ベッカーズの「信州ジビエ鹿肉バーガー」。鹿肉のうま味たっぷりの分厚いミートパティと、ソテーした旬のマッシュルーム。オリジナルのデミソースに、鹿ダシと赤ワインの効いたペーストを練り込んだジビエソースを用意した。
 「『鹿肉の野生味を生かしつつ、食べやすくするには?』を追求。味のブレが少ないすね肉を使い、豚の背脂を少し混ぜることで、滑らかな口当たりを実現しました」と開発担当者の一人である、 同社商品戦略部企画・商品開発グループの時田晃一郎サブマネージャーは胸を張る。これが予想を大幅に上回る反響を呼んだ。13年に発売すると、用意した8千食が1カ月を待たずに完売。以来、毎年定番の期間限定メニューとなり、累計で10万食以上を販売した。
 「開始から数年間は鹿肉の調達に苦労しました。家畜ではなく、野生の生き物なので、猟師さんも確実に捕れるわけではありません。販売の1年以上前から計画を立てて、藤木シェフを通じて早めに発注することで欠品がなくなりました」(時田サブマネージャー)
 「秋になると、『ベッカーズのジビエバーガー、食べたい!』とSNSに書き込みが増えてきます。そのことを知り、猟師さんも喜んでいるようです。『今まで厄介者だったものが、お客さまが待ち望むものになった』と」(清水課長)
 今年8月からは東京駅に新規オープンした「THE BEAT DINER」で、ジビエバーガーを発売開始。こちらは通年で食べられる。
 「ジビエの活用は社会的意義もありますが、お客さまに意識せず、気軽に食べていただきたい。ジビエを少しでも知ってもらうきっかけをつくることが、役目だと考えています」(森部長)

「TRAIN SUITE 四季島」のジビエ料理

 一方、JR東日本ホテルズのホテルメトロポリタン長野でも、ジビエメニューを提供している。
 「長野県の信州ジビエマイスター養成講座で、鳥獣害について学び、猟師さんに苦労や思いを聞き、食肉処理施設で鹿肉を解体し、枝肉をさばくところまでを体験しました。鳥獣害を防ぐサイクルの中で、料理人の役割は非常に重要。料理の味こそがジビエの印象を大きく左右するので、半端な気持ちでできない、と引き締まりました」と上海(じょうかい)正博総料理長は話す。

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クルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島」
姨捨ラウンジ「更級の月」で出されるジビエを使った料理

 16年から任されているのは、クルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島」で供されるジビエ料理。春〜秋の1泊2日コースの初日の最後に立ち寄る「四季島」専用ラウンジ「更級(さらしな)の月」で、日本三大車窓の一つとされる善光寺平の夜景を眺めながら、お酒と共に楽しむさかなの品々。メニューを考案し、調理まで担当する。ジビエに関しては、適度に火を入れ軟らかく仕上げた信州産の鹿肉と、コクのある信州産チーズのみそ漬け、甘酸っぱいアンズのピクルスをピックでひとまとめに。信州鬼無里の名産、えごまを軽く炒ってまとわせ、絶妙なハーモニーを作り上げた。
 「あくまで酒のさかななので、ほんの一口、二口の鹿肉で、ジビエの存在感を表現しなければならない。とはいえ、鹿肉の個性を消し過ぎてしまうと、鹿肉でなくてよい、となるので、バランスを取るのに苦心しました。肉の大きさや火入れの温度や時間、何十種類もの材料を混ぜたタレの調合......。どれも一つ間違えると、全体のバランスが崩れるので、納得がいくまで試行錯誤を繰り返しました」(上海総料理長)
 その苦労のかいもあり、「臭みもなく、軟らかくておいしい」とお客さまから好評を博しているという。

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鹿肉を調理するホテルメトロポリタン長野の上海正博総料理長

 他にも、16~17年に、JR東日本グループのホテルやレストランで開催された「信州ジビエフェア」で、和洋中全てのレストランで信州ジビエの素材を生かした料理を提供したり、お客さまのご要望に応じて、信州ジビエをメニューに取り入れたりしている。さらに、調理師会主催の料理教室で講師を担当し、ジビエ料理も数多く紹介している。
 「信州のジビエを普及させるには、一般家庭への働き掛けも重要。鹿肉は栄養価が高くて他の肉より優れた部分があり、扱い方を伝えれば、広まる可能性があります。料理を提供するだけでなく、啓蒙の面でも貢献していきたいと考えています」(上海総料理長)

