JR東日本:and E

労働市場の今と未来<br>人口減少社会に挑む鉄道技術(前編)

労働市場の今と未来
人口減少社会に挑む鉄道技術(前編)

少子高齢化による労働力不足が、ますます深刻化することが確実視されている。そんな中、さまざまな業界で外国人労働者や女性・高齢者の活用、ICTなどの新技術を用いて、労働力不足を補うことを模索、実施している。JR東日本においては、特にICTに着目。使命とする「安全・安心な輸送」を最小限の人員で、かつ、より精度の高いものにしようと、さまざまな取り組みを行っている。

労働力不足を乗り越える
最大の一手はテクノロジーの導入にある

 人口減少に伴う労働力不足に対して、企業はどのように立ち向かえばよいのか。労働経済学などを専門とする中央大学の阿部正浩教授に、その方策を聞いた。

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阿部正浩 あべ・まさひろ
中央大学経済学部教授
1966年福島県生まれ。獨協大学経済学部助教授などを経て、2013年から現職。厚生労働省「労働政策審議会」委員などを歴任。著作に第49回(2006年度)日経・経済図書文化賞および第29回(2006年度)労働関係図書優秀賞受賞の『日本経済の環境変化と労働市場』(東洋経済新報社)などがある。

 2018年、パーソル総合研究所との共同研究「労働市場の未来推計2030」(以下、「未来推計」)において、「日本の労働力は、30年には644万人不足する」という推計を出しました。その際、産業別では、サービス業や医療・福祉など、今後高い成長が見込まれる業種ほど、労働力不足がより深刻になると予測しています。
 現在、新型コロナウイルスの感染拡大によって経済が減速したことで、経済成長率の見通しは不透明になっています。そのため644万人という数値は、必ずしも妥当なものではなくなってきています。とはいえ正確な人数は別として、労働力不足の問題は、今後も避けられない課題であることは変わりません。
 労働力不足を解決するための方策は、労働需要を減らすか、労働供給を増やすしかありません。このうち労働需要を減らすためには、AIやRPAといったテクノロジーをどこまで職場に浸透させられるかがカギとなります。実は「未来推計」では、テクノロジーが労働需要に与える影響については考慮に入れていません。ですから、その浸透次第では、644万人と予測したうちのかなりの部分が、テクノロジーによって代替できる可能性があります。

*Robotic Process Automationの略。ロボットによる業務自動化

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※パーソル総合研究所と阿部教授の共同研究「労働市場の未来推計2030」より作成。数字は概算

心理的な抵抗感がテクノロジーの浸透を阻む

 「未来推計」の中で、より深刻な労働力不足になると予測したサービス業や医療・福祉は、典型的な労働集約型産業でもあり、今後はそこからの脱却が求められます。
 サービス業の中でも飲食については、省人化のためのさまざまな取り組みが行われてきました。加えて、今回の新型コロナウイルスの影響で、店員を介さずに端末でメニューを注文できるなど、非接触型のサービスを取り入れる動きが進んでいます。おそらく飲食をはじめとしたサービス業の姿は、今後大きく変わっていくことでしょう。
 ちなみに鉄道業についても、巨大なインフラの保守管理や、駅施設などでの顧客対応のために、多くの人員が必要になる労働集約型の産業というイメージがあります。ところが、1980年には約51万8千人いた鉄道業の従事者数は、2015年には約22万3千人と半減しています。一方で人ベースの鉄道旅客輸送量は当時よりも増えていますから、市場規模は拡大しているのに、従事者は減っていることになります。
 これは鉄道業が、これまで人が担ってきた部分を、テクノロジーの導入によって随時機械に置き換えていったことで、実現できたものではないかと考えられます。鉄道業については、労働集約型産業からの脱皮に長い年月をかけて取り組んできているわけです。
 新たなテクノロジーの導入にあたっては、当然コストがかかります。その際に「AIやRPAを導入するよりも、現状では人手を使って仕事をしたほうが安い」と判断されれば、その分テクノロジーの浸透は遅れることになります。

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 ただし私は、テクノロジーの浸透を阻む一番の要因は、コスト面ではなく、心理的な抵抗感ではないかと考えています。AIやRPAを職場に取り入れた際には、業務フローを見直す必要が生じるなど、最初のうちはいろいろと面倒なことが起きます。「だったら今のやり方のままでいい」という意識が働き、改革が進まないということになりがちなのです。

女性とシニア層の労働市場への参加を促す

 労働力不足を解決するためのもう一つの方法は、労働供給を増やすことです。具体的には、女性やシニア層の労働市場への参加を促すことが求められます。
 女性やシニア層に加えて、さらに労働供給を増やすためには、外国人労働者を増やすという手段も考えられます。しかし私は、この選択には否定的です。安易に外国人労働者に頼ると、テクノロジーの導入によって省人化に努め、生産性を向上させようという意欲がそがれてしまうからです。
 外国人労働者の受け入れは、一時的な対策にはなっても、抜本的な解決にはつながりません。私は労働力不足を乗り越える最も重要な一手は、テクノロジーの導入にあると考えています。

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