JR東日本:and E

CBMで目指すスマートメンテナンス<br>人口減少社会に挑む鉄道技術(後編)

山手線新型車両(E235系)などの営業車両に、CBM用機器が搭載されている

CBMで目指すスマートメンテナンス
人口減少社会に挑む鉄道技術(後編)

少子高齢化による労働力不足が、ますます深刻化することが確実視されている。そんな中、さまざまな業界で外国人労働者や女性・高齢者の活用、ICTなどの新技術を用いて、労働力不足を補うことを模索、実施している。JR東日本においては、特にICTに着目。使命とする「安全・安心な輸送」を最小限の人員で、かつ、より精度の高いものにしようと、さまざまな取り組みを行っている。

人とシステムのベストミックスを目指す
― スマートメンテナンスの最先端 ―

 「技術革新中長期ビジョン」のもと、JR東日本では実際にどのような取り組みが行われているのか。その現状、技術を紹介する。
 レールや架線といった鉄道設備のメンテナンスは、検査、判定、修繕計画の作成、修繕の実施、結果の確認・評価、というプロセスで行われる。従来はこれら一連の作業の多くを「人」が担ってきた。だが労働力不足が深刻になる中で、JR東日本では鉄道メンテナンスのあり方に対する抜本的な改革に着手している。
 JR東日本において線路設備のメンテナンスを担当する鉄道事業本部設備部次長の原田彰久は、「労働力不足への対応として、大きく二つの方向性がある」と語る。
 「一つは、線路設備の強化。あまりメンテナンスがいらないものへと線路設備を変えていけば、そこに多くの人員を割かなくても済むようになります。もう一つは、スマートメンテナンスの推進によって、メンテナンスのやり方そのものを変えていくことです」

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原田 彰久
JR東日本 鉄道事業本部 設備部 次長

 まず線路設備の強化だが、例えばJR東日本では1997年より、首都圏において線路構造を従来のバラスト軌道から、TC型省力化軌道と呼ばれる省メンテナンス軌道へと更新している。バラスト軌道とは、路盤に砕石を敷き、その上に枕木を並べてレールを敷くという昔ながらの手法だ。列車の走行時の荷重により、道床の沈下や軌道のゆがみが生じやすくなるため、きめ細かいメンテナンスが欠かせない。
 これに対して、JR東日本研究開発センターのテクニカルセンター(TC)で開発したTC型省力化軌道は、道床部分をセメント系てん充材で固めて枕木と道床が一体化しているため、バラスト軌道と比べて強固である分、メンテナンスの回数を大きく減らすことができる。

CBMの導入でコストと人手を大幅に縮減

 一方、スマートメンテナンスの推進では、T‌B‌M(Time Based Maintenance=時間基準保全)からC‌B‌M(Condition Based Maintenance=状態基準保全)への転換が図られようとしている。
 TBMとは、線路設備ごとに周期を決めて、技術者が定期的に検査を実施。そこで軌道のゆがみや材料の劣化など、設備に一定の基準を超える異常が確認されたときには、修繕を行うというものだ。TBMでは検査の回数が限られるため、設備の状態が限界値を超過することがないように、ある程度余裕をもって基準を設定しているが、局所的に設備の劣化が急速に進む場合には、事後保全となってしまうこともある。

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 一方、CBMでは、線路設備のデータを自動的かつ継続的に取得することにより状態を正確に把握できるだけでなく、取得した大量のデータを分析することにより設備の劣化を予測することもできるため、設備の状態が限界値を超える前に最適なタイミングでのメンテナンスが可能となる。これにより、トータルのメンテナンス費用を削減することができる。
 さらには、センサーやカメラを用いたCBMであれば、検査や点検に必要だった人手を大幅に縮減できるほか、人手を介して行う場合と比べて、見落としのリスクについても大きく低減させることができる。
 CBMの開発に携わってきたJR東日本研究開発センターテクニカルセンター所長の遠見一之は、次のように語る。
 「CBMの考え方を検討しはじめたのは2007年のことです。当時メンテナンスに関しては、人手不足の問題だけではなく、コストダウンと信頼性の向上の両立をいかに実現するかが課題とされており、その解決策がCBMでした。いきなりすべてのメンテナンスをTBMからCBMへと変えていくことは不可能ですから、技術的に可能なところから少しずつ転換を図っているところです」