捕獲・加工体制の整備も進む

 ジビエの消費を増やすには、販路の拡大だけでなく、良質なジビエを安定的に供給できる体制作りも不可欠だ。従来は、捕獲をする猟師や食肉を処理加工する施設が連携しておらず、処理方法も自己流であることが少なくなかった。そこで農林水産省は、18年に7つのエリアをモデル地区に指定(現在は17エリア)。捕獲から搬送・処理加工までを一体とし、決められた方法で衛生的に食肉を処理・管理する仕組みを整備する事業を開始した。そのモデル地区の一つが長野県長野市で、供給体制を整備するに当たり、19年に立ち上げられたのが、長野市ジビエ加工センター。330㎡の建物に洗浄や解体、熟成、処理などの専用室を設け、冷凍室も完備。国産ジビエ認証と信州産シカ肉処理施設認証を受け、衛生管理の行き届いた環境で、適切な処理が行われている。処理したジビエはと体ごとに認識番号を付し、トレーサビリティーを確保。内容は、市のジビエ情報公開サイトで確認できる。また、捕獲・処理した全てのと体に対し、放射性物質の測定も行っている。

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長野市ジビエ加工センターでは、届けられた鹿や猪を解体。正肉に加工している

 「初年度の目標は、鹿と猪合わせて千頭を受け入れて加工処理することでしたが、鹿521頭・猪601頭の計1122頭の受け入れができました」とジビエ加工センターの清水弘巳所長は話す。
 加工センターで処理されたジビエを売るために、県や市は営業体制を強化している。県では「信州ジビエ」というブランドを立ち上げ、信州ジビエ衛生管理ガイドライン・信州ジビエ衛生マニュアルの策定や信州ジビエマイスターの養成など、先駆的な取り組みを行ってきた。昨年度には各部局の営業機能を統合した営業局を設置。
 「ジビエ単体ではなく、ワインや果物と一緒に売り込むことが可能になりました」と県林務部鳥獣対策・ジビエ振興室の山城政利課長補佐は語る。市も農林部いのしか対策課が、市内の飲食店や道の駅に営業をかけることで、市内のあちこちでジビエが楽しめるようになった。ホテルメトロポリタン長野も加工センターの肉を使っている。

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山城 政利氏
長野県林務部鳥獣対策・
ジビエ振興室 課長補佐

清水 弘巳氏
長野市ジビエ加工センター
所長

 このように捕獲から処理、消費までのスムーズな流れができれば、ジビエの消費量は増え、鳥獣害対策も進む。最近、ジビエに注目が集まる背景には、多くの人たちの獣害対策や地域活性化、新たな食文化への思いがあった。

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長野市が所有する「ジビエカー」。捕獲後、現地で処理できる設備を持った特注車だ

長野市内で気軽に楽しめる「ジビエ」3選

 2019年に新設された、長野市ジビエ加工センターのジビエを使った商品が出始めている。その中でも、特に話題の商品を紹介する。


道の駅・信州新町 「鹿肉ジンギスカン」

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にんにくやレモンなどの味を付けた鹿肉ジンギスカンを開発し、今年5月より販売。するとコロナ禍で観光客が少ないにもかかわらず、「土日に入荷しては完売する状況が1カ月続きました」と施設を管理・運営する株式会社信州新町地場産業開発機構代表・小林久一さん。
お問い合わせ:026-262-2228


道の駅・中条 「ジビエおやき」

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イノシシ肉を信州みそで味付けしたモチモチ食感のおやきを5月から販売すると、3カ月弱で1080個と人気に。「予想を超えるペース。間違いなく地元の文化になります」と、施設を管理・運営する長野市中条地域振興施設地域統括・下内光雄さん。
お問い合わせ:026-267-2188


やきもち家 「ジビエ鍋」

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古民家を移築して生まれた宿・やきもち家では、通年で長野市ジビエ加工センターで処理された肉を使用したジビエ鍋を提供している。「イノシシに苦手意識があったけど食べやすい、と地域の方にもお褒めの言葉をいただいています」と施設の指定管理者であるeternal story株式会社総合マネージャー・立神康之さん。
お問い合わせ:026-267-2641

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