営業列車の床下にモニタリング装置を設置

 CBMの一例としては、18年に本格導入した「線路設備モニタリング装置」が挙げられる。
 これは営業列車の床下に、軌道変位モニタリング装置と軌道材料モニタリング装置を搭載。軌道変位モニタリング装置では、レールにレーザーを照射して線路のゆがみを測定する。
 また、軌道材料モニタリング装置は、レールと枕木を固定するレール締結装置や、レールとレールをつなぐ継目板ボルトの状態などをカメラで撮影して、データを取得するというものだ。

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 こうした軌道や部材の点検作業は、これまで技術者が徒歩により実施してきた。列車本数が多くレールや部材の劣化が著しい路線によっては、毎週点検が行われていたところもあった。
 しかし、このシステムを用いれば、営業列車に搭載された装置が自動的に測定や撮影を行うので、従来の点検周期を大幅に延伸することができる。しかも、例えば山手線であれば、約1時間で1周するため、1時間に1回という高頻度でデータを取得することが可能になる。
 JR東日本では現在、38線区で線路設備モニタリング装置を導入済みであり、20年度末までには導入路線を50線区に拡大する予定だ。これはJR東日本の在来線線路延長の約70%にあたる数値だ。
 設備部次長の原田は、線路設備モニタリング装置が導入されたことで、「より細かいデータの入手が可能になった」と語る。
 「線路や路盤の状態は、場所によって大きく異なってきますが、線路設備モニタリング装置であれば、数十㎝ごとに線路のゆがみを測定し、連続的に部材の劣化状況を確認できるため、本当に修繕が必要な場所をピンポイントで把握できます」
 この線路設備モニタリング装置は、在来線だけでなく新幹線においても導入が予定されている。ただし、新幹線の営業列車は最高速度3‌2‌0㎞で走行するため、ここに装置をつけても測定や撮影は難しい。そこで装置を搭載した専用保守用車「SMART-i」を新たに導入し、新幹線が運行していない夜間に点検に当たらせるとしている。J‌R東日本では20年度中に運用に向けた試験を行い、機能仕様を決める計画だ。

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 また架線については、「架線設備モニタリングシステム」を開発。21年度より在来線への導入を予定している。これは電気・軌道総合検測車(East-i)に搭載したカメラで電線や架線金具を撮影。架線や金具の状態をA‌Iが判定し、架線の劣化や金具に変形が見られると判定された場合に修繕を行うというものだ。現状では電力係員が、終電後の夜間に高所作業車を用いて現地で確認を行っているが、導入後はこの作業が不要になる。なお列車本数の多い首都圏線区では、営業列車を使用したモニタリングも検討されている。

線路の安全への責任は今後も人が担い続ける

 ただし、どんなにIoTやAIを活用することによって省人化を進めていったとしても、鉄道設備のメンテナンスを完全にシステムに任せきってしまうのは、技術的にも、あるいはコスト面や安全面を考えても現実的ではない。JR東日本研究開発センターテクニカルセンター所長の遠見は、今後のメンテナンスのあるべき姿について、次のように話す。

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遠見 一之
JR東日本研究開発センター
テクニカルセンター 所長

 「私たちがここまで進めてきたのは、IoTやAIを用いて、さまざまな鉄道設備の状態を常態監視に近い環境でモニタリングすることでした。その結果、膨大なデータが手元にあがってくるようになりました。次に目指しているのは、その膨大なデータを基に、『この場所のこの装置が限界値に達するのは何日後になる』といった解析を自動的に行ってくれるユニットを開発することです。ただし解析結果に基づいて、実際に修繕工事をするかどうかを最終的に判断するのは人の仕事です。線路の安全に対して責任を持てるのは、人間ですからね」
 JR東日本研究開発センター次長の河田は、スマートメンテナンスの時代に求められる人材像について語る。
 「AIは相関関係の抽出は得意ですが、何が原因でその問題が起きたかという因果関係を明らかにすることはできません。鉄道に関わる人間は、従来のように知識と経験を頼りにするだけでなく、AIが示した解析結果を基に、因果関係を考えられる力が求められるようになると思います」
 予測される大幅な生産年齢人口の減少への対策を整えながら、今後は、さらに技術革新を進めるとともに、それを運用する人材の育成がポイントとなる。技術と人。JR東日本は、その両輪で「究極の安全」を目指していく。

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JR東日本研究開発センターの河田次長(左)と遠見所長(右)

